第五章二節 訓練

 かくして、後片付けや歯磨きを終えたリラ達は、それぞれの魔導騎士ベルムバンツェに乗り込む。


『皆様、乗り終えましたね。フィーレ姫、グスタフ。私の補助をお願いします。タケル様達はそのまま待機を』


 リラのOrakelオラケル、グスタフのFlammbergフランベルク、フィーレのViolett Zaubererinヴィオレット・ツァオバレーリンが、格納庫から巨大な板状の物体を取り出した。


『えっと、こっちだよね』

『グスタフ、もう少し左ですわ』

『ここですね……良し、安定性にも問題無し。これならいくら“当てても”、問題ありません』


 リラ達三人が置いた板には、魔導騎士ベルムバンツェの絵が描かれていた。

 頭、両腕、胴体、両脚がそれぞれ、別の色に塗り分けられている。


「えっと、これは……?」


 最初に疑問の声を上げたのは、タケルだ。


「私達の乗っている魔導騎士ベルムバンツェに似ていますけど、板、ですよね……?」


 次に、リリアが。


「もしかして、何かの練習に使うんですか?」


 最後に、リンカが疑問を投げた。

 三人の声を聞いて、リラが答える。


『皆様、まずはこの板について説明します。Adimesアディメス結晶を用いた板で、緊急時には盾や防壁として用いる事も出来るのです。ですが、今回はそういう目的では用いません。図柄が描かれているのが見えますね?』

「は、はい!」


 タケルが真っ先に返事する。


『ふふ、元気ですね。結構な事です。さて、本題に戻りましょう。皆様には今から指示する方法で、この板に……それも図柄の描かれた部分に、攻撃を仕掛けていただきます。ですがその前に、あちらの地面に、太い白線が引かれているのが見えますね? あそこの線の手前で、板に正対するように立ってください』

「「はいっ!」」


 タケル様が指示に従い、白線の手前で立つ。

 それを見たリラは、フィーレ、グスタフとともに、タケル達と板との間から離れた。


『では、今から説明を始めます。左右どちらの操縦桿でも構いませんが、親指の近くに、ボタンがありますね? それを押し込むと……』


 リラが板に向き直り、説明したボタンを押し込む。

 するとOrakelオラケルのクリアパーツから光球が現れ、板に吸い込まれるように飛んで行った。

 やがて光弾は板に命中すると、爆発して消滅する。板に黒く焦げた跡が付いた。


『このように、光弾が放たれます。ですが、撃ち過ぎにはご注意を。私達の生命エネルギー――魔力まりょくと言います――を使いますので。枯渇し始めると疲労感が襲ってきます』


 リラはタケル達に向き直り、『では、同様に始めてください。まずは、どこでも良いのでとにかく当てる事を意識して』と告げた。


 それからすぐに、何発もの光弾が飛び交う。

 板に命中するのもあるが、大半は後ろにある土壁をえぐっていた。


『焦って乱発するものではありません。落ち着いて、「当たる。既に当たっている」と思いながら、確信を持ってボタンを押し込むのです』


 リラが助言すると、板に命中する光弾が増え始めた。


 と、リラの耳に轟音が響いた。


「あれは……ふふっ、帰って来たのですね」




 リラの視界に映っていたのは、Asrionアズリオンであった。

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