第三章四節 実践

『まずは歩き方です。普段通り歩くつもりで、操縦桿とペダルを同時に動かしてください』

「こう、ですか……?」


 タケル達は恐る恐る、自らの乗った機体を操縦する。

 3台の魔導騎士ベルムバンツェはゆっくりと、しかし確実に、前へ一歩、二歩と進みだした。


『その調子です、皆様。そのまま、こちらへ来てください。ゆっくりで構いませんよ』


 いまだぎこちない動きではあるが、タケル達は確実にリラ達との距離を詰める。


『そういえば伝え忘れていましたが、右手小指のあたりに青いボタンがあるはずです。押し込みながら、私の名前を呼んでみて下さい』

『はい、リラさん!』


 タケルが真っ先に実行する。


『『リラさん!』』


 リリアとリンカも続いて、呼びかけた。

 それを聞いて、リラが返す。


『はい、皆様聞こえております。これが拡声機の起動方法ですね。覚えておいてください。右手の小指、ですよ』


 リラの声は、相変わらず穏やかなものであった。


     *


 と、その様子を遠くから伺う者がいた。

 何者かは、上半身が奇妙に前傾姿勢を取った謎の魔導騎士ベルムバンツェの上に乗りながら、望遠鏡でリラ達の様子を伺っていた。


「ふむ、見慣れない機体があるな。外観はBladブラド……旧型機ガラクタに似ているが、色や細部が異なる。誰が乗っているのかはおおよそ想像が付くが、念の為報告に加えておこう。加えて、観察も継続せねばな。……む、そろそろか」


 馬の走る音が、何者かの耳朶じだを打った。

 しかし何者かは逃げるそぶりも見せず、観察を続ける。


「報告の時間だったな。しかし、いくら侯爵閣下のご命令といえど、手出し出来ないというのはもどかしいな。たった一言で、“子供達”を全員回収してくるものを」


 馬が止まり、いななきを上げる声を聞いて、ようやく何者かは魔導騎士ベルムバンツェから降りる。


「ご苦労。報告書を作ってくれ」

「はっ」


 何者かは、馬に乗って来た男に報告を始める。


 ……何者かが乗っていた魔導騎士ベルムバンツェの左肩には、“鷲をかたどった紋章”が描かれていた。


     *


『タケル様、足が鈍っていますよ!』

『はぁっ、はぁっ……。コントロールが……!』


 そんな事もつゆ知らず、タケル達は歩行訓練を終え、走行訓練に移っていた。

 人間でいう小走り程度の動作だが、それすらタケルにはきついものである。何せ気を抜けば転倒し、衝撃が全身を揺さぶるのだ。死ぬほどではないとはいえ、何度も味わいたいものではない。


 一方、リラ達は流石というか何というか、何の苦労も見せずに軽々と操縦していた。

 最初の一度だけはわざと転倒させ――衝撃を味わわせる為だ――、それ以降は転倒寸前で阻止するという、飴も鞭もある練習法をしていた。


 そして、全ての魔導騎士ベルムバンツェが格納庫へ収まったのは、日が沈む直前であった……。

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