第八章十七節 救助

「クソッ、なんておぞましいもんを……!」


 ノートレイアは毒づきながら、一度態勢を立て直す。

 仕事柄、常人であれば目を背けたくなるようなものを何度も見てきた彼女であるが、今回のソレは輪をかけて惨たらしいものであった。


「あんなもんで、人間と魔導騎士ベルムバンツェを繋げて……強引に強化しようってのかい!? ッ!」


 毒づくノートレイア目掛けて、光弾が立て続けに飛来してくる。

 ノートレイアは咄嗟に防いだが、見た目だけでない敵の厄介さを味わっていた。


(二連続で同じ場所に……! 盾でなきゃまずかったねぇ……!)


 迂闊に剣で斬り払っていたら、無防備な状態で一発受けていたであろう。Asrifelアズリフェル・_Violettiaヴィオレティアの耐久力であれば光弾程度は何ともないものの、確実に人間の隙を突いてくる戦術に、ノートレイアは警戒心を強めていた。


(もしやグライス家の連中は、軍備の研究を……? だとしても、悪趣味極まりないってんだよ。あんな人柱ひとばしらみたいな真似、加えて異世界からの人攫いだなんてね)


 と、後ろから複数の巨大な足音が響く。

 紫焔騎士団のBispeerldビースペールトだ。


「遅れました! 加勢します!」

「……待ちな。ここはあたし一人で引き受けようじゃないか」

「ですが……!」


 なおも食って掛かる団員に、ノートレイアは容赦無く告げた。


「行くんだよ! これ相手にあんたらの機体じゃ、足手まといなんだ!」

「ッ、了解……!」


 Bispeerldビースペールトが後退していく。


(そうだ。これはあんたらにゃ目に毒さ)


 ノートレイアは意識を目の前の敵機に向け、愛機に盾を構えさせた。


(あんなおぞましい事をしただけあって、並の使い手よりはるかに強い敵になってやがる。どういうカラクリかは分からんけどね。なら――手段は一つ)


 つかを逆手に持って背中で隠しながら、黒い結晶を伸ばして剣と為す。

 素早く前に出すと、腰の近くで構えた。


(遠くから胴体部以外をもぐだけだ)


 そしてそのまま、光線ビームを大出力で放とうとし――


『コロ、シテ…………』

(!?)


 ノートレイアの耳に、声が響く。


『オネ、ガイ……。コロ、シテ…………』


 声は、目の前のHarfareysハルファレイスから発されていた。

 苦痛に満ちた、声だ。


『オネ、ガイ……』


 さらに懇願する声を聞きながら、ノートレイアは激しく毒づく。


「不愉快だってんだよ、グライス家……いや、ヘルムフリート・ベルリ・グライス!」


 やがて、剣先をスッとHarfareysハルファレイスの胸部に向けた。


「今楽にしてやる。辛かったろうに」




 覚悟を決めたノートレイアは、管に繋がれた人間だけを光線ビームで撃ち貫いた……。

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