第七章十五節 陽動

 さしたる罠も無く無事に階段を上った二人は、二階に侵入者がいると予測していた。

 二階は案の定罠だらけだったが、ノートレイアが全て冷静に無力化する。侵入者と鉢合わせる事は、まだなかった。


「リラ殿、あんたの部屋はどの辺りだい?」

「この先です」


 西側最奥に位置するリラの部屋は、ひときわ広いものであった。

 とはいえ出入口は鍵のある扉が一枚だけで、逃走経路としてもやや小ぶりの窓が数枚あるだけだ。それも十字型の木枠があり、おまけにリラの魔術で十分な強化を施されているので、破壊して逃げるのも困難である。


「急ぎましょう」

「ああ」


 二人はリラの部屋に繋がる廊下へと、足を踏み出す。

 やはり罠は無く、そのうえ敵の気配も捉えられなかった。


「私の部屋ですね」

「待ちな。あたしならドアノブや鍵穴に…………いや、大丈夫そうだ」


 ノートレイアのお墨付きを貰い、リラが自室の鍵を開ける。


「開けます」


 一声置いてから、一気に開け放つ。

 が――リラの自室には、一切の異常が見受けられなかった。


「……どういう事でしょうか? 侵入者の狙いは、私の持つ機密書類なのでは? 鍵も掛かっていましたし」

「さぁね。ともあれ、机とかも見ときな。誰も侵入した痕跡が無いとはいえ、もしかしたらって場合もあるから。あと、違和感を感じたら教えてくんな」

「分かりました」


 リラは慎重に、引き出しを開ける。機密書類をしまっていたところはもちろん、直接的には無関係な場所まで、全て余さず開けて中を確かめた。


「大丈夫です。荒らされた痕跡は、まったくありません」

「なら良かっ……」


 ノートレイアが返そうとしたその時、強烈な振動を感じる。


「まさか、御子みこ様が!?」

「いえ、格納庫を!」


 リラの言葉通り、格納庫に異常があった。

 内部から、3台の魔導騎士ベルムバンツェが出てきたのである。


「そういう事でしたか……。屋敷の潜入は陽動で、本命は格納庫のBladブラドだったのですね」

「あんな旧式モノを?」


 ノートレイアの疑問に、リラが頷いた。


「ええ。私達を陽動して、その間に機体を奪取する。狙うは、私達の命なのでしょうね」


 リラは素早く窓を開けると、Asrionアズリオンに向けて全力で叫んだ。




「気を付けて下さい、シュランメルト! 格納庫にいる機体が奪取されて、私達を襲うかもしれません!」

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