6.6.隠れていた存在
参ったなと頭を掻く木幕。
そもそも自分は下に就くことが得意なのであって人の上に立てるような人間ではない。
謙遜を、とも言われるかもしれないが、木幕には自信がなかったのだ。
こうして自分の兵力がいると言われても、まだ実感が沸いていない。
しかし……今から訂正するのも面倒である。
彼らのお陰でスラム街の者たちが自ら金を稼げるようになり、今日の食事にありつけるのだ。
押し付けられたことには少し納得がいかなかったが、状況は理想的ではある。
実際、彼らを使うことはないだろうし、そもそも顔を合わせるかも分からないのだ。
この辺は好きにさせておこうという結論に至った。
少し不満げな表情をしている木幕に、ライアは不安を覚えた。
これはまさかと思って、ずいと近づいて話を聞く。
「もしかして、やはり小国程度の戦力では物足りませんか!」
「は? いや、あのだな……」
「そうですよね! うんうん! いやでも任せてください総大将! これからもっと増やしていきますので!! お手は煩わせませんよ!」
「ああ、むぅ……。もう好きにせよ……」
「了解です!!」
もういろいろ諦めた木幕は、大きく息をつく。
ライアがこんなに思い込みの激しい奴だとは知らなかった。
レミも少し引いている。
助け船を出そうとしてはいた様だが、彼の勢いに負けて押し返されてしまったようだ。
ライアはあれから努力して金を稼ぎ、スラム街の人々を助け、バネップに叩きのめされていた。
子供たちはまだ簡単な仕事しかできないので稼ぎは少ないが、それでも一生懸命今日の食事代を稼ごうとしていたのだ。
バネップの協力もあり、スラム街の人々は全員が仲間になり、助けてくれた礼だと言って誰もが力になりたいと躍起になってくれている。
大々的にこの事がルーエン王国に広まってしまったので、隠し通すことはできなくなったがギルドは強い者が増えれば仕事が楽になるし、他の者に休暇を与えることもできる。
その為嫌な顔はされなかった。
順風満帆とでも言わんばかりに事が上手く進み、スラム街の中でも強い者が数人生まれた。
嫌悪していた若手冒険者は次第に実力を付けていった彼らに焦りを覚えたようだが、時すでに遅し。
彼らはランクをどんどん上げ、上位冒険者とため口で話せるような仲にまでなっていた。
もうルーエン王国のギルドで彼らを馬鹿にする者はいない。
しかし、それに合わせて問題も少しは発生した。
上位冒険者となったスラム街出身の者が捨て子で、その親が名を轟かせた子供のすねを齧ろうと訪ねて来たり、守り育てられている子供の親が急に引き取りに来たりなどと言った事件が何度もあった。
だが一度捨ててた親の元へ帰ろうと思う者など一人もいなかったし、子供を引き取りに来た親は元より金目当てでの引き取りを要求しているということがバレバレだった。
そんな所に戻そうとは思わないし、戻りたくないとも言ってくれていた。
スラムでの生活を彼らは一度として忘れたことがない。
面汚しなどと言われて追い出されたものや、育てられなくて口減らしのために捨てた家計もあったのだ。
そのせいで、彼ら彼女らはスラムでの生活を強要された。
誰がその原因となった者の家に帰ろうと思うのか。
強引な手段を取ろうとした者もいた為、そう言った場合は皆で返り討ちにしたこともあった。
皆が助けてくれたライアを慕い、そしてそのきっかけを作ってくれた木幕に憧れを持っていたのだ。
もう、スラムでの生活を強要されることがないような、そんな逃げ場所を作りたいと全員が誓っていた。
彼らのリーダーは木幕を置いて他にいない。
ライアは本気でそう思っていた。
「また紹介しますね! 僕には劣りますが皆強いです!」
「努力は認めるが天狗になるな」
「あてっ」
調子に乗り始めているライアの頭を軽く叩く。
大げさに痛がって見せたが、なんだかうれしそうだ。
「おもれー話
突然聞こえた声に、全員が身構える。
だが何処にもその声の主の姿はない。
気配も感じれないようだ。
すると、地面から手が生えた。
「ぎゃああああ!?」
「きゃああああ!!」
「……?」
驚くレミとライア、そして臆さず出てきた手を突つくスゥ。
木幕も流石にこれは肩だけを上げて驚いていた。
まるで妖怪のような登場の仕方だ。
地面に手を置き、ぐっと力を入れて体を持ち上げる。
握っている刀を丁寧に地面に置いてから、両手を地面に着けて腕の力だけで体を地上へと弾き出す。
軽やかな着地と同時に刀を持ち、腰を伸ばして大きく息をつく。
その刀は大きい。
大太刀と呼ぶに相応しいその刀には獣の毛皮が鞘に巻かれ、まるで獣の尻尾のように見えなくもない。
背には少し大きめの風呂敷が背負われており、隙間から木材が見えた。
懐には何かが入っているのか少し服が傾いている。
相当重い物が入っているということが見て取れた。
赤い羽織に少し大きい帯をしている。
男は鍔の眼帯を左目にしており、頬が少しこけているようだ。
職人気質な顔立ちを有してはいるが、何処か楽しげに笑っていた。
「
「「なんて?」」
理解不能なその言葉を聞いて、二人は首を傾げる。
木幕は普通にその言葉の意味が分かった。
どうやら出身地が近い様だ。
「
「
「
「小童
「
「
「「なんて!!?」」
呪文のような会話に、二人は息を合わせて突っ込んだのだった。
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