第一話 ヒステリックな彼女

3


「新・生活部? 何をする部なの」

「……うっ、それは」

 君みたいな人を場に馴染ませる部。言うべきだろうか。

 しかし、部員は三人以上必要だしな。

「どうしたの?」

「いや、それはおいおい話すよ。そんな事より入学式に出るぞ! 今なら校長先生の話をしている筈だ」

 今の時刻は十一。

 あれから一時間。

「嫌よ! 面倒臭い……折角だから話をしましょうよ。私、あんたとなら怒鳴らずに話せると思うの」

 あんたって、先輩だぞ俺は。

「話って……何を話すんだよ」

「何っ! なんで部を設立しようとしたの? 其処からが気になる。聞かせて」

「聞かせてって言われても……『はい……良いぜ』とでも言うと思うか。なんで、他人のお前に生い立ちを話さなければならない」

「何、急に切れてんのよ! 少しは落ち着けって言ったのはあんたじゃない。忘れたの!」

 富崎は何故かまともな事を言った。

「そうだけど……今此処で語るような事じゃないし」

「意地でも話さない気ね。まぁ良いわ……話さないんなら、これを使うわ」

 富崎は部室を出て行こうとする。

「待てよ、何処行くんだよ!」

「入学式よ! 此処で何かするから」

 何かって、なんだよ。

「おい、止めろ! 嫌な予感しかしない……」

「なら、どうする?」

 富崎は不敵な笑みを浮かべた。

 チクショウが、俺の目的の為に人数が必要なのに……

「分かった……はぁ話すよ。勿論、口外はしないでくれよ」

 俺は深く溜息を吐き、椅子に座った。

「……ふふ、楽しみね~」

 くっ、悪魔みたいな女だな。

 会わなければ良かったと深く後悔した。


 俺が何故、「新・生活部」を作ろうとしたのか。


「それは、俺が中学時代の話だ。あの頃の俺はグレていた」

 当時は勉強だの、スポーツだのと言った、しつこく言う先生や生徒ばかりだった。

 俺はそう言うのが嫌でたまらなかった。

 中学生は大人の中間、大人になる為の教育制度、だと思っていた。

 人は上の人の言いように扱われる、そう思っていた。


「おい! 何やってんの!」


 と周りの男が女の子をナンパしていた。

 とある昼休み、俺はその光景をムカつくぐらいに思っていた。

「何……何?」

「あの、何か用ですか?」

 女生徒は男子生徒に怯えるように言った。

「だから、何をやっているの、って」

「そうそう」

 と二人の男子生徒は女生徒に迫る。

 おいおい、完全に嫌がってんじゃないか。

 俺は立ち上がり、その男子生徒の方へと向かった。

 教室の中はざわついた。

「おい!」

 俺はその男子生徒の肩を掴んだ。

「ん、なんだ!?」

「止めろよ、嫌がってんじゃねぇーか」

 と男に向けて言った。

「あん、あんたには関係ないだろう……あっち行けよ、オラッ!」

 掴んだ男が俺を手で押した。

 毎日ようにグレている俺には我慢と言うものはない。

「そうか、止めないんだな……なら」

 こっちに来いと二人の男子生徒を呼び出した。

 廊下へ出て、そのまま。


「さっきのお返しだ!」


 と拳を振り下ろした。


「ぐわーっ!」


 夜神を押した男子生徒を殴り飛ばす。


「かはっ!」

「てめぇー!」

 もう一人の男が夜神に向かう。

 そして殴り合いが始まった。

「くっ!」

 先生達が来たのが十分後だった。

 そして、俺は暴力事件を起こし、停学処分になった。


 それ以来俺は『不良』と言う異名を付けられた。俺は中学生活はぼっちに終わり、とても暗い青春を送った。


 高校では俺の事を知らないような高校を選び誓った。

「優しく、接しようと」

 その目的の為、『新・生活部』を作り、人の為になる事をしようと。

 だが一年間まともにやり過ごして来た。

「まぁ、そんな事だ。担任の先生は俺の事が心配でこの高校に赴任して来た。勿論、暴力事件なんて起こさないようにやる」

「へぇ~そんな事があったんだね。君が助けた女の子、君を感謝しているのかな?」

「さぁな……あれは俺が勝手にやった事だから、気にはしていない」

 そう、もう同じ過ちは起こさないと。

「これで、全部だ。分かったか」

「うん、分かったわ……あんたも私と同じ……人種だとね」

 なんだと……同じ人種。

「何言っているんだ、お前は……」

「私も……似たような事で、人が嫌いになった。少なくとも……あんた以上に……」

「はっ、どう言う事だよ、それ!」

「大丈夫! あんたには関係ないから!」

 富崎は怒りながら言った。

 本当にヒステリックな女だな。

 何を考えているのか分からない。

「まぁ、行きましょうか」

「……何処に」

「入学式よ」

 と何か吹っ切れたような表情をした富崎だった。

 

 入学式に出た俺は……疲れ気味。


「うわーっ!」


 夜神は教室に戻り叫んだ。

「なんだよ、夜神。大きい声出して」

「そうだぜ! 悲痛の叫びみたいだぜ」

 同じクラスの奴が声を掛けてくれた。

「いや……あれだ」

 俺が何故、叫んだのか。

 同じクラスでもなければ、同じ学年でもない生徒が居たからである。

「お前の席に女の子が居んぞ!」

「なにー!」

 周りの生徒がざわめき出した。

「ぐっ!」

 夜神は駆け出し、その女の子の手を掴んだ。そして教室を出た。

「おい、どう言うつもりだ!」

 俺の机に座っていたのは富崎めぐみだ。いかにも王様みたいに座っていて、周りは茫然自失だった。

「何よ、折角、会いに来てあげたのに……なんで怒っているのよ」

「『なんで怒っているのよ』じゃない! 俺はどう言うつもりだと、聞いている。しかもお前別のクラスだろう。なんで俺の教室に居る」

 そもそも学年さえも違う。

「どう言うつもりって……帰りの事だけど」

「帰り……」

「そう、一緒にって、思って」

 帰りって、何を言っているんだ。

「おい、夜神! 入学式早々、下級生に手を出したのか!?」

「なっ!!」

 クラスメイトがからかうように言って来た。

「違う! 変な勘繰りは止めろ! この青春野郎が!」

 夜神は叫ぶ。

 こいつは林原。クラス初めての友人だ。

「取り敢えず、自分の教室に戻れ。終わったら、部室に行くから、そこで落ち合おう」

 さりげなく言い、教室に戻った。

 富崎は無言で帰って行った。


 教室に戻ると林原も含めて、男子達に囲まれた。

「おいおい、なんなんだ! あの可愛い娘ちゃん!」


「いつの間に……羨ましい!」


 周りの男共はうざく詰め寄る。

「なんでもないよ、彼奴とは、今日初めて知り合っただけだから……お前等が思っているような、羨ましがられる関係じゃねぇーよ!」

 そう、全くもって皆無だ。

「分かったんなら、散れ! この青春野郎共!」

 周りの男共はそれぞれに散って行った。

「はぁー! なんで……俺がこんな目に……」

「良いじゃねぇーか! 女とお近付きになれるのは滅多にないぞ。誇れよ」

 いきなり変な事を言う林原。

「お前なーっ! 面白がっているだろう。何が悲しくて……甘えたがりの女の面倒見なくちゃいけないんだよ……」

「ははっ、相当参っているな、所で……先生に聞いたが……『新・生活部』とやらを作るんだろう! 人数は大丈夫なのか?」

 林原が心配そうに聞いて来た。

「あぁ……それもどうしようかって、思っている。人数は三人以上……集まらなければ此処で、お終いだ」

「そうか……でっ、何をする部なんだ?」

 林原も先生と同じ質問をした。

「えっと、ボランティアみたいな事。まぁ、進展があったら話すから」

「ふん~」

 林原はそう言い、自分の席に戻った。


 富崎めぐみ、俺から言うと『ヒステリックな彼女』だ。


 確かに問題がある女。

 我が部としては解決しなくちゃならない。


「おい、夜神!」

「……っ! はい!」

 突如、名前を呼ばれ立ち上がる。

「何ボーッとしてる。ちゃんと聞け! 今日はホームルームだけだからって、浮かれるなよ。明日から通常授業だ。帰ったら確認しとけよ」

 先生は教科書、書類を手に持ち、教室を出る。

「夜神、今日どうする?」

 林原が声を掛けて来た。

「……うん~そうだな。俺にはやる事があるから、お前に付き合っている暇はない。じゃあな」

 夜神は鞄を持ち、教室を出た。


 行き先は部室。

 富崎に来るように言ってある。


 辿り着き、部室に入る。

 部室に入ると一人の少女が背を向け立っていた。

 黒髪で、ショートヘアー。

「何、やっているんだ? 富崎さん……」

「やっと……来たか」

 まるで戦いの名シーンのように立っていた。

 何処かで見た光景。

「今度はなんだ? 中二病でも目覚めたのか?」

「……そんなんじゃない! もう……察してよ!」

「『察してよ』と言われても……女性の心理、理解出来ない」

「別に……クラスの子がやっていたから、ただ真似をした、それだけよ!」

 怒りながら言う富崎。

「あのさ、怒りながら言うのを止めてくれないかな……見ていて、俺が悪いと言われているみたいだから」

「はーっ! なんでそう思うの! あんた自意識過剰じゃないの。バカみたい」

 くっ、やはり苦手だ。

「でっ、あんたは日曜日とか、何か予定とかある?」

「何? 藪から棒に」

「良いから、答えて!」

 富崎は強く言う。

「特に用はないが……なんだって言うんだ!」

「そう、じゃ朝の十時に浅草駅に待ち合わせね。遅れたら、承知しない」


「はっ、はーっ!」

 

 富崎の言った事に戸惑った。

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