6.3.ライルマイン要塞へ
大きな城門での検問は、有り得ない程の時間を有した。
長蛇の列がなかなか進まないのだ。
なぜこんなに時間がかかるのか、何度もここを経由している御者でも分からないとの事だった。
ようやく城門前に辿り着き、衛兵に話を聞いてみると、なんとも物騒なことが中で起こったらしい。
一人の冒険者が体を両断されており、捨てられていたのだとか。
そのせいで魔物が一時的に大量発生して大変なことになったようだ。
血の匂いに反応して集まったのでは、と冒険者たちは口にしていた。
これはギルドでも噂になった話であり、昨日まで冒険者たちは大忙しで魔物の討伐を行っていたらしい。
だが人を両断することができる人など、勇者くらいしかいないとして、魔物に襲われたのだろうという結果に落ち着いていた。
しかし事件という形で起こってしまった話の為、念のために入国をする者の点検を強化したらしい。
その為いつも以上に入国に時間がかかってしまったのだ。
「犯人は本当に魔物何でしょうか? ここ要塞ですよ?」
「うむ……確かに」
レミの疑問に木幕は頷く。
これだけ大きな街だ。
それに防衛設備もしっかりしているし見張りも多い。
魔物が近場で冒険者を襲っていたら分かりそうなものではあるが……。
「物騒だねぇ」
「情報はもうないのか?」
「死んだ奴らの仲間や、死んでいる場所にいた木こりたちに話を聞いたらしいだけど、誰も口を割らないそうだ」
「何故?」
「知らんよ」
御者はそう言って入国手続きを済ませて行く。
そんなこと普通あるのだろうか?
魔物であれば魔物と言えば済むだけの話だし、嘘でも魔物と言えばそれで話はお終いだ。
だというのに口を閉ざす……。
彼らは何を見たのだろうか。
暫くここに滞在する以上、こういった危険な話には耳を傾けておきたい。
用心することに越したことはないのだから。
手続きがようやく終わり、馬車を中へと進めて行く。
入ってしばらくしたところで、木幕たちは降ろしてもらった。
「世話になった」
「おうよ! こっちもいい腕のあんちゃんがいて助かったぜ! 次はルーエン王国に向かうから、予定が合えば来てくれよな!」
「では、ギルドでお主の名前の依頼が出ていれば受けるとしよう」
「おう! ……あ! そうか今度はこっちが金払うんか!」
「フッ」
今回は小さな村から無理を言って乗せてもらっていたのだ。
だからこちらが金を払った。
しかし大きな街を出るには護衛が必要だろう。
その為にはギルドで護衛依頼を出しておかなければならない。
今度は向こうが金を払わなければならないのだ。
その事に気が付いた御者は笑いながら手を振っていった。
同じ様に軽く手を振り、踵を返す。
「さて、こういう時はどうするのだったか」
「まずは宿ですね! でもギルドの近くは無理だと思うので……少し離れている場所にしましょうか。師匠は静かな場所の方がいいでしょう?」
「うむ。では任せる」
「分かりました。ではとりあえずぶらぶらしてみますか」
レミの提案に木幕とスゥは頷く。
今は昼時で少し腹が減っていた。
大きな街なので屋台も多く出ているので、まずは食べ歩きでもしながら腹を満たすことにする。
ライルマイン要塞は非常に賑やかだ。
最前線とは思えない程民が楽しそうに仕事をしたり、子供たちがパタパタと走り回っている。
まるで危機感を覚えていないような感じもして少し危ない気がするが、ここまで平和に過ごせているということはそれだけこの要塞が強固であるといってもいいだろう。
安全に暮らせる場所程いい場所はない。
街も随分発展している。
大きな教会があり、仕立て屋や肉屋があり、冒険者ギルドは東西南北に一つずつある有様だ。
流通も多く様々な物品が売られている。
良い街だと言わざるを得ない。
これだけ良い街なのだ。
一つの事件があっただけで入国者の荷物点検を強化するのは間違ったことではない。
だが、それから察するにここの城主は相当臆病なのかもしれないということも垣間見えた。
会う機会はないだろうが、そんなことで最前線としての城主が務まるのか少し疑問である。
道中購入した果実を食べながら、木幕は街の様子を観察した。
ここであれば退屈はしなさそうだ。
人も多ければ仕事ももちろん多くなるはずだ。
後は……。
「スラム街だな」
「それは明日にしましょうか。長旅でスゥちゃんが疲れてますし」
「ふむ、それもそうか」
一ヶ月以上の長旅は、小さな体のスゥには堪えたようだ。
だがあれから少し体が大きくなったような気がする。
段々刀を持つ手に力が入るようになり、その大きさもぴったりになるように近づいていく。
子供の成長速度は早いものだ。
レミは一つの宿を発見し、そこに泊ることを提案した。
ギルドからは少し離れているが、出店もなく静かでいい場所だ。
木幕の許可を取ったレミはここの店主と話を付けて部屋を用意してもらうことにした。
離れている宿なので値段も安く、他に泊っている人も少ない。
店主としては泊まってくれる人が増えるのは大歓迎であったようで、丁寧な対応をしてくれた。
とりあえず今日は体の疲れを取ることにする。
手がかりは木像を作っている人物という話しかないが、まぁ何とでもなるだろう。
暫くここに滞在していれば手がかりも新たに見つかるはずだ。
木幕たちはベッドに横になる。
自分が思っている以上に疲れていたのか、瞼を閉じるとすぐに寝てしまったのだった。
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