4.34.お土産


 一度屋敷に戻って来た。

 子供たちの元気な声が中から聞こえている。

 どうやらまだ掃除をしている様だ。


 何事も無くてよかったと思いながら、二人は屋敷の中に入った。

 するとどうだろう。

 ギルドに出て行く前とは全く違う屋敷に来たのかと思う程、綺麗に片付いていた。


 小さな子供と三人の大人だけでよくここまで出来る物だ。

 屋敷の綺麗さに感心しながら、沖田川が帰ったぞという声を出す。


「お爺ちゃん!」

「おかえりー!」


 すると、バタバタと一階の部屋から子供たちが飛び出してきた。

 全身埃だらけではあるが、服を汚れても良い物に変えたのか渡した物とは違う物を着ている様だ。

 この屋敷にあった服だろうか?


「ウィリ、ウルス。しっかりお手伝いできたかえ?」

「あったりまえだよ! イータ兄ちゃんはちょっとさぼってたけど」

「でも私が引っ張って見張ってるから大丈夫!」

「ほっほっほっほ。働き者の子にはご褒美をやらねばのぉ」


 そう言いながら、沖田川は木幕から魔法袋を手渡してもらってクオーラ鉱石を一つ取り出す。

 この中で一番大きなものだ。

 子供二人掛かりでなければ持つことができない程の物で、黄色い光が二人の顔を淡く照らす。


 目をパチクリとしながらその鉱石を凝視する。

 予想外のお土産に驚いて声も出ないらしい。

 その反応を見て沖田川は大層嬉しそうな顔をしながら、頭を撫でる。


「皆に見せて来なさい」

「「あ、ありがとう! みーんなー!」」


 少し危なっかしい運び方だが、とりあえず問題はなさそうだ。

 騒ぎを聞きつけて他の部屋からも子供や大人たちが出てくる。

 子供たちはその鉱石を興味津々に見ている様で、突っついたり撫でたりしながら何処に飾るかを考えていた。


 一方、レミとシーラは大きな鉱石だなと思いながら見ていたのだが、ライアだけは目玉が飛び出すのではないかという程に驚いて固まっている。


「し、ししししょ、ししょ、師匠……?」

「なんじゃ?」

「なんですか、あ、あの、あのクソデカいクオーラ鉱石は……」

「皆同じ反応をするのぉ。普通に木幕殿に取ってもらっただけじゃぞ」

「うむ」

「そんな馬鹿な……」


 反応からして、ライアはこの鉱石の価値を良く知っているらしい。

 何故誰も彼もがこのような反応をするのか聞いてみたところ、今までに誰もこんな大きな物を採ったという記録が無いから、だそうだ。


 一般的に出回っているクオーラ鉱石は大きくても拳大くらいの物しかない。

 しかしその大きさでも価値はとんでもない程にあり、一つで貴族と同じ生活が一ヵ月出来る程の金額がもらえる様だ。

 それがこの大きさになると、一体何処までの金額になるのか想像もつかない。


「これ、宝石とかのレベルじゃなくて、国宝級ですよ」

「マジックウエポンと同じレベルって……」

「ぶっちゃけそれと鉱石を交換してもいいくらいだと思いますよ」

「師匠何採ってきてるんですか!?」

「某が悪いのか!?」


 まさか怒られつとは思っていなかった木幕は、つい声が大きくなってしまった。

 問題が山積みになってしまったわけだが、この魔法袋の中にはまだまだ鉱石が眠っている。

 それをここで出したらまた怒られるだろうか?


 木幕のそんな考えを他所に、沖田川は魔法袋の中から砥石の素材を一つ一つ取り出していく。

 クオーラ鉱石、クオーラウォーター、クオーラクラブの甲羅とくっついていた岩。

 売る気のない物は全て出したのだが、やはりそこでも大きな声が上がる。


「なんっですかこの宝石の山は!!!!」

「綺麗ですね~」

「ちがっ! 問題はそこじゃない!」


 これだけの大きさのクオーラ鉱石とクオーラウォーターが、ゴロゴロとあるのであれば市場の暴落も考えなければならない。

 クオーラウォーターに関しては世に出てはいけない程の物だ。

 一体どのようにして採って来たのだとライアは木幕に問い詰める。


 しかしやった事と言えばクオーラクラブを殺してゆっくりと背中に生えている鉱石を採った程度である。

 後は水の底をさらっただけなので、特に難しい事はしていない。


 そこまで聞いてライアはピンと来たのか、口元に手を当てて何かを思案し始めた。


「普通のクオーラ鉱石はクオーラクラブが生きている状態で採取するのが定石。鉱石自体は非常に硬くて何十発もツルハシを振るわなければ欠片を手に入れることすら無地かしい代物……。だけどこれは欠けてはいない? てことは……活動を停止したクオーラクラブから鉱石を取ると硬度が変わるのか?」


 一つのクオーラ鉱石を手に取りながら、ぶつぶつと一人で考え続ける。

 彼らの言っていることは到底信じられない物ではあるが、これだけの証拠を見せられれば信じざるを得ない。


 クオーラクラブを倒したというのも本当の事だろう。

 そうでなければこのように状態のいい鉱石を採取する事はできないはずだ。


「お二方! この鉱石何処かで見せました!?」

「門番に」

「周囲で見ていた人はどれくらいいましたか!?」

「数えられんのぉ」

「やっぱそうですよねー!」


 この世界に疎い彼らがそのようなことに気を使うはずもない。

 これはとんでもない物を所持してしまったと内心焦っているライアだが、それを他所に沖田川は準備を進めていく。


 すぐに石の加工をしたい様だ。

 手には金槌が握られており、クオーラウォーターに狙いを定めていた。


「え、ちょ」


 パリン、パリン、バリィン……。


「ギャアアアアア!!」


 ライアが必死に沖田川の腕を止める。

 何か変なことをしたかと首を傾げたが、そう言えばこれは依頼品の一つだ。

 何個かは残しておかなければならない。


 小さな物を隣にスッとどかし、布をかぶせた。

 それを見たライアは、分かってくれたかと勘違いして腕を放してほっと息をついたのも束の間、一番大きなクオーラウォータが破壊される。


「ししょおおおおおお!!?」

「うるさいのぉ。なんじゃ」

「いやこれ! いや! 言いますけど超高級品ですからね!? 国宝級ですよ話聞いてましたぁ!?」

「となればよい砥粒が取れるじゃろうな」


 パリンッ。


 結局、クオーラクラブを三つだけ残して後は全て割ってしまった。

 それからは小瓶に砥粒を集める地味な作業が続いたが、その光景を横目にライアは放心していたのだった。

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