8.20.手配


 木幕とスゥは来た道を戻って行く。

 次第に人気がなくなってきたところで、旧孤児院へとたどり着いた。

 だが、未だにレミはここに来てはいないようだ。


 二人で首を傾げた。

 ここまで遅いとやはり心配になってくる。

 できれば探しに行きたいところではあるが……あまり出歩いて逆に探される羽目になるのは御免だ。


「どうする、スゥ」

「っ!」

「まぁ、そうだな」


 スゥは迷うことなく大通りの方向を指さした。

 探しに行こうと言っているのだろう。

 世話のかかる弟子だなと思いながらも、木幕はレミを探すために大きな通りへと足を運んだ。


 スラム街から離れて行くと共に、周囲は少しばかり騒がしくなってくる。

 これだけ大きな国なのだ。

 それも普通かと思ってはいたのだが、何やら今は状況が違うらしい。


 賑やかというより、普通に騒がしい。

 なんだと思って周囲を確認してその原因を探してみると、数名の兵士がバタバタと走り回っていた。

 彼らは国民や冒険者に何かを説明している様だ。


 スゥを連れて近くに向かってみる。

 彼らの話し声がよく聞こえるところまで行ったところで、話を聞いてみることにした。


「皆さん! 今噂の殺人鬼の人相がようやく分かりました! 犯人の男性は、仲間と思われる女性二人を連れてこの国に滞在していると思われます! 今し方分かったばっかりの情報なので、皆さんもこの情報を他の人たちに共有してあげてください!」


 一人の兵士が、声高らかに国民に説明をして、協力を求めていた。

 二ヶ月という長い期間に渡って逃亡を続けていた人物の顔がようやく分かったというのは、なんだか遅すぎる気もするが、これで不安の一部は解消されることになるだろう。

 まだ似顔絵などは作成されてはいないらしいが、これが国中に広まればすぐにでも犯人逮捕に繋がるはずだ。


 隣にいたもう一人の兵士が、紙にかかれた絵を国民に見せつけるようにして腕を上げた。


「今準備できた資料は犯人たちが持つ武器のみです! これがその武器! 見かけた場合はすぐに通報してください!」


 木幕はそれを見て目を見開いた。

 隣にいたスゥも同じだ。

 そこに書かれていたのは、この国に来た時に教えてもらった鎖鎌。

 そして、鎖に五つの短剣が付属された武器と、薙刀だった。


 何かの間違いなのではないかと思ったが、どうにもそんな感じはしない。

 薙刀という武器を持っている者はこの世界には一人しかいないはずだ。


「っ!」

「分かっている……。離れるぞ」

「っ……!」


 木幕とスゥはその場からゆっくりと立ち去った。

 明らかに面倒ごとに巻き込まれたであろうレミのことを考えてみる。


 何かの理由がなければ、レミは犯罪に手を貸すことなどはないだろう。

 手違いがあって誤解されたに違いない。

 人相がバレたとなれば、その顔が手配書に組み込まれる日もそう遠くはないはずだ。


 鎖鎌を持っている男の仲間だと疑われているということは、恐らくレミはその男に何処かで接触したのだろう。

 もう一人の女性に関しては分からないが、レミが一緒に連れていたわけではないはず。

 なので男には既に一人の仲間が居たのだろう。


「これでは、探そうにも探すことはできなさそうだな」

「……」


 レミたちは隠れているはずだ。

 こうなってしまったのは何かしらのきっかけがあるはず。

 向こうも手配されている事には気が付いているはずだ。


 であれば無暗に外を出歩いたりすることはないだろう。

 行動を起こすのであれば夜しかない。

 幸い、レミは魔法袋を持っているはずなので薙刀は簡単に隠すことができる。

 彼女だけであれば朝の行動もこの数日間は可能だろう。


 だがそこで、未だに顔を見せていないというのが気にかかった。

 まだ逃亡中なのか……それとも怪我をしているのか。

 まさか迷子だということはないだろう。


「む、そう言えばスゥよ。葛篭は刀を使って周囲の索敵を行っていた。できないか?」

「~? ……っ!」


 スゥは一度首を傾げたが、すぐに背をしゃんと伸ばして親指を立てた。

 やったことはないし、できるかどうかは分からないがやってみることにしたらしい。

 地面から獣ノ尾太刀を呼び出して、柄を握る。


 しばらくその状態でじっとしていたスゥだったが、大きく頷いて一点指差した。


「っ!」

「向こうにいるのか?」

「っ!」

「そうか……」


 手に顎をやって木幕は考える。

 自分が行くのは簡単だが、それではまた面倒ごとを持ち込みそうな気がした。

 レミは鎖鎌を持っている侍といるはずだ。

 そこで急に戦闘にでもなったら、話がこじれそうな気がする。


「……」

「っ?」

「スゥよ、一人でレミと合流することができるか?」

「! っ! っ!」

「よし、では任せるぞ。話を聞いてきてくれ。某は孤児院で待っている」


 スゥは仕事を任せられたことが嬉しかったようで、その場で二度ほど飛び跳ねる。

 やる気十分と感じた木幕は、小さく笑ってスゥを送り出した。


 子供であるスゥであれば、ほとんど警戒はされないだろう。

 レミも居るのだから、間違っても怪我をするということはないはずだ。

 あとは……スゥの動き次第である。


 木幕はもう少し情報を集めようかと思ったが、鎖鎌を持つ侍も自分と似たような服を着ているはずだ。

 服が似ているだけで捕まってしまうのは面倒なので、そそくさと孤児院へ戻ってスゥの帰りを待つことにしたのだった。

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