第三章 いろいろなプレイヤーたち

20.即興タッグマウンテン


「ありがとうございました! これお母さんに渡してきます……!」


 そう言ってアトリエを後にするシオを二人で見送る。

 これでこのフランの初仕事は終わりだ。


「やっぱりあんまり儲からなかったね」


「妥当よ。価値っていうものはお金だけに宿るものじゃないわ。あと……」


 フランはメニューを開き何やら操作する。するとミサキの耳にぽこん、という通知音が鳴り響いた。

 誰だろう、と思いメールを開くと差出人はフランだった。本文は無し。添付ファイルのみだ。


「え、これ」


「仲直りの証」


 送られてきたのは足装備プリズム・ホワイト。白っぽいブーツで、表面が氷の粒が集まったようになっており、アトリエの窓から差し込む光を反射してきらきらと輝いている。

 能力を見てみるとやはり強力。以前作ってくれた《アズール・コスモス》に匹敵する出来だ。


「へーえ。ふーん」


「な、なによ」


「いや結構可愛いとこあるんだなって」


「だっ……ふ、ふん。そりゃあたしはかわいいわよ」 


 腕組みをしてそっぽを向くフラン。

 底の知れない彼女の新たな一面――また少しフランのことがわかったような気がした。


「……ねえミサキ。あなた強くなりたいって言ってたわよね。この世界の頂点に立ちたいって」


「ん? うん」


「だったらあたしが手伝ってあげる。かわりにあなたはあたしのアトリエを手伝って」


 頂点への道筋を、共に往く。

 フランは自信に満ち溢れた笑みを浮かべた。この二人なら叶えられると確信している。


「新しい契約だね。いいよ、やろう二人で」


 嬉しそうな笑顔と共に手を差し出すミサキ。

 しかしフランは首を横に振り、その手を握った。


「契約じゃないわ。あたしたちは友達であり相棒。だからふさわしい言葉は――ただの『約束』よ」 


 




 とは言いつつも。


「よく考えたらどうやって最強になればいいんだろう?」


 ホームタウンから南、山岳エリアを歩きながらミサキは首を傾げる。

 アトリエを繁盛させるという目的ならわかりやすい。知名度を上げて仕事をこなせばもっと客も増える。現にいまはアトリエでフランが客の応対などをこなしている最中だろう。あの初仕事のあとからそれなりに訪れるプレイヤーは増えた。喜ばしいことだ。


 しかしこのゲームで最強になる、と言っても具体的にどうすればいいのかはわからない。トーナメントには精力的に参加しているが、そこでいくら勝っても最強の証明にはならないし、誰もがアリーナを使っているわけでもない。一度もトーナメントに出てきていない強いプレイヤーだっているはずなのだ。

 

「まさか会う人会う人にバトル吹っ掛けるわけにもいかないし」


 どんな辻斬りだよ、という話だ。


 そんなことを考えていると火山地帯に差し掛かった。

 フィールドの南地区にはまず山岳エリアがあり、そこから奥に行くと海岸エリアがある。だが海岸エリアへは現在バリアが張られており入ることができない。バリアを解除するためには山岳エリアのボスを倒さなければならないのだ。

 

『海への道開いておいてくれない? あそこの素材興味あるのよね』


『わたしが? ひとりで?』


『そうよ。できるでしょう?』


 などというフランとの会話があっての今である。そうまで言われてはやるしかない。

 ということで新装備を試すがてらここまでやってきたのだ。

 ……また山に登るのか、と思わなくもないが。


 とはいえ今はフランもいないので歩調を合わせることもなく全速力で走ることができる。

 現在、確認できる中ではミサキより足の速いプレイヤーは存在しない。ミサキよりレベルの高いプレイヤーはいくらでもいるが、装備重量の仕様上素手のミサキより早くなれる者が存在しないのだ。

 たとえ持っている武器を放り捨てようとシステム上は装備しているままなので重量は軽くならない。だが逆に装備していない武器やその他のオブジェクトを手に盛ったり抱えたりすると重量として適用される。

 このスピードであっという間にミサキは火山の山頂付近へとたどり着いた。

 

「さってと、ここにいるはずなんだけど」


 きょろきょろとあたりを見回してみても誰もいない。

 おかしいな……とミサキが後頭部をかいていると、何者かの声が背後から聞こえた。

 ギギッ、という甲高い耳障りな声。振り返るとそこには赤いゴブリンがいた。腰布を巻き、右手には棍棒を携えている。


「あ、あれ? こいつがボス……?」


 明らかに小型だ。とてもボスには見えない――が、【インサイト】で情報を確認すると確かにBOSSという表記がついている。レベルはそこそこ高めだが苦戦するほどではないだろう。

 装備を試すには少々物足りないような気もするが仕方ない。


「いきますか!」


 一息に距離を詰める。するとAI特有の超反応で棍棒を振り下ろしてきたので右腕で受け止め、すかさず反撃のサマーソルトキックを的確に顎へと命中させる。

 新しい装備――白いブーツ《プリズム・ホワイト》に付加されているスキルは【脚攻撃力ブースト】。自らの手足を使って戦うミサキにとっては単純に強力なパッシブスキルだ。

 

 一撃で地面に転がされたゴブリン。ダメージは大きかったようでHPゲージは残り少ない。

 だがゴブリンは倒れたままその口を大きく開き、


「ギャギャギャギャオーーーーーッ!!!!」


 雄たけびを上げた。 

 断末魔か、と思ったがそうではない。

 ざわり、と首筋に昇ってきた悪寒に思わずあたりを見回すとあちこちからゴブリンが山頂へと上がってきた。その数は約20体。

 慌てて再び【インサイト】を発動し視界内の敵の情報を丸ごと閲覧すると、全ての敵にBOSSの表記が。つまりこの群体まとめてひとつのボスだということだ。


「や、やばいかも」


 単体の強さで勝ろうと数的有利はいかんともしがたい。

 そしてゴブリンたちもそれがわかっているようで――一斉に跳びかかってきた。

 振り下ろされる棍棒を何とかかいくぐりそのうち一匹のゴブリンを蹴り飛ばす。だがその隙に他のゴブリンからの殴打を食らう。


「あぐ……っ、このお!」


 慌てて振り返り殴りつけるも、また背後から一撃をもらう。

 このままではまずい、と背筋を寒くする。徒手空拳でまともな攻撃スキルを持たないミサキにとって一対多は非常に不利だ。何しろ広範囲をまとめて攻撃できる手段がない。回し蹴りくらいなら可能だが、一体目に命中した時点で勢いが大幅に落ちてしまうので二体目以降にはまともなダメージにならないのだ。

 打開策を考えている最中にも敵の攻撃は止まない。一匹に攻撃すると他の数匹から報復をもらう。そんなことを続けているとHPが残り少なくなってきた。


「こんなとこで死ぬのわたし……」


 足を殴られたことで思わず膝をつく。

 もうだめだ。このままリンチされて終わり――そう覚悟を決めデスぺナをもらった後のことを考えていると、


「危ねえ嬢ちゃん!」


 ガキン、と何者かがゴブリンの凶打を受け止めた。

 恐る恐る見上げると重鎧の背中。大きな盾。おそらくはウォリアー系のクラスだ。


「だ、だれ……?」


「悪いがこっちも余裕がなくてな。アタッカー頼む!」


「わ、わかった」 


 即興の共同戦線――だがやるしかない。

 助けてくれた男の頭上を見ると[Kuma]と表示されている。

 くまさんか、と内心少し和んでいるとその男が声を上げた。


「【アテンション】!」


 くまが盾を掲げると薄く発光し始める。するとゴブリンたちのヘイトが一斉にくまへと向いた。敵の攻撃を引き付けるスキルだ。

 狙われないならこっちのものだ、とくまが攻撃を捌いている間に一匹ずつ確実に敵を減らしていく。幸い一匹当たりのHPは高くない。


「ラスト一匹頼む嬢ちゃん!」


「わかった!」


 必死で大盾を叩くゴブリンの後頭部に足刀蹴りを叩き込むとボス討伐のファンファーレが鳴り響いた。


「ありがとうくまさん、助かったよ」


「ああ……いいんだ。どうせおれ一人じゃあクリアできなかっただろうしな」


 男はかなり大柄だった。全身に着込んだ重鎧に右手にはミサキのアバターと同じくらい大きな盾。左手には申し訳程度に剣を握っているが、今回は使わなかったようだ。防御に徹してくれていたらしい。優秀な盾役だなあ、と感嘆する。

 だが、彼の言葉にミサキは違和感を抱いた。


「……? ひとりで勝てないならどうして来たの? パーティメンバーとかは?」


「いや、それは……ははは……」


 何かを言おうとして濁す。

 苦笑するその顔は体格に見合わず気弱に見えた。

 

 その後くまは「じゃあな、ありがとう」と言い残して山頂を去っていった。少し彼のことが気になったが、とりあえず目的は達成したのでミサキもすぐに《EXITパドル》を使いホームタウンに戻ることにした。そろそろフランも仕事を終えている頃だろう。

 

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