10.2.号外!
あと少しでグラルドラ王国だ。
今日は天気も良く旅には最適である。
長い時間をかけての旅路となったが、無事に付近までやってくることができてほっと一息ついた。
もう城壁も見えている。
大きな城が城壁より高く作られており、それだけで国の豊かさが伺える。
今木幕たちが歩いている場所は畑が広がっている場所だ。
城下町より外にある下町なのだろう。
ここを歩くのもなかなか心地がいい。
もうそろそろすれば収穫の時期を迎える野菜もあるようだ。
「懐かしいな」
「馬車で一ヵ月の道のりを徒歩一ヵ月で来るってどういうことなんですかね」
「馬車では通れない道でも人の足では通ることができる。ただそれだけのことだ」
モルト山脈を越えて街道に無事出ることができた後、一行はできるだけ早く向かう為に近道を何度もして移動距離を短くしたのだ。
山を迂回しながら進んでいく馬車とは違い、木幕は山の谷を見つけてはそこに入った。
多少は山も登ったが、通るだけなので比較的安全に、そして体力の消耗もほとんどなく近道をすることができたいたのだ。
地図があったからこそできた行動である。
街道は馬車や兵士たちが歩く道として整備されているため、起伏の激しい道を整備しようとはしなかったらしい。
とはいえ木幕もここまで早く到着することは予想外だったが。
「慣れちゃうと徒歩での旅もいいものでしたね~」
「っ!」
「普通あんな森に好んで入らないもんね。ね、スゥちゃん」
「っ」
スゥはコクリと頷いた。
だがそれによってさまざまな山の姿を見ることができたのも事実だ。
山の中に流れる川を辿って行けば滝が見え、そこを通り過ぎれば湧き水で形成された池があった。
そこで一夜過ごした時、朝焼けで美しく輝く池は本当に綺麗なものだったように思える。
加えて、森の中での稽古もなかなか趣があって良かった。
今までとは違う修行の形は、なんだか楽しい。
すべて含めて、馬車での旅とは違う楽しさを感じることができていた。
最初はいやいやだったが、こうして様々なものを目にしていく内に、徒歩での旅も悪くないと考えを改めた。
勿論最初は根を上げる程に大変だったが……。
「ん? あれなんですかね?」
「騒がしいな……」
段々と村の建造物が増えて行くに連れて、騒ぎも大きくなっているような気がした。
何か祭りごとでもしていいるのだろうかと思いながら、声のする方へと足を運ぶ。
グラルドラ王国まではもう少しだが、ここで少し休息を入れてもいいだろう。
情報収集は大切だ。
辻間の時も会話で彼の存在を発見したことだし、ここでも何かあると踏んで話を聞きに行くことにする。
その場所へと向かってみれば、どうやら兵士数人が何かを配っている様だ。
珍しいこともある物だと思いながら、木幕もそれを受け取ってみる。
「…………」
「わぁー、凄い上手な似顔絵ですねー」
「っー! っー!」
「あ、はいはい」
背が低くて見えなかったスゥは、何度もジャンプしてレミに見せてと懇願する。
意図を読み取ったレミはすぐにしゃがんでそれをスゥに見せた。
その紙には一人の男性の絵が描かれている。
優し気な表情ではあるものの、その紙の一番上には危険人物と大きく書かれていた。
そして“魔王”、という文字も書かれている。
「へ? 魔王? この人が?」
「っ」
「全然そんな風には見え……見え……な、え?」
レミは一つの違和感を抱いた。
それはスゥも同じである。
この顔立ち、何処かで見覚えがあるような気がした。
それは今まで出会ってきた侍たちを見ていれば、すぐに理解することができる。
この世界で生まれ育った人間の顔立ちではない。
似顔絵なので少し特徴が改変されてはいるが、明らかに侍たちの顔をモチーフにして描かれたものだろう。
そして首元には木幕たちと同じ様なゆったりとした服が描かれている。
魔王を見つけてこれを書いた者を褒めるべきだろう。
手がかりが見つかった。
そう思って木幕に声を掛けようとしたのだが、それは憚られる。
「……! ……ッッ!」
「……え、し、しし、ししょ……う?」
木幕は手に持っている一枚の紙を強く握りしめていた。
ワナワナと震えるその手は怒りとも驚きとも、悲しみとも捉えることのできない不規則さを見せている。
だが彼の目を見て理解する。
今木幕は、恨んでいるのだと。
「……殿……ッ!!」
「……との?」
「………
「え……?」
木幕は思い出す。
幼き頃に無邪気に遊びまわる柳を追いかけては、楽しんだ日のことを。
二人で山から薬草を多く持ち帰ったはいいが、若い芽も摘んでしまって怒られた日のことを。
共に育ち、共に励み、共に技術を培ってきた日のことを。
ググググッと握り拳に力を入れた木幕は、その場にいた者たちに叫ぶ。
「この者は今!!!! 何処にいる!!!!」
突然の大声に誰もが木幕を見た。
彼が言っている事はすぐに理解できたが、その答えを知る者はこの村にはいない。
だが一人の兵士が一つ、歩み寄る。
「ローデン要塞だ。各国に宣戦布告をしてきたのだよ。今はすべての国が兵力を上げて魔王軍との戦争の準備をしているところだ」
「いつ……いつ攻めてくる……!」
「二ヶ月後だそうだが……」
ローデン要塞からここまでは移動までに時間がかかる。
約四ヶ月と二週間の旅路になるのは間違いないだろう。
それまでに間に合うかと言われると……無理である。
木幕は柳の戦を知っていた。
こうしてわざと兵士を集めさせるのは、彼の思惑に違いない。
しかし腑に落ちない点もある。
何故柳は魔王軍にいるのだろうか。
そしてなぜ宣戦布告をしてきたのかもわかってはいない。
だからこそ、まず戦争が始まる前に話を聞きに行きたかった。
「行くぞレミ! スゥ!」
「いやちょっと待ってくださいって! なんの用意もできていないんです! まずは準備を整えないと……!」
「ぐぬ……」
確かにレミの言う通りだ。
このまま感情に任せて行動してもいいことなど一つもないだろう。
何とか冷静さを取り戻した木幕は、それに頷いてとりあえずこの場から離れることにした。
納得してくれたことに胸をなでおろしたレミは、スゥを連れてそちらへとついていく。
今回の相手は木幕にとって絶対に戦いたくない相手だということは理解できる。
この世界で言うなれば、仕えていた国王に戦いを挑むということなのだから。
これも神が仕組んだものなのか……。
それともただの偶然なのか。
どちらにせよ、この事を口にする事は絶対にできなかった。
「師匠……」
「少し待て、頭を冷やす……」
「そうですよー。頭を冷やしてください木幕さん」
「「!!?」」
後ろからの声に聞き覚えのあった木幕とレミは、すぐに構える。
だが相手は一切構えることなくただ楽し気に手をひらひらとさせていた。
「あ、あああ貴方……! どど、どう、どうして!?」
「チッ……。そういうことか……」
「っ?」
トントンと手に持っている片鎌槍の石突で地面を突く。
あの時に姿そのままの人物が、そこにはいた。
「やっと見つけましたよ木幕さん! 合流だー!」
「西形正和……。生き返ったか……」
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