4.65.武器と装備と
装備の受け渡し日がやって来た。
受け取りに行く為、木幕、レミ、そしてスゥがレイラの工房に入って待っている所だ。
スゥはこういった場所に入るのが初めてなのか、周囲をしきりに見て楽しそうにしている。
色んな武器や盾、装備などが飾られている為、見て飽きるということは無さそうだ。
「お待たせ~」
工房の奥から出てきたレイラは約束の品を持ってきた。
すぐに広げてどの様になったのかを見せてくる。
赤を基調とした分厚いローブ。
フードも付いており、その両脇には切れ込みがあって腕を外に出しやすい様になっている。
前も牙のボタンで止めることが出来る様で、開けていればこのローブは戦闘の邪魔になりにくい。
羽織ってみれば、中はとても暖かい。
動物の皮で作られている為、風は一切通さない様だ。
それに葉隠丸も隠すことができる。
非常に良い物だと着てみて分かった。
「似合ってるね~!」
「気に入った。それと……」
「分かってる分かってる! レミさんの武器でしょ?」
そう言って、レイラはまた工房の奥に戻ってしまった。
実はレミの薙刀が壊れてしまったので、以前ここに来た時に武器の新調も依頼していたのだ。
レッドウルフの毛皮の件もあるので、武器はただでもらえることになった。
それに、鞘をここで作ってもらっていたので、その大きさに合う物を仕立てる方が彼女としても良かったのだという。
それならそうと初めに言って欲しかったが、あの時は金銭的余裕もなかったし、打ってもらったばかりの薙刀もあったのでここで買う予定自体なかったのだから仕方がない。
奥から戻って来たレイラが持っていたのは、これまた赤を基調とした薙刀。
柄はレミの身長ほどあり、刃の部分がその背丈を少し超えている。
美しいとまではいかない反り具合で、二段に分かれて無理矢理反りを作っている物だったが、刃は分厚く柄もそれなりに硬い素材で作られているようだった。
これであれば相当なことが無い限り折れるという事はないだろう。
「おおー……ちょっと重いですね」
「これでも軽量化した方なんだよ? 刃にはクオーラ鉱石を混ぜてるし、その柄も樹齢五百年の大木から削り取られた物だからね」
「……え? ちょっと奮発しすぎじゃないですか?」
「なんか知らないけどバネップ公爵の使用人がここに来て色んな素材置いていったのよ!」
「あの人何をしてるの……」
「貴方たちこそ何したのよ……」
お人よし、という訳ではないだろうが、これが彼なりの見送り方なのだろう。
別れ際随分としょぼくれていたのを横目で見ていたので、それはなんとなくわかる。
とは言えこの恩義を何処かで返してもらうぞと言われている気がしてならないが、とりあえず今は無視を決め込んでおくことにした。
一体何処からこの場所で武器を作っていると聞きつけたのかは分からないが……それも気にしないでおく。
早々に旅立って彼の目から逃げることにしようと決めた木幕とレミだった。
「後は……」
ライアはそう呟いて、隣にあったケースから一振りの武器を取り出す。
それは子供の体の大きさにあった日本刀の形をしている武器だった。
彼女はスゥにそれを渡す。
柄は木で作られているが、そのほかの部分は日本刀の姿とほぼ変わりない。
鯉口もしっかりと作られており、鞘も木だ。
黒を基調としたその刀の刀身は少し青く、奥が透けて見ていた。
「これでいいかしら? クオーラウォーターを混ぜて作った武器だけど……」
「……うむ、見事な腕だ。今度ライアの武器も作ってあげてくれ」
「流石にそれはお金取るわよ?」
「構わん」
砕かれてしまったクオーラウォーターをここに持ち込み、これで一振りの武器を作ってもらう事にしていたのだ。
高級品であるこの鉱石で武器を作っていい物かと、レイラの手は震えていたが、やってみると意外と抵抗なく作ることができたらしい。
だが何故か色が半透明になってしまった。
しかしその切れ味と武器の硬度は折り紙付きだ。
多少無理をしても壊れるという事はないだろう。
「~~」
「スゥちゃん気に入った?」
「っ!」
「良かったね。体が大きくなったらまたここで同じ物作ってもらおうね」
「……え!? いやいやいや! 私それで全部のクオーラウォーター使っちゃったわよ!?」
「安心しろ。無ければ取りに行けばよい」
「そんな簡単に言うけど……って、これ取って来たの貴方たちなの!? 本当に!?」
手渡された時は何処からこんな高級品を越えた遺産を持ってきたのかを驚愕したが、まさか木幕たちが取って来たとは思ってもいなかったのだ。
もう驚きを通り越して呆れてしまうが、それを全て使った自分も大概だと思いながら、椅子に座って頭を抱えた。
国宝級ともなる鉱石を全て炉で溶かしてしまったのだ。
罪悪感と後悔が押し寄せる。
だがそのおかげでよい物が出来たのは変わりない。
良い物を作るのには良い素材と腕が必要だ。
自分の腕を良い物というのはなんだか妙な気持ちだが、実際に作ってしまっているのだから少しくらいは大げさに言ってもばちは当たらないだろう。
「では……そうだな。魔法袋と服をくれ」
「ここは武具屋で仕立て屋じゃないんだけどね……。あるけど」
そう言いながら、彼女は店にある物を見せてくれる。
日用品ではなく冒険者用の物ばかりだが、こちらとしてはそれの方がありがたい。
雑談を交えながらも、彼らは出立の準備を整えて行ったのだった。
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