7.7.沖ノ島


 情報を収集しに、四人は鍛冶場を後にしてアテーゲ領を歩いていた。

 鉄のことであれば鍛冶師に聞くのが良いのかもしれないが、彼らは鉱夫ではないので何処で鉄が取れるのかはよく知らないようだ。

 打つ、溶かす、作るが専門なのでそう言うことにはあまり興味がないのだろう。


 それも日ノ本とこの世界の違うところの一つだ。

 日ノ本の職人は、木を扱うのであれば木のことを、鉄を扱うのであれば鉱石のことなどを学ぶ。

 使う素材の根本を知ることこそ、語り合うに繋がる一歩であるからだ。


 その違いに驚きこそしたが、餅は餅屋と言うし、専門家に聞いた方が正確であることには変わりがない。

 なのでまずは鉱石を卸している場所へと訪れることにした。


 近くの人に聞いてみればそれはすぐに分かったのだが、大体は輸入品との事。

 ここらで採掘はできなさそうだ。

 そこにいい鉄がなければ、さてどうするかと考えなければならなくなるが、まずは見てみないことには始まらない。

 指示された場所へと早速向かう。


 そこは港の一つで、大きな木箱を運んでいる男たちや、品を確認している商人、船の手入れをしている船大工など様々な人物で賑わっていた。

 潮の香りと磯の香りが混ざり合っているが、意外と悪くない。

 普通このような匂いがしない場所で匂いを嗅ぐから違和感を覚えるのだろう。


 船を見てみると、木箱に紐を結んで降ろしている団体がいた。

 その木箱は小さいが相当重いようだ。


「とりあえず聞いてみるか」

「だんな」


 荷物のリストを確認している商人がいた。

 軽く目に留まったので、その人物に話を聞いてみることにする。


「少し良いだろうか」

「はいはい、なんでしょうか?」

「良い鉄が欲しくてな。購入できる場所、もしくは採掘できる場所などを教えてはくれないだろうか?」

「ああ、それならあれだよ」


 そう言って、商人は一つの積み荷を指さした。

 そこには確かに黒い石や白い石が木箱に積まれており、鉱物であるということが見て取れる。

 だが石動の方を見てみると、小さく首を横に振った。

 どうやらあれは良くないらしい。


 他にはないかと聞いてみると、違う方を指さした。

 まだ船から降ろしている最中の様で、そこには金や銅色をした鉱物がある。

 あれは木幕でも使えない鉱物だということが分かった。

 鉄が欲しいと言っているのに何故金や銅を指すのだろうか。


「なるほど。採掘できる場所はあるか?」

「あー、この辺に鉱脈はないみたいだよ。でもこうして沢山鉱石が入ってくるから、鍛冶師は暇することがない。作った武器は他の国に売られてお金になるしね」

「そうか……」

「見たところ冒険者かな? 珍しい格好をしているけど」

「まぁ、趣味だ」

「そ。大方安く武器を作ってもらおうとしてるのかな? だったら聞いた話だけど、鉱物が眠ってるかもしれないっている島ならあるよ」


 商人はそう言って、遠くの沖を指さした。

 ぽっかりと口を開けた城壁の先に、小さな島が見える。

 あれはここに来る前に海岸沿いで見た島だ。


「どんな鉱石があるのか分からないけど、あるらしい。でもあそこは危険だよ」

「……どう危険なのだ?」

「海賊さ。あそこは海賊のアジトなんだ。でもこの領地には温厚な海賊でね。魔王軍とかを彼らがやっつけてくれてるんだ。みかじめ料として食料や武器を支給してるらしいけど、兵士を動かさずにそれで済むならそっちの方が安いからね」

「……なるほど」


 海賊か、と木幕は心の中でつぶやいた。

 久しく聞いていなかった単語だが、彼らの戦場となる海の上は戦いにくい。

 しかし海賊たちはまるで船の上を大地だと言わんばかりに駆け回る。

 対峙するのは厄介だ。


 しかしこの領地にとって、その海賊は有益な兵士となっているらしい。

 勝手に数が減ってもここに影響がある訳でもないからだ。

 金の代わりに食料や武器を要求されるというのであれば、商人の言う通り安いものなのだろう。


 だが当てはそこにしかない……。

 海賊という輩に会ってみたいという興味もあるが。


 行く方法を聞いてみると、商人からは難色を示された。


「や、やめときな……。行くこと自体は難しくないけど……狂暴だからね」

「では行き方はあるのだな」

「ま、まぁあるよ。みかじめ料として物資を運搬する船が二週間に一度出るんだ。それは明後日だけど……」

「場所を」


 そう言って、木幕は懐をまさぐって一枚の金貨を手渡した。

 刀を作る為であれば、これくらいの出費は安いものだ。

 それに、相手は商人だ。

 こうして情報料としてお金を渡しておけばすぐに話をしてくれることだろう。


 ギョッと目を見開いた商人は、すぐにそれを手に取ってしまい込む。

 その後、何もなかったかのようにしてまた指をさした。


「あそこのトルティー号っていう船がそうだ。人手が足りないみたいだから、行けばすぐに連れて行ってもらえると思うよ」

「感謝する」


 木幕は後ろにいた三人に目を合わせ、小さく頷いてから足を運んだ。

 だがその前に石動に止められる。


「あ、すまない木幕殿。その前に一人会っておいて欲しい人がいるだ」

「む? まぁ二日後だ。では初めにそちらへ挨拶をしに行くとしよう」

「助かるだよ。レミさんとスゥ君もいいかな」

「いいですよ。後この子は女の子です」

「……え?」


 その反応は普通だぞ、と木幕は思った。

 だが間違えられたスゥは少しご立腹だ。

 もう少し女の子らしくしてやった方が良いだろうかと思いながら、石動の案内の元とある場所へと向かったのだった。

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