10.3.合流
「長かったぁー! よかったぁー!!」
両手を上げて喜ぶ西形に、木幕は呆れたようにしてため息をついた。
色々聞かなければならないことがあるが、彼がこの世で蘇ったということは、あの二人もこの世界の何処かにいるのだろう。
しかし、あの黒い空間のことを知らないレミは、また殺人鬼が現れたと思って警戒を解かない。
今にでも飛び出しそうな勢いで睨んでいる。
西形の奇術は強い。
目に見えない速度での移動で首を斬り飛ばすのだ。
だが今の彼にはまったく敵意はなく、あの時と間違った様子を見せている。
それが余計にレミを混乱させた。
「レミよ、武器を納めろ」
「えっ? だ、大丈夫なんですか?」
「こいつはもう大丈夫だ。実はこいつとは夢の中で会っていてな……」
「……は?」
そういう反応をされるのは仕方がない。
理解に苦しんでいるレミに、木幕は丁寧に説明をすることにした。
あの空間がどういったものかは分かっていないが、自分が斬った侍は黒い空間に飛ばされて魂のみで生き続ける。
槙田がなんとなく詳しかったような気はするが、今彼はいないのでできる限りの説明だけで留めておくことにした。
「つ、つまり……。今まで出会ってきた人は、今も師匠の中に魂として居る……と?」
「そういうことだ」
「それで僕と木幕さんは普通に仲良くなったね。行動理由は同じだった訳だし」
「な、なんか……死んだはずの人が生き返ってるって……気持ち悪いですね……」
「なんてこと言うの」
レミの言いたいことはなんとなく分かる木幕。
確かに自分が斬り伏せた相手ともう一度対面するのは妙な感覚がする。
「そ、それはそうと……。木幕さん。もう槙田さんと姉上は見つけていますので、すぐにでもローデン要塞へと向かえますよ!」
「既に見つけていたのか」
「偶然が重なった結果ですけどね。僕は一足先にここにきてすれ違いがない様にしていたんです。なので……柳さんのことも知っています」
「……そうか」
西形は柳のことを知っていた。
仮にも一つの城の主だった男だ。
木幕にとってどういう人物までかは知らないにせよ、強い人物だというくらいは頭に残っている。
少し暗くなったのを察した西形は、取り繕うようにして話題を変えた。
「ぼ、僕はあの空間から消えた後、空から落ちたんですよー! 奇術がなければ完全にお陀仏でしたね。姉上は水の中から、槙田さんは火山の麓の砂の中から出てきたみたいですよ」
「何故お主らが選ばれたのだろうな」
「多分それは、木幕さんが僕たちの武器を壊したからですね」
「そんな単純な話しだろうか?」
「でもそれ以外に共通点ってなくないですか?」
そう言われてしまえば、確かにそうだと頷くしかない。
武器を壊したのは三人だけだ。
後の武器は継承という形で誰かの手に渡っている。
例外もあるが……。
「まぁそれについては別にいい。で、あと二人はいつ来るんだ?」
「もう来ますよ。ほら、音が近づいてきてる」
「音ですか……?」
少し集中してみれば、確かに遠くの方から何か音が聞こえてくる。
しかし、尋常ではない音だということが分かった。
「え、何の音……?」
「そりゃ知らないよね。実は道中大きな鳥を捕まえてね?」
「鳥だと?」
「あのー、炎を操る鷹みたいな奴でしたね」
「えぇ?」
身に覚えのある姿の魔物が、木幕たち三人の頭の中に映し出された。
いや、だが何かの間違いかもしれない。
この世界の魔物は多くいる。
鳥型の魔物も多くいるのだが……やはり炎を操るとなると巨大な生物しかレミの頭の中には浮かび上がらなかった。
音がどんどん近づいてくる。
気持ちの悪い叫び声が聞こえ、周囲にいた村民が逃げ惑う。
ガラガラと大きな音を立てて回る車輪は、既に壊れかけだ。
ここまでの道中よく持ったというべきだろうか。
ダンダンッと地面を踏み込んで現れたのは、木幕たちがあの時戦ったフレアホークそのものであった。
「はぁーっはっはっはぁー! よぉー!! 木幕ぅ……!!」
「お、お久しぶりでーす……うぇ……うぅ……」
フレアホークの体にはロープが巻き付けられており、周囲には水瀬が作り出したであろう水が漂っていた。
常に体を燃やしているはずのフレアホークは冷たくなっており、なんだか元気がない。
しかし槙田に叩かれてびしっと頭を上げた。
後ろの馬車に乗っている水瀬は、酷い揺れを体験したのが今にも吐きそうになっている。
乗り心地は最悪なのだろう。
「ぬわあああああ!? なんで魔物を従えてるんですかぁあああ!!」
「おぉ……? なんだぁ……お前かぁ……! 久しぃなぁ……!」
「あ、お久しぶりです。じゃあなーーい!!」
「レミさん、こんな騒がしい子だったっけ……?」
なんで生きているとか、どうして魔物を馬代わりにしているとか、いろいろなことを突っ込みたかったレミであったが、状況が混ざりすぎてうまく言葉にできないでいた。
水瀬はそれをなんとなく察してはいたが、やはり今まで以上に大きな声を出している彼女の様子には違和感があったらしい。
フレアホークに乗っていた槙田と、馬車に乗っていた水瀬は地面へと降りる。
馬車が既に限界を迎えているので、槙田は炎を使ってフレアホークと馬車を一緒に燃やした。
ようやく休憩ができると、あの怪鳥は一息ついて頭を振るう。
逃げ出せばまた槙田にしばかれかねないので、大人しくその場で待機することにした様だ。
「さーて、また馬車を探さないと……。丁度村があって助かったわねぇ……」
「丈夫なのはぁねぇのかぁ……?」
「さて、どうでしょうね」
相手に聞こえるだけの声量でそう話してはいるが、後ろで燃えている鳥と馬車のせいでなんだか恐ろしい。
槙田と水瀬は木幕の所にまで辿り着くと、小さく頷く。
「話は西形から既に聞いたぁ……。往復ご苦労だったなぁ……」
「お困りなのでしょう? 力になりますよ」
「……お主ら……いいのか?」
「元よりない命ですし、自分より強い者に従うのはこの世界の理だそうですよ?」
「それは知らねぇ……誰から聞いたぁ……」
「忘れました」
緊張感も何もないが……それである方がいい時もある。
今二人は木幕に気を使っているのだろう。
彼の目的を達成するために、力を貸そうとしてくれている。
これだけ心強い味方はいない。
西形も石突で地面を突いて同意の意を示す。
意味はよく分かっていなかったが、スゥも近くにあった西形の槍を掴んでトントンと地面を突いた。
レミは元より、彼に付き従う弟子だ。
同じく薙刀で地面を突く。
彼らの意志をすべて汲み取った木幕は、小さく笑って頷いた。
「では、まずは移動だ。二ヶ月ほどで移動できるか、槙田」
「当たり前だぁ……。この怪鳥は速いぃ……しかし馬車が持たねぇだろうぅ……。代替えを用意するためにぃ、国を経由する必要はあるぅ……」
「十分だな。ではまずはこの村で──」
「そこの者たち!! 今すぐ武器を降ろして手を上げなさい!!」
薄々こうなることを感じていたレミは、やっぱりなぁと呟いてため息を吐いたのだった。
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