第六章六節 聞取

「お願いします」


 シャインハイルは、玉座の間の番人である王室親衛隊員二人に短く告げる。


「「御意」」


 二人が同時に扉の両脇にある結晶に触れると、轟音を立ててゆっくりと開いた。

 扉が最後まで開ききってから、一同は玉座の間内部へと立ち入る。

 そこには――


御子みこ様、そして異世界よりいらしてくれた皆様、お待ちしておりました。私がベルグリーズ王国現国王、グロスレーベ・メーア・ベルグリーズでございます」


 玉座の間の主、そしてベルグリーズ王国が現国王、グロスレーベ・メーア・ベルグリーズが立ち上がって、一同を迎えた。


「グロスレーベ、よくやってくれた。昨日の夜という急な連絡にもかかわらず、よく、タケル達を受け入れてくれた」

「いえ、御子みこ様。御子様の為でしたら、造作も無い事でございます」


 いつも通りのやり取りを交わす二人。

 だが、タケル達にとっては、信じられないものであった。


「え、ちょ、シュランメルトさん!?」


 思わず最初に声を上げたのは、タケルである。


おれか? どうした?」

「どうしたも何も、あの、相手は国王陛下じゃ……」

「そうだが?」


 しれっと返すシュランメルトに、タケル達はいまだ困惑していた。

 リリアが恐る恐る、タケルの代わりに質問する。


「あ、あの、どうしてそういう口調で……」

「ああ、そういう事か。簡単だ。おれは敬語を使えないし、使う必要も無いからだ」

「使う必要も無いって……」


 リンカが突っ込みを入れたタイミングで、グロスレーベが説明する。


「その通りです。御子みこ様は、我々王族よりも貴き存在であらせられます」

「というワケだ。そう言えば、まだおれの通称を教えていなかったな。“守護神の御子”、一般の者からはそう呼ばれている」


 その説明を聞いた段階で、タケル達は茫然と、しかし同時に心のどこかで納得していた。


「グロスレーベ、案内してやれ。挨拶はそろそろ十分だろう」

「はっ、かしこまりました。では、皆様こちらへ」


 シュランメルト達はグロスレーベに案内され、玉座裏の執務室へ入った。


     *


「では、本題に移りましょう。私達王族は、まだ皆様の事をよく分かっておりません。これから質問をしますので、お答えいただけますでしょうか?」


 一同を円卓へと座らせた後、グロスレーベは穏やかに、タケル達に切り出した。


「まず、皆様のお名前から伺いましょう」

「睦月タケルです」

「リリアといいます」

「リンカです!」


 三人はそれぞれ、自らの名前を告げる。

 それに満足したグロスレーベは、次の質問へ移った。


「皆様は何という世界にいらっしゃったのでしょうか?」

「クラウディアです」


 答えたのはリリアだ。

 グロスレーベは頷く。


「なるほど。その“クラウディア”には、魔導騎士ベルムバンツェのような物体は存在していましたか?」

「いいえ」


 再びリリアが答える。

 答えに満足したグロスレーベは、しばし目を閉じて頷いていたが、やがて次の質問を繰り出した。


「ありがとうございます。では、魔導騎士ベルムバンツェに相当する物体は存在しないのですね。では、次です。クラウディアには、このアンデゼルデに存在しえないものはありましたか?」


 かくして、グロスレーベの質問は次々と進んでいった。


     *


「以上です。ありがとうございました」


 それから数時間後。

 グロスレーベはうやうやしく頭を下げ、タケル達に感謝の意を述べる。


「皆様、こちらへ」


 一区切りしたところで、シャインハイルが一同を促して退出させる。

 タケル達は素直に従い、玉座の間を後にした。


「意外と優しそうな人だったね」

「ね。けど、結構熱心に聞かれたかも……それも私に集中して」

「一番詳しいのはリリアだもんねー。タケルも結構聞かれてたけど」

「僕は二人と出身が違うからね。クラウディア以外の世界についても聞かれたし」


 タケル達は談笑しながら、シャインハイルの案内に従って宿泊用の部屋へと案内された――。




 その背を見つめる、一人の男がいた。


「ふむ、彼らが“子供達”か」


 男は玉座の間へと向かい、王室親衛隊員二人に「私だ」と告げる。

 大した確認も取らず、玉座の間の扉が開けられた。


「陛下。我々の研究成果の一部を、お伝えに参りました」

「ヘルムフリートか。ご苦労。早速だが、頼むぞ」

「御意」

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