第六章三節 未知

『透明な敵……!?』

『どこ、どこにいるの!?』

『それに、どれだけいるのか……!』


 動揺し始めるタケル達。

 だが、シュランメルト、リラ、フィーレ、グスタフは、毅然としていた。


『皆様、落ち着いて。下手に動けば、攻撃を受けます』


 リラがタケル達に呼びかけ、迂闊な動きを阻止する。


『それより、短剣ダークに気を付けろ。かなり前に見た、細身の機体とよく似たものだ。もしかしたら、奇襲による直接攻撃を仕掛けてくるかもしれん』

『おまけにこれがグライス家の機体だったら、タケル達さらうかもねー』


 その言葉を聞いて反応したのが、フィーレとグスタフであった。


『グライス家、ですの……!?』

『何であんな事を……! ん、けど待って。どうして僕達は、グライス家だって気づかなかったんだろう? 紋章って、所属を示すハズなのに……ッ!』


 グスタフのFlammbergフランベルクに迫っていた敵の1台を、Asrionアズリオンが体当たりで吹き飛ばす。

 地面に叩きつけられた瞬間に大剣を振るい、両断してトドメを刺した。


『考えるのは後だ。まず目の前の敵を倒すぞ!』

『う、うん……!』


 一行は、見えざる敵を前に、それぞれの武器を構えていた。


     *


 ……その頃。

 シュランメルト達のいる戦場より500m程離れた場所で、上半身が奇妙に前傾姿勢を取った魔導騎士ベルムバンツェが1台、遠巻きに様子を窺っていた。


「ふむ、流石は“守護神の御子みこ”。閣下謹製の秘術を組み込んだ機体といえど、容易く見破られたか」


 岩場の上に陣取り、機体から降りて望遠鏡を覗き見る。


「しかし、これ以上の損害はよろしくないな。既に二人……いや、それ以上か。技術くらいは渡してやるが、兵が減るのは痛手だ。まして裏工作の兵は絶対数が少ない。いくら侯爵閣下の財力といえど、雇ったり養成するのには限度がある。……やむを得んな」


 魔導騎士ベルムバンツェの搭乗者は、機体に自らを収めると、装甲を閉じて駆動させる。

 右手には、魔導騎士ベルムバンツェの大きさまで巨大化させたフリントロック拳銃が握られていた。


「諸君、今は退け。まだ死ぬには早い」


 そして、引き金が引かれる。

 轟音と同時に、曇天に真紅の星が照り映えた。


「私も退くとしよう」


 謎の魔導騎士ベルムバンツェもまた、いずこかへと消え去っていった。


     *


『そこですわ!』


 Violett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンが杖から光球を放つ。放たれた光球は、空中で八つに分裂し、1台の魔導騎士ベルムバンツェを葬り去る。


『近づきすぎだよ!』


 Flammbergフランベルクもまた、六つの手に持つヴァジュラで敵機の胸部を破砕する。


『シュランメルトがいて助かりました。見抜く方法さえ頂ければ、後は私でも何とかなりますから』


 Orakelオラケルは携行するボウガンで、正確に胸部と頭部を射抜く。


 いずれの機体も、撃破と同時に透明化が解除され、黒色の残骸と成り果てる。

 と、撤退する気配を見せる敵がいた。


『逃がしませんわ!』

『待て、フィーレ。追うな』

『ですが……!』

『今はよせ。タケル達を安全にベルリール城まで行かせる事が先だ』

『くっ……』


 フィーレが追おうとするも、シュランメルトがそれを止めた。


『ともあれ、残骸は回収しておく。おれが引き受けよう。最低3つで十分だな?』

『ええ。お願いします』

『では、回収した後に進むとしよう』




 短く言い切ったシュランメルトは、手早く残骸を回収した。

 その中には、やはりグライス家の紋章が刻まれていた……。

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