5.28.ローデン要塞の加護宝石
その宝石を見たドルディンは酷く驚き、宝石に顔を近づけてまじまじと見る。
そこまで驚くものなのだろうかと、木幕は彼の反応と行動に若干驚いて少し身を引いた。
「木幕さん、これを何処で……」
「ローデン要塞の下町で、薬草を採取した時に
「下町……」
木幕の回答が府が落ちないのか、ドルディンは首を傾げて疑いの目を向けてくる。
とは言えこれは本当のことであり、嘘は言っていない。
しかし木幕としては、この宝石が危険を察知してくれるものだということしか分かっていないのだ。
まずはこの宝石について話を聞きたい。
話を聞いてみれば、これは木幕が感じた通りの性能を持っており、有り得ない高価な物であるようだ。
魔物の接近を光によって知らせてくれる宝石。
中には様々な魔法回路が組まれているようで、Sランクの魔物から取れる魔石を使用して作られているらしい。
貴族や王族などは持っていて当たり前なのだが、一般の兵士には手が出せない代物で、そもそも作ることすらできないのだとか。
こんな石ころがそこまで高価な物だとは知らず、随分と乱暴に扱ってしまっていた気がする。
とりあえずこれは誰が持ったいたのかを聞いてみた。
「これはローデン要塞の加護宝石で勇者殿が持っているはずの代物だ……」
「そうなのか。持ち主が分かって良かった。で、この持ち主の勇者はどっちなのだ?」
「知っていたか。恐らくだが引退された方の勇者、メディセオ様のものだな。捨てたというのはおかしな話だし、届けてあげるのがいいはずだよ」
確かにそうだと木幕は頷く。
元よりそのつもりだったので、後で元勇者のいる場所を訪ねてみることにする。
だがそれは後だ。
どうやらドルディンはまだ木幕に話があるらしい。
「まぁ、それは置いておいて……。貴方にはここローデン要塞周辺の調査を行って欲しいのだよ」
「調査?」
「ああ。ここローデン要塞の冒険者でも単騎でボレボアを討伐できるものは少ない。だがボレボアが出現した何処かに魔物が潜伏している可能性がある。発見して報告してくれればそれでいい」
一見簡単そうな依頼に思えるのだが、ここローデン要塞の冬は厳しく外に出て調査すること自体難易度が高いものになっている。
スノードラゴンを討伐した時はたまたま天気が良かっただけだ。
帰っている時には既に雲行きが怪しくなって風も強くなってきていたし、あの中で調査をするのは過酷である。
碌な装備も整えられていない木幕が長時間ローデン要塞の外で調査を行うのは少し難しい案件だ。
流石にこれには首を横に振る。
「某だけでは無理だな」
「勿論それは承知している。だからパーティーをこちらで決定して調査に向かってもらう予定だ。東西南北、一チームが一方向を調べてもらう形になる。全てで四つのパーティーを結成するつもりだよ」
「四つの方角を一気に調べるのか。何か見つかった場合はどうする?」
「その場合はギルドにまず報告をしてもらう。その後四つのパーティーを集めて会議だね。大体はその方向に向かうことになるだろうけど」
「まぁ、妥当であるな」
天候が良く変わるこのローデン要塞では、数日をかけて周囲を調べるのには向いていない。
なので天候と相談して一気に調べるという作戦なのだろう。
天候が悪い日は調べることができないと思うので、ほぼ運任せの探索になりそうだと思いながら、木幕は招集するメンバーのことを聞いておくことにした。
「さすがに今回は引退した勇者様にも出張ってもらうよ……。後はS~Bランクの冒険者を募る予定だよ。メンバーの中にSランクの人がいれば死にはしないだろうからね」
「そんなものか」
「戦うわけじゃないからね。調査だけだから……」
あくまで調査。
戦いに行くわけではないが、基本的には逃げに徹する戦いを重視してもらうことになっている。
帰ってきてくれなければ意味がないからだ。
一日の調査であれば、木幕も問題がないだろうと判断してドルディンの提案に頷いて了承した。
明日にでも招集がかかるということなので、その時を待つことにする。
「他に何かあるか?」
「いや、今日のところはもうない。明日ここに来てくれさえすれば問題ないよ」
「そうか。では今日のところはお暇させていただこう」
「明日には引退された勇者様も来るだろうから、その時にその宝石を返すといいぞ」
「そうさせていただこう」
これからギルドは大忙しになるのだが、それは木幕の知らぬところ。
SランクやBランクの冒険者に連絡を入れたり、今後来る可能性がある魔物の軍団に備えて防衛準備を整えさせたりするのだ。
今日、ギルド職員は残業が確定した。
木幕はスゥを連れて、ギルドを後にした。
どこに行っても何かしらの問題に巻き込まれるなと思いながら、とりあえず今日のところは泊めさせてもらっている津之江の店に帰ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます