第三章二節 座学

「ごちそうさまでした!」


 朝食を取り終えたタケル達は、すぐに片付けや歯磨きを終える。

 と、グスタフとフィーレがやや急ぎ気味に、何かを持ってきた。


「師匠、持ってきましたわ!」

「チョークもあるよ!」


 キャスター付きの黒板である。

 それだけでなく、数枚の紙とペンをまとめてセットにして、3箇所に置かれた。


「二人とも、ありがとうございます。では、私は書籍を取ってまいりますね」


 リラが部屋へ向かい、数分後に、書籍を5冊手にして戻ってきた。

 1冊少ない事に、グスタフが疑問を抱く。


「あれ、ししょーのは?」

「私は内容を頭に叩き込んであるので問題ありません。そもそも、これを書いたのは私ですので」


 リラの手にしている5冊の書籍は、全てが「魔導騎士ベルムバンツェの基礎」と題されていた。


「では、準備は整いました。好きな席へどうぞ」


 リビングにあるテーブルを配置換えし、三つの席が横一列にずらりと並ぶ。


「それじゃ、二人とも先に……」


 タケルが促すとほぼ同時に、リリアとリンカはタケルから見て、それぞれ左と右の席に座る。

 必然的に、タケルが真ん中の席となった。


「速いな……」


 示し合わせたかのような勢いで座るリリアとリンカを見て、タケルは驚く。

 と、フィーレとグスタフが、カップに入った紅茶を持ってきた。


「おかわりは自由ですわ」

「欲しくなったら僕達がれるからね」


 至れり尽くせりとも言える環境が整えられた状態で、リラが切り出す。


「では、始めましょう。2ページを開いてください」


     *


 45分ごとに15分の休憩を挟みながら、計2時間45分、座学は続いた。

 最初の1時間半では、アンデゼルデに広く普及している人型機動兵器の名前は魔導騎士ベルムバンツェである事から始まり、装甲は“Adimesアディメス結晶”と呼ばれている事、またそのAdimesアディメス結晶は人間が用いる日用品や武器防具などにもあまねく用いられている事など、きりがなかった。


 残る最後の45分は、魔導騎士ベルムバンツェの原理や操縦方法についての講義が行われた。

 魔導騎士ベルムバンツェは人型をしているだけあって構造は「人体の拡大コピー」と言っても良いものであり、操縦方法もグリップレバーにボタン、そしてフットペダルなど、ある程度人間の歩き方に対応した構造であった。


 ……などといった数々の情報が、リラの巧みな話し方により、タケル達の頭に無理なく入っていく。


「なるほど……。ところで、このボタンはどんな用途ですか?」

「光弾を放ちます。遠距離の敵に対応した装備ですね」


 途中でいくつか質問が挟まれるも、リラは的確に答える。

 と、フィーレが時間を伝えた。


「師匠。45分経ちましたわ」

「ありがとうございます。では、区切りも良い事ですし、そろそろ昼食といたしましょうか。グスタフ、食事の準備は出来ていますか?」

「はーい、ししょー! もう出来てるよー!」


 グスタフが持ってきたのは、人数分のツヴィーベルメット玉ねぎ豚挽き肉とパンを乗せた皿である。


「ところで、生の豚肉はお嫌いですか? 今から加熱しても良いのですが」


 本来、豚肉には寄生虫などがいる。そのため、生食は避けるべき行為だ(なお、アンデゼルデの豚は寄生虫の数が著しく少ない)。しかしツヴィーベルメットは、新鮮なものではあるが生の豚挽き肉を用いる料理であるため、加熱しては元も子もない。

 とはいえ、タケル達の希望がある以上、きっちり加熱された。


「ちょっと、僕は……。加熱してください」

「私もお願いします」

「私もー!」


 案の定、タケルがおずおずと手を挙げた。

 リリアとリンカも続くが、タケルほど嫌そうな顔はしていない。


「では、グスタフ」

「はーい!」


 既に食べた経験のあるリラ、グスタフ、フィーレは気にせず、そのまま食べる準備に移った。

 数分経って、タケル達の分の加熱が終わり、運んだのちに全員で挨拶する。


「では皆様」


 リラの合図で、一斉に言う。


「「いただきます!」」


     *


「「ごちそうさまでした!」」


 食事が終わると、フィーレとグスタフが皿を回収して洗い始める。

 その間に、リラがへの説明をしていた。


「皆様、そろそろ午後ですね。歯を磨いた後に、すべき事を伝えましょう」


 三人が集中してリラの言葉を聞く。




「午後は魔導騎士ベルムバンツェの実践操縦訓練です。皆様の乗る機体を用意しております」




 三人は、期待と不安が入り混じった表情を浮かべていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る