第五章十節 変化

「「……!」」


 リラの叱咤を聞いて、タケル達の胸中には、倒すべき敵――ヘッジファンド――の存在が、鮮明に思い浮かんでいた。


『それだけではありません! 貴方がたをこのアンデゼルデへ連れてきた、元凶と呼ぶべき存在すらも探し出せず……! こんなところで、倒れるつもりなのですか、皆様!?』


 珍しく、リラの声には感情がこもっていた。


『立ち上がりなさい! 立ち上がって、真実を探すのです! 覚悟を決めて、かかって来なさい……!』


 その言葉を聞いたタケルとリンカが、そしてリリアが、奮い立った。


『こんなところで、立ち止まれるか……!』

『まだ、ヘッジファンドにもたどり着いてないのに……!』

『それに、どうしてここに来たかも分かってない……!』


 3台の魔導騎士ベルムバンツェが、ゆっくりと立ち上がる。

 リラは一切邪魔をせず、ただ見守っていた。


 そして三人は、同時に叫ぶ。


『『もう一度、お願いします!』』

『受けて立ちましょう! 今度はこちらから参ります!』


 その言葉と同時に、Orakelオラケルが突進する。


『リリア、リンカ、下がって!』

『嫌! ヘッジファンドに、ここに来た原因にたどり着けないのだけは、絶対!』

『私も嫌! ここで引けないもん!』


 三人が闘志をあらわにする。

 と、それぞれの機体に、光が集まり始めた。


『むっ、あれは……?』

『魔力、なのでしょうか……?』

『なんか、カッコいい……!』


 シュランメルトは元より、フィーレやグスタフにも、その光景は見慣れぬものであった。


『面白いですね……ふふっ、全力で行きましょうか!』


 だが、リラは好奇心を盛大に抱きながら、なおも突進を続ける。


『僕が止めてみせる……!』

『援護するよ、タケル!』


 リンカが光弾を放ち、Orakelオラケルの進路を塞ぐ。

 数発放たれたうち、一発が命中し――した。


『あれは……!』

『師匠、機体が燃えてます!』

『あれ、大丈夫かな!?』


 Orakelオラケルに着弾した光弾、いや“炎”弾は、装甲にへばりついたまま炎上を続ける。

 それも一発二発ではなく、何発も命中し、炎上し続けていた。


『ふむ、炎の光弾ですか。私でも滅多に見ないものですね』


 しかしリラは気にせず、突撃を継続する。

 やがて、装甲同士が衝突する鈍い音が、ガツンと響いた。


『行かせる、ものか……!』


 Tapfererタプファラー Ritter・リッターが、先ほどまでとは比較にならない出力でOrakelオラケルを押しとどめる。


『凄まじい出力ですね。力に自信のあるこのOrakelオラケルと、まさか正面から渡り合うとは。Bladブラドベースとは思えません』


 リラは予想外の出力に多少驚愕しながらも、冷静に操縦を続ける。


『ですが、力押しだけでは私は止められませんよ』


 リラの操縦で、Orakelオラケルのコート状装甲が動く。


『ぐっ!?』


 Tapfererタプファラー Ritter・リッターの側面から、装甲がしたたかに殴りつける。


『私は装甲を第三、第四の腕として扱えます。ベルグリーズ王国で知れ渡っている“若き天才”の称号は伊達ではありません』

『なんて力だ……!』

『終わりです!』


 怯んだTapfererタプファラー Ritter・リッターの正面から、Orakelオラケルの装甲が迫る――




『だめ……!!』




 その時、Blinkenブリンケン Stern・シュテルンが、何かを放つ。


『……!?』

『ぐぅっ、目が……!』


 リラとシュランメルト、いやリリアをも含めたその場の全員が、目を腕で覆う。




 リリアが放ったのは、光――“閃光”だった。

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