4.64.意思確認


 屋敷に戻って来た三人は早速スゥに話を聞くため、個室に集まっていた。

 何故ここに自分だけ呼ばれたのか分かっていないスゥは、周囲をキョロキョロしながら三人の表情を伺っている。


 椅子に座って一呼吸置いた後、早速本題に入った。


「スゥよ。某たちと共に来るか?」

「……」


 コテンと首を傾げたスゥは、どうして自分にだけその話をするのかが良く分かっていない様だった。

 返事ができないので動きでの返事をよくしてくれるので、言いたいことはなんとなく分かる。

 なので木幕はすぐに納得できる説明を話し始めた。


「沖田川殿と……某は約束をしていてな。それがお主を旅に連れて行ってくれというものだったのだ。某としてはまだ子供であるお主に、この血生臭い旅に連れて行きたくはないと思っていたが……約束だからな」

「だけど、スゥの承諾なしには連れて行けないんだ。どうかな? このままここで過ごしたいというのであれば、この話は無かったことになるけど……」


 スゥは少し悩んだそぶりを見せていたが、すぐに大きく頷いた。

 そんな簡単に承諾しても良い物だろうかと三人は思ったが、スゥは木幕に助けてもらったのだ。

 命の恩人の提案を無視するなんて事は出来なかった。


 それに、一緒にいれば剣術を教えてもらえる。

 他の子たちよりも強くなって驚かせてやろうと考えていた。

 子供らしい考え方である。


「じゃあこれからよろしくね! スゥちゃん!」

「!」

「……レミよ。前から思っていたのだが、何故ちゃんと最後に付けるのだ? それは女子の呼び方であろうに」

「むふふふふ……師匠……」


 レミは少し怖い笑顔を作り、木幕の前に顔を寄せる。


「スゥちゃんは、女の子ですっ!」

「…………は?」


 バッとスゥの方を見て姿を見るが、何処からどう見ても男の子の様にしか見えない。

 髪も短く、背も少し高い。

 この世界ではこのような詐欺まがいな姿をしている子供がいるのが普通なのだろうか。


 少し頭の整理が付かず、凝視したまま固まった。

 しかし、そこでハッと思い出す。


「あの……あのじじぃ……たばかったかぁ……!」


 木幕がスゥは男の子であると勘違いしていたのを沖田川は分かっていたのだろう。

 だからこのような提案をした。

 女であるから教えれないという根本的な概念を断ち切る為に用意された罠だ。


 これも彼の優しさであると言えばそうなのだろう。


「しーしょうっ♪」

「……なんだ……」

「男に、二言はー?」

「……ない……」

「やったー! スゥちゃんこれからは師匠直々に剣術教えてもらおうねー!」

「っ! っ!」


 二人は喜んでいる様だが、木幕は頭を抱えている。

 やると言ったからにはやり切るつもりだが、どうにも腑に落ちない。

 死者の言伝とは、中々に力の強い物だ。


 しかし喜んでいるスゥを見るていると、なんだか考えているのがバカバカしく思えてくる。

 一つため息をついてから立ち上がる。


「はぁ……。では、準備を始めるとしよう」

「はいっ! えっと、次は何処に行きますか?」

「あの御者が何処かに要塞があると言っておっただろう? そこに向かう。それと、レミとスゥの武器の調達と、狼の毛皮で作った服も受け取らねばな」

「もう少し時間がかかりますね。でももうすぐですから防寒着とか用意しておきましょう」


 今度は抜かりが無いように行動しなければならない。

 次に行く要塞は、本格的な雪国だと聞いた。

 だとするならばそれ相応の装備を整えていかないと、今度こそ野垂れ死んでしまう。


 移動方法はレミに任せるとして、取り合えず武器を作りに行かなければならない。

 薙刀は折れてしまったから新調するのが良いだろう。


 さて、もう暫くはここに滞在することが決まった。

 まだやらなければならないことはある。

 準備を整える為、木幕たちは部屋を出た。

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