176.ランディング・ポイント
ユニゾンスキル【パラダイム・シフト】。
双子――ルキとフェリが使うその特殊なスキルは、効果もまた極めて特異。
発動すれば二人のステータス・クラス・精神が入れ替わる。
双子の得意な戦法が遠距離から近距離へ。近距離から遠距離へ。
対するミサキとフランはかなり尖った戦法の持ち主。強烈な強みを持つが、その分欠点も目立つ。
だからこの双子のように変則的な攻め方で揺さぶられると欠点が露呈しかねない。
「やああっ!」
「……っ、アイテム使う暇ないわね……!」
刃が取り付けられた弓を剣のように振るい迫るルキ――中身はフェリだ――に対し、防戦一方のフラン。
なんとか杖で凌ごうと試みるが、防ぎきることはできず何度も斬撃を食らう。
フランは接近戦が不得手だ。主となる戦法がアイテムを投擲することである以上、直接的な殴り合いには向いていない。
先ほどまで矢との撃ち合いをしていた時は有利に進められていたのに――と歯噛みする。
そして、
「たくさんたくさん、貫いて…………」
ハルバードを掲げるフェリ――もちろん中身はルキに変わっている――は深紅のレーザーをこれでもかと乱射する。
圧倒的な弾幕にミサキは回避に専念するほかない。それぞれの判定が太く、しかも微妙に追尾してくるので楽をしようとすればその瞬間に捉えられてしまうだろう。
ミサキの欠点はリーチの無さだ。徒手空拳で戦う都合上、至近距離に入らなければ絶対に攻撃が届かない。
普段はそれを極まったスピードによってカバーしているのだが、こうも回避を強要させられるとそうもいかなくなってくる。
(どうやって突破する……?)
双子とはいえ身体が別人のものに変わり、しかも使用する武器まで変わっているのにこの強さ。
ユニゾンスキル実装から大して時間は経っていないのに、ここまでの仕上がりようだ。
侮っていた。この世界にはまだまだ強い人がいる。しかもこれで初めたばかりだという。
きっとこれからもプレイヤーは増え続ける。ミサキが勝つことに尻込みしている間にも続々と。
このルキとフェリのように、下から脅かしてくる強者が現れるだろう。
気づけばミサキの口元には笑みが浮かんでいた。
戦うことの楽しさ。
彼女が一番大切にしていたことが今蘇りつつあった。
振り返りフランに視線を送ると、向こうも攻撃を受けつつミサキを見ていた。
頷きを交わす。
この状況を打開する可能性があるとすれば、フランしかいない。
「出すわよ、虎の子!」
ミサキの意志に応えたフランは勢いよく後ろに跳び退る。
距離が離れ一瞬の空白を生んだかと思うと、懐から取り出した小瓶を一気に飲み干した。
《ヘルメス・トリスメギストス》。一定時間アイテムの使用を封じる代わりに大量のバフを自身に掛けるアイテムだ。
爆発的に上昇したスピードによって、あえてさらに距離を取ったフランは虹色の光を放つ杖の切っ先をルキに向けて構える。投げ槍のように敵を射抜くスキル【タンジェント・アーク】の体勢だ。
だが、その攻撃が放たれることは無かった。
「「【パラダイム・シフト】!」」
「な――――」
再び瞬時に入れ替わった双子、その片割れ――ルキが弓を引く。
同時にフェリがハルバードを構え、次なるスキルの発動態勢に入った。
「「ユニゾンスキル、【ヘブンオアヘル】!」」
揃った声の直後、目で追えない速度で飛び上がったルキが眼下のミサキとフラン目がけて光の矢を雨のように注ぐ。
超高範囲をカバーする弾幕は回避することも適わず、二人の動きを止めた。
そして。
「いっくよー!」
ぐるぐるとハルバードを回転させるフェリが迫る。
駆ける勢いのまま斧槍を構えると――横一閃。
光の弾幕ごとミサキとフランを両断した。
爆発する閃光。
舞い上がる砂塵。
それらが晴れた場所には、横たわる二人の姿があった。
「おー。初めてだったけど」「つよいつよーい! 私たち最強なんじゃない!?」
二者二様に喜びを表現する双子。
それを尻目にミサキは薄く口を開く。
「…………あー…………生きてる?」
「何とかね……」
ミサキもフランも視界が真っ赤に染まっている。
HPが大きく削られ危険域に達した証だ。
「あのさ……」
「……ん?」
「わたしたちもやってみない? あれ」
「できると思う?」
「そりゃ……できるでしょ。わたしたちだもん」
ミサキはゆっくりと立ち上がる。
もう何度も攻撃を貰えない。ノーダメージで通すくらいの気が無くては。
「……ま、そうね。あたしたちならきっと」
フランも同じく立ち上がる。
こちらも当然虫の息。
しかし二人の目にはまだ光が灯っていた。
「……すごい」「これでも倒れないんだ……!」
素直な感嘆を漏らす双子。
確かに強敵だ。絶対に格下とは呼べない。
だが。
「…………フラン。わたし思い出したよ」
「ん?」
胸の内にぐらぐらと煮えたぎる感情。
ここのところ縁のなかったこの感覚。
「わたしってめっちゃ負けず嫌いだったんだって」
「結構なことね! いいじゃない、やっとミサキらしくなってきた!」
確かに二人のHPは風前の灯火。
しかし1でも残っているなら十分だ。
少なくとも、勝つだけならば。
ミサキとフランは肩を並べて立つ。
先ほどまでのように離れて戦うのではない。
この世界において、ミサキとフランはいつも一緒だった。
離れることはあったが、磁石が引き合うかのように、またすぐに引き合った。
何があっても、どんな時も。
二人は、二人でいた。だからこれがベストの形だ。
そうだ、とミサキは頷く。
わたしたちが揃って負けるわけがないのだと。
フランも不敵に笑う。
この二人ならどんな相手にだって勝てるのだと。
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