第六章十四節 合流

「貴様が指揮官か」


 シュランメルトが突破した先には、フードを被った男がいた。

 男は動じず、淡々と答える。


「仮にそうだとして、どうするつもりだ?」

「詮無い事を聞くものだな。取る手段は一つだけだ」


 言い終えると同時に、シュランメルトは一気に距離を詰める。

 そして男に盾を勢いよく叩きつけ、宙に放り出した。男は不安定な体勢で、受け身を取る暇も無く地面に叩きつけられる。


「2階建ての建物ならばぎりぎり大丈夫だろう。手荒な真似をさせてもらったが、これも貴様らグライス家の目的を聞くためだ」

「う……」


 シュランメルトの言葉通り、男はまだ生きていた。


「ベルリール城で治療させてやる。貴様の知っている事を吐け」

「っ、ふふ……」

「何がおかしい?」


 何故か余裕の笑みを浮かべる男に、シュランメルトは訝しんだ。


「いかにリラ工房とて、魔導騎士ベルムバンツェに襲われては……ひとたまりも、あるまい……」


 その言葉を聞いて、シュランメルトは嫌な予感を抱える。

 と、視界にぼんやりとした陽炎のようなものが映った。


「まさか、貴様ら……!」

「そのまさか、さ……。早く行かないと、まずい事になるぞ……?」

「ぐっ、やむを得ん……!」


 シュランメルトは男を突き放すと、開けた場所へと一目散に向かった。


     *


「リリア達だ! おーい、ボクだよー!」

「パトリツィアさん!」


 その頃、二手に分かれたリリア達は、神殿騎士団の助力を得てどうにか合流していた。


「団長! ご無事で何よりです!」

「ご苦労、オティーリエ。アサギも無事なようだな」


 神殿騎士団も、メンバー四人が揃う。


「タケル、大丈夫だった!?」

「うん。神殿騎士団の人達が守ってくれたから」

「良かった……!」

「いや、良くない! 何か、聞こえる!」


 安堵しつつある空気に異を唱えたのは、リンカだった。

 狐の耳を持つ彼女は、並の人間以上に耳が利く。


「これ、魔導騎士ベルムバンツェの足音じゃ……なっ、あのモヤっとしたもの!?」


 リンカは両耳と尻尾をぞわりと逆立たせる。


「リンカ! ひょっとして、あれ、僕達が行きがけに見たやつじゃ……!?」

「ッ、光弾の発射兆候――! まさか、私達まとめて吹き飛ばすつもり!?」


 リリアが叫ぶと同時に、光弾が放たれる。

 しかし光弾は、リリア達には命中しない。付近の建物に命中し、外壁の一部を吹き飛ばした。


「外れた……」

「違う、わざと外したんだ! こいつら、いったい何をするつもりだ!?」

「静かにしてっ! ッ、足音がいくつも……!」

「囲まれ、ましたの……!?」


 フィーレが叫ぶと同時に、タケル達の周囲にはもやが広がる。

 360度周囲を見回しても、もやの無い場所は無かった。


「これは……生身では、どうしようもありませんね」


 リラが前々から抱いていた予感を口にする。

 が、それを即座に否定する者がいた。


「そうかもね、リラ。けど、もうすぐ包囲は崩れるはずだよ」


 と、呟いた直後。


『ぐあっ!? は、放せ――』


 もやから悲鳴が聞こえる。

 その直後、漆黒の貫手ぬきてが、血しぶきと共に現れた。


『貴様ら』


 また別の声が響く。


『貴様ら……。おれの友人達に、いったい何をしている……!』




 声の主は――Asrionアズリオンに搭乗していたシュランメルトであった。

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