10.40.衝突
魔王軍の最前線に待機していた小型の魔物軍が、一斉に走ってきた。
西形は一度戻り、グラップと合流する。
その場には既に武器を構えた孤高軍や、レッドウルフが待機している。
さっきまでレッドウルフに怯えていた孤高軍一同だったが、とりあえず味方ということは把握してくれたようなので、攻撃して仕留めるなどということはしなかった。
さすがに一定の距離は保っているが、問題はないだろう。
西形はレッドウルフに騎乗しながら戻ったあと、孤高軍を激励する。
槍を掲げ、注意を引いた。
「皆の者ー!! 構えよ! 臆するな! 先手大将いる限り、この場は崩れん! ここが正念場だ! お主らの培った技術、すべてを発揮し敵を滅せ! 畜生に負けるなどあってはならんぞ!! 我が道を切り開く! 付いて来れる者はついて参れ!!」
『『『『『『おおおおーー!!』』』』』』
「西形さん! 作戦忘れないでくださいよー!?」
「行くぞぉ!!」
西形はグラップの言葉を無視してレッドウルフを走らせる。
再び最前線に出た西形の後ろを、数名の孤高軍が追っていく。
残っている者は作戦をしっかりと覚えているようなのでいいのだが、今突っ込んでいった者たちは大丈夫なのかとグラップは心配する。
だがその心配を吹き飛ばす程の快進撃が、目の前で起こっていた。
「生光流奇術、一閃通し!!」
レッドウルフに乗っていた西形が消える。
次の瞬間、突撃して来ていた小型の魔物が空中に吹き飛ばされた。
その数は数え切ることができず、大量の魔物が一瞬で命の灯を吹き消した。
大量の死体が作り出されたことにより、進軍の速度が遅くなる。
屍を乗り越えた瞬間、待機していた魔導兵が魔法を連続で撃って敵を仕留めていく。
だがそれでも敵の数は多い。
自分たちが担当していない左右は魔物が通り過ぎて、展開していた後方の孤高軍へと突撃していく。
やはり機動力が速い。
それに加えて中型の魔物軍もこちらへと迫ってきているようだ。
「来るぞぉー!! 気張れよ皆の者ぉー!!」
そこでついに、小型の魔物軍と最前線孤高軍が衝突した。
だが西形のお陰で一番キツイ衝突の瞬間を和らげてくれた。
それでけが人はほとんどおらず、兵士は万全の状態で戦いに臨むことができたようだ。
レッドウルフも魔物を集中的に殺しにかかり、孤高軍そサポートしている。
「グルアアアア!!」
「ギャギャギャワ!」
「やあああ!」
「はあああ!」
魔王軍の小型の魔物軍の種類は様々で、それぞれに違う能力があるようだ。
速かったり、力が強かったり、魔法を使ってきたり。
だが脅威度は低いようで、集められた孤高軍は数に押されて若干苦戦してはいるものの、何とか踏ん張っている。
しかしこのままでは押されてしまう。
「うらああ!! 身体強化ぁ!!」
グラップはその迫りくる敵を斧で吹き飛ばす。
五匹をまとめて切り裂いたあと、次の標的を見て走っていく。
大体はこちらに向かって来る敵を屠るのがいいのだが、これだけの数の魔物が来るのであれば少しでも動かなければやられてしまう。
止まっていてはただの的なのだ。
最前線は西形とレッドウルフ、そして少しばかり先走った孤高軍の面々が勢いを抑え、その後ろの二陣はそれを追いかけるようにして敵を倒しながら追従する。
さらにその後方から魔導兵からの援護が加わった。
これにより戦闘が非常にやりやすい。
「ぐあああっ! こ、このあああ!!」
「くそっ! はああ!」
だが数の暴力は防ぎきれない。
既に数十名の兵士が犠牲となってしまっている。
しかしこれは戦争だ。
一々味方の面倒を見ていては、自分の命が危うくなる。
ぐっと堪えて目の前に迫っていた敵をもう一度屠る。
そろそろ作戦を実行しなければ、この最前線が完全に孤立して撤退できなくなってしまう。
「西形さーん! 西形さーん!!」
「何かな!」
「うっわびっくりした! 撤退しましょう!」
「え、もう? まだいけるけど」
「貴方は良いでしょうけど、他の者が持ちこたえられません!」
「死んだ者だけ見ていたらそう見えるだろうね。でも大丈夫、もう少し行けるから」
「え!?」
レッドウルフに跨ったまま、西形はまた突撃していってしまった。
グラップはマジか、と思いながらも、目の前の敵を両断する。
西形に言われたこと思い出して、周囲を見てみる。
既に多くの兵士が死んでおり、魔物も多く死んでいた。
だがそれでもまだまだ敵は迫ってきており、更にその奥からは中型の魔物が迫ってきている。
あの中型の魔物と小型の魔物が合流したら、この部隊は壊滅するだろう。
しかし、そこで気付いた。
誰も下がっておらず、前に出ようとしているということに。
前まで戦いの素人だった者も多かった。
それだというのに、全員が前に出て、戦おうとしている。
「凄いな……」
士気が一切落ちていない。
これは西形の激励だけで保っているものではないだろう。
何か彼らを動かすだけの力が、眠っている。
それに気が付けない自分はまだ未熟かもしれないと思いながら、武器を握る手に力を入れた。
グラップが考えている間にも、西形は最前線で走り回りながら敵を屠っている。
馬の代わりにしているレッドウルフも、走りながら敵を噛み千切ったり踏み潰したりしているので、西形はとても楽に戦闘ができていた。
まだ士気は落ちていない。
兵は少しだけ減ってしまったが、これだけの士気と数がいるのであれば、まだ撤退には早い。
ギリギリを見極めなければならなかった。
「というか……敵多いな」
死体の山が築かれているというのに、それを上回る程の魔物が未だに進軍してきている。
あれを始末するのには相当な人員が必要だ。
だがここまでできたのであれば、上々だろう。
「よし!! 皆の者!! 撤退だ!! 我が殿を務める故……! 下がるのだ!!」
レッドウルフから飛び降りた西形は、敵の位置を確認する。
数は多く、数匹がこちらの陣に入ってきていた。
だがそれを確認した瞬間、一瞬でその魔物を斬り伏せる。
「生光流奇術、一閃通し!!」
再び、数多くの魔物が吹き飛んだ。
それによって死体の山が築かれ、敵の進軍が少し遅れる。
西形の声を聴いていた孤高軍は他の者に伝えていき、撤退を始める。
後方に控えているリーズレナ王国とローデン要塞の連合軍と合流し、そこから耐久戦を始める予定だ。
全体が後退し始めた頃、左側から炎の柱が出現した。
あっち側はほとんど任せてもいいなと思いながら、西形も撤退するためにレッドウルフに騎乗したのだった。
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