第八章十九節 連去

 その頃。

 リラは、工房へ侵入する者の存在を探知していた。


「来客でしょうか……? それにしては、妙ですね。見慣れた者ではありませんし、魔導騎士ベルムバンツェが訪れるというのも聞いておりませんが……」


 二階の窓から顔を覗かせ、様子を窺う。

 と、魔導騎士ベルムバンツェが加速した。


「まさか、私に気づいた……? ですが、工房を壊すつもりならば……!」


 リラは構わず、格納庫に向かって走る。

 だが、途中で眼前に剣を突き付けられた。


「動かないでもらいたい。リラ殿」

「その声……ヘルムフリート侯爵ですね。グライス家の当主が、何故ここに?」

「貴女の力が必要だ。来てもらう」

「拒否した場合は?」

「力づくでも来てもらう。貴女のOrakelオラケルといえど、このDragnaughtドラグノートに打ち勝つのは容易ではない」


 それを聞いて、リラは拳を握り込む。

 いかな魔術の達人といえるリラであれど、生身で魔導騎士ベルムバンツェを相手取るのは危険が大きすぎた。


「やむを得ません。従いましょう」

「賢明な判断に感謝する。その前に、これを置いておかねばな」


 胸部装甲が展開し、何かが投げられる。

 リラは警戒したが、まったく無関係の方向に投げられていた。魔術で誘導され、玄関扉の隙間に落ちる。


「今のは手紙だ。だが、貴女に宛てたものではない」

「分かりました。では、案内を」




 右手のひらにリラを乗せたDragnaughtドラグノートは、胸部装甲を閉じるとどこかへと去っていった……。

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