5.13.倒した相手
木幕、レミ、スゥ、津之江、テトリスは同じ机を囲んでいた。
約一名は木幕に鋭い視線を向けていたが、津之江が軽く肩を叩いてそれを注意する。
「なんとなくは分かっているが……某が五人目なのだな」
「そうですね。私の命を狙ってきているのは貴方で五人目になります」
四人の侍が、ここに一度訪れている。
あの刀を見ているのだから、信じるしかない。
話を聞いてみれば、彼らは誰もが非常に弱かったのだという。
女性の身でありながらそんなことを言うということに驚きはしたが、確かに年季が入っているだけの刀であり、名刀と呼ばれるほどの刀ではないということが見ただけで分かる。
女神と呼ばれる存在にここに呼び出され、早速あったのが一人目。
会話することもできない傍若無人っぷりだったという。
残りの三人はここに住み始めてから出会った。
食事を食べたら即斬り合い。
とは言っても、誰も掠り傷すら付けれなかったと、津之江は少し自慢げに話した。
そしてテトリスはその侍を四人全て見ている。
彼女は津之江が転移されてから面倒を見ている人物であり、彼女の料理の腕に惚れ込んでこの店を手伝っているのだ。
当初からの付き合いである彼女たちの中は、切っても切れない縁となって繋がっていた。
だから転移者の顔は分かっているのだ。
特徴的な顔なのですぐにわかる。
「それで、手を煩わせる前に倒そうとしたんですね……」
「そうです!」
「で、でも師匠は強いから……」
「はぁー!?」
レミの発言に怒るテトリス。
もう既にこの辺りから勝負が決まっているような気がするのだが、それは誰もが口にしなかった。
自分の腕に相当の自信があるようだが、その前に先ほど木幕にいいようにやられたことを覚えているのだろか。
だというのにここまで強気に出れる彼女には、違う意味で尊敬の目を向けることができる。
津之江も彼女の性格を知ってのことか、何も言わずただ軽く額に手を当てて首を横に振っているだけだった。
どうやら彼女も彼女で苦労しているらしい。
喧嘩腰のテトリスと、それを何とか宥めようとしているレミは放っておいて、二人は話を続けていく。
「しかし、敵が弱わかったとは面白いことを言う。お主の得物はなんだ?」
「永氷流薙刀術。これが私の流派です」
「薙刀であるか……」
「はい。敵が弱かったというのは本当にそのままの意味ですよ」
「ほう?」
木幕が興味を示したことを確認したのに対し、津之江は少し詰まらなさそうに話し始める。
「剣先はこちらを向いていない、ただ荒いばかりの上段からの切り込み、
そう言った後、今まで出会ってきた侍たちの話の愚痴をこぼし始める。
一人目は何を思ったのか、突然斬りかかって来た。
不意打ちもいいところだったので危なかったのだが、何と回避することができたらしい。
しかし、その相手は何かに怯えているようで剣先が全くこちらを向いていなかったという。
とは言え襲ってきたのは事実。
そのままサクッと始末してしまった。
二人目は荒くれ者という言葉が似あう風貌だったらしい。
侍というより何処かの山賊。
ガツガツと飯を喰った後すぐに戦ったそうだが、なんの稽古もしていない力任せの剣。
「私に力任せの剣は通用しません」
そのまま薙刀で受け流すこともなく、足を切って跪かせ、喉を掻っ切った。
三人目は心意気などは立派なものだった。
帰ったら自分が当主の跡を継ぐと意気込んでいたが、いざ戦って見れば子供の遊び。
勉学に優れていたことは認めざるを得ない程の智恵者ではあったが、実力は下の下であった。
四人目は津之江を非常に苛立たせた人物だったらしい。
自分は凄いのだ、誰誰を師に持ち免許皆伝をもらっているなどと言っていたので、これは今まで出会って来た者たちより難儀かもしれないと思っていたが、その実力はそこら辺にいる大人と大差ない。
何か突出した技量がある訳でも、秘技を持っているというわけでもない。
ただ津之江が女性であるというだけで強がりたかった愚者であった。
津之江はこの会話を本当に詰まらなさそうに話している。
だが木幕は、その話を真剣に聞いていた。
津之江は彼らを弱かった、と言っていたがこれは津之江が強いということになりえる情報である。
謙遜しているだけなのかもしれないが、それでも相手を躊躇なく殺せる覚悟を持っている。
これがあるかないかで、実戦で戦えるかどうかが変わってくるのだ。
少し見方を変えてみれば、殺された者たちは様々な情報を残してくれていた。
剣先がブレていたというのは恐怖からくるもの。
力任せの剣術はそれなりに威力のあるものだ。
だが津之江はその攻撃をいなす方法を知っている。
智恵者の実力は確かに下の下だったかもしれないが、そう言った者は人を見る力がある。
動きを検討できない程の速度でやられた可能性もあるのだ。
最後の四人目は免許皆伝をもらっていた。
だというのに津之江はその者の戦いを通し、彼を愚者と称した。
(戦った者を褒めぬか……)
それが彼女の欠点であり、強みであることは間違いがないだろう。
もう少し話を聞いてみるのがよさそうであると、木幕は彼女の話にまた耳を傾けた。
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