第五章七節 通達

 その日の夜。

 夕食や入浴を終えたリラ達は、それぞれの部屋に向かっていた。


「ふふっ、皆様今日もよく励んでおりましたね……。師匠として、嬉しい限りです」


 今日の訓練を振り返りながら、寝間着に着替えたリラは、ベッドで横になろうとしていた。

 と、ベッドの脇に取り付けていた球体が赤く光る。


「来客ですか……。どなたでしょう?」


 リラは赤く光っている球体に手を当て、来訪者の正体を確かめる。


「いつも来ている手紙の配達員ですね。備えはしますが、行きましょう」


 寝間着のままで、玄関へと向かったリラ。

 巨大な玄関扉の内側から、拡声機越しに呼びかける。


「いつもありがとうございます。手紙でしたら、扉にあるポストに入れておいてください」


 そう呼びかけた少し後、手紙がストンと扉の内側に滑り込む。

 リラは手紙を受け取ると、自室へ持っていった。


「さて、今回は何でしょうか……おや、『新型機開発の現況について』?」


 手紙には、以下の通りに記されていた。


---


 リラ様へ


 以下の新型機の建造は順調である。

 遅くとも30日後には、納品できる見通しだ。


Großerグローサー・ Tapfererタプファラー・ Ritterリッター

Hellerヘラー・ Blinkenブリンケン・ Sternシュテルン

Ewigエイヴィヒ・ Brennenブレンネン・ Flammeフランメ


 なお、納品の際は台車と魔導騎士ベルムバンツェを用いるので、把握願いたい。


 エルセン建造工房より


---


「うふふ、流石ですね。シュランメルトの魔導騎士ベルムバンツェの技術を実証する最新鋭機が、もう完成間近とは……楽しみなものです」


 リラは手紙を畳んでしまうと、嬉しそうな表情を浮かべたままベッドで横になった……。


「リラ。少し良いか?」


 と、シュランメルトの声が響く。


「大丈夫です。鍵は開けています」

「入るぞ」


 シュランメルトは扉を開け、報告に移る。


「あの紋章の所属が判明した。グライス家だ」

「……ッ」


 リラは「知りたくなかった」と言わんばかりに、歯噛みする。


「そう、ですか。グライス家が……」

「一人になりたいか?」

「はい。ありがとう、ございました……」


 シュランメルトはリラの返事を聞き届けた瞬間、部屋を後にする。


「グライス家……。技術の為には何でもするという噂は聞き及んでいましたが、まさか異世界から人を呼ぶなどとは……」




 リラはしばらくの間、一人で呟いていたのであった。

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