第二章 工房

第二章一節 挨拶

『着きました。ここが私の工房です』


 リラとフィーレの魔導騎士ベルムバンツェから三人が降ろされると同時に、三人は工房を見た。


「すごいな……」

「屋敷?」

「広そう……」


 三人が驚く。

 何を隠そう、リラ工房は“工房”と銘打っていても、実態はかなり豪勢な屋敷である。

 しかもそれだけではない。魔導騎士ベルムバンツェの実働試験も兼ねるリラ工房は、十分過ぎる広さの敷地をもまた、保有しているのだ。


『では、私達は一度機体を格納しに参ります』


 リラとフィーレが、自身の機体を格納庫に歩ませる。


「ところで、あの黒騎士は行かないのか?」


 タケルが呟くと、すぐに返答が来た。


『その必要は無い。この場で元の場所に戻す』

「この場で?」

『見ていろ』


 シュランメルトの声に従い、三人がやや遠巻きにAsrionアズリオンを見る。

 次の瞬間。




 Asrionアズリオンがこつ然と消えた。




「……!?」


 驚愕する三人を前に、シュランメルトとパトリツィアが呼びかける。


「何を驚いている」

「まっ、大抵は驚くよねー」


 歩きながら距離を適度に詰めると、シュランメルトから名乗り始める。


「まあ、いいさ。おれの名前はシュランメルト・バッハシュタインだ。よろしく頼む」

「ボクの名前はパトリツィア・アズレイア。シュランメルトのお嫁さんの一人。よろしくね!」


 それを聞いたリリアが、顔を赤面させる。


「お、おお……お嫁、さん……」

「リ、リリア?」


 視線はタケルを向いていた。

 しかも、それだけではない。


「ふふっ、ふふふ……。私も、タケルと……」

「リ、リンカまで!?」


 リンカもまた、顔を赤面させて両手で覆っていたのだ。


「おい、二人とも……」

「乙女だねー、ウブだねー? シュランメルトー」

「ああ」


 タケルは二人が顔の赤みを取るまで、必死になだめていたのであった。


     *


「改めて、睦月タケルです。よろしく、お願いします……」

「どこ見てんのー、タケルー?」


 パトリツィアがからかうと、タケルは慌ててそっぽを向いた。

 それを見咎めたリンカが、タケルの顔をぐわしと掴むと、自身の豊満な胸に押し当てる。


 そんな様子もつゆ知らずな様子のリリアが、自己紹介した。


「リリアです。よろしくね」


 リンカもまた、タケルへのお仕置きを継続しながら、名乗る。


「私はリンカ。よろしく!」

「ししょーだ! ししょー、おかえり!」


 リンカの自己紹介が終わった直後、可愛らしい声が響く。


「ただいま帰りました、グスタフ。聞いてください。今日はお客様がいらっしゃいますよ」

「お客様!? どこどこ!?」

「あちらに」


 リラが手のひらで指し示した瞬間、グスタフと呼ばれた少年が駆け寄ってくる。


「お兄さん、お姉さん、お帰り!」


 ピタッとシュランメルトの脇で止まると、グスタフはぺこりと、タケル達に頭を下げた。


「初めまして! グスタフ・ヴィッセ・アイゼンヘルツと申します!」


 グスタフの姿を見た途端、リリアとリンカが揃って反応を示す。


「「可愛い~!」」

「わっ、わっ!? ちょっ、ちょっとお姉さんたち!?」


 動揺するグスタフだが、リリアとリンカは構わず抱きつく。


「初めまして! 私はリリア、よろしくね!」

「私はリンカ! ああ、可愛い~!」


 抱きつかれてドギマギするグスタフ。

 それを遠くで見ていたフィーレは、いてもたってもいられなくなった。


「~~~~~ッ、グ~ス~タ~フ~!」

「フィーレ姫、義足で走るのは無茶では?」

「分かっています、師匠! ですが、ですが……!」


 フィーレの顔は、怒りで真っ赤に染まっていた。


「では、私が何とかしましょう。そこで待っていてください、姫」


 リラはそれだけ言うと、ゆっくりタケル達の元へと歩いて行った。

 やがてタケル達に近づくと、良く通る声で呼びかける。


「皆様、立ち話も何でしょう。是非、上がってくださいませ」

「は、はい!」


 リラに促されたタケル達は、恐る恐るといった様子でリラ工房の屋敷に上がったのであった。


     *


「あらためまして、私がリラ・ヴィスト・シュヴァルベです」

「わたくしはフィーレ・ラント・ベルグリーズですわ」


 リラは穏やかに、フィーレはむくれながら挨拶する。


「何が起きたかは存じませんが、ここに来たからには安心してください。この“リラ工房”の工房長として、全力でお守りします」




 穏やかなリラの声は、しかしタケル達には力強く響いたのであった。

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