4.31.聞いていたのと違う


 クオーラウォーターは思いのほか簡単に取ることができた。

 葉隠丸の奇術で葉を水中に潜らせ、底を箒で払うようにして木幕のいる場所まで持ってこさせたのだ。


 その中にはクオーラクラブの小さな死骸や甲羅などがあったが、しっかりとクオーラウォーターも含まれていた。

 色は青色でとても美しい鉱石だ。

 中に水が入っており、キノコの青い光に照らされるとチラチラとクオーラ鉱石とは違った輝きを見せてくれる。

 しかし、これは全く別の物なのではないかと二人は思っていた。


 その理由は、クオーラウォーターの大きさ。

 依頼書によれば、この鉱石は指先に乗る程度の小さなもののはずだ。

 なのにどうしてここまで大きなものが上がってきてしまったのだろうか。


 一抱えほどある物が大半であり、小さなものはとても少ない。

 小さくても手の平に収まる程度の物までしかなかった。

 どうしてここまで話と違うのだろうかと首を傾げたが、それ以外の物は全て特徴が一致している。

 持って帰っても問題はないと思うが、もしかすると高値では取引してくれないかもしれない。


 まぁ指定された物を持って帰れないのだ。

 仕方がないと言えばそれまでである。


「まだ入るのか……」

「ここまでくると恐ろしいのぉ」


 とりあえず採ったもの全て魔法袋に入れていくのだが、まだ入りそうだ。

 それに重量も感じさせないという優れもの。

 その様子を間近に見てしまったので、感心よりも恐怖の方が上回って来た。


 恐る恐るそれを懐に仕舞うが、何故だか生きた心地がしない。

 便利ではあるのだが……。


「さてと……あるかのぉ?」


 沖田川はそう言いながら、水中の底をさらって上がって来た甲羅や死骸を突っついてはひっくり返していく。

 小さなクオーラクラブを手に取ってまじまじと見るが、これは気に入らなかったようですぐにポイと捨ててしまう。

 しかし、次に手にした物は納得のいくものだったようだ。


 欠けたクオーラクラブの甲羅。

 大きさとしては両手に乗る程の物だ。

 しかしそれはとても分厚い。

 書物を何冊も重ねた様な物で、ずっしりとしているようだった。


「荒砥石に使えるのぉ」


 甲羅、というよりは石と表現した方がいい気がしてきた。

 身体の身だけは肉だが、それ以外は全て石だ。

 先程の大きなクオーラクラブは硬くて甲羅までは砕けなかったが、この残骸であれば問題ない。

 しっかりと砥石としての機能を有している様だ。


 それを木幕に手渡し、魔法袋に収納する。

 これで大雑把に必要なのは仕上げ砥石だけとなった。

 本当はもっと種類があった方が良いのだが、この砥石がどれ程の物なのかは分からないので、とりあえずは三種類あれば良いだろうという考えだ。


 クオーラクラブの甲羅は荒砥石。

 その甲羅についている岩は中砥石。

 こうなってくると自然にクオーラ鉱石に目が行ってしまう。

 一つ取り出して沖田川に「どうだ?」と聞いてみるが、やはり首を横に振ってしまった。


 流石に鉱石という硬さの物は使用できないらしい。

 ならばとクオーラウォーターを差し出してみる。


「…………」

「……」

「ぬ?」


 キノコの光を当ててクオーラウォーターを見ていた沖田川が何かに気が付いたらしい。

 すぐにそれを地面に置いて、金槌で叩き割る。


 一つなくなってもまだまだ数はあるので、どうという事はない。

 割れたクオーラウォーターは中から水を零し、地面を濡らしていく。

 沖田川はその部分を指先で押さえ、目元の近くまで持っていった。

 暫くじーっと見ていたが、パッと明るい表情になって大きな声を出す。


「……おお! これは使える!」

「なんと!?」


 ザザッと近づいてその濡れた部分を同じように指で押さえ、よく見てみる。

 すると、青い砂の様な物が指先についていたのだ。

 割れたクオーラウォーターの中を見てみると、その砂が大量に含まれているという事も分かった。


砥粒とりゅうじゃ!」

「……すまぬ、それはなんだ?」


 あまり一般的には聞かない言葉に首を傾げる。

 説明すると長くなる、と前置きしながら沖田川は分かりやすいように説明しようと考えをまとめていた。

 数秒の後、まとまったようで木幕に説明してくれる。


「砥粒とはの、研いだ時に出る砥クソじゃ」

「……研ぐときに出るあの砥石色のついた水か」

「うむ。仕上げは色が黒くなったりもするが、これは砥粒によく似ておる。布に湿らせて刃物を擦れば輝きが出るじゃろう」


 砥粒の使い方は、砥石の上にその粉を撒くだけの簡単な物だ。

 粒が小さくなればなるほど、刃は良く研がれる。

 中砥石の上でそれを使えば、とりあえずは仕上げ砥石の代用として使用することができるだろう。


 だがそうなると中砥石の砥クソも出てしまう。

 そこで、沖田川はクオーラ鉱石に目をやった。

 これの上でこの砥粒使用すれば、仕上げ砥石の代わりになるのではないだろうかと考えたのだ。

 鉱石はまっすぐに伸びている為、殆ど平面が出ていると思ってもいいだろう。


 結局クオーラクラブから取れる物で全て代用できてしまった。

 後はこれを試してみるだけである。


 研ぐ準備が整ったと、沖田川はホクホクしながら帰路につく。

 もう既に全ての依頼も達成しているし、ここに長居する必要は一切ない。

 帰り際に冒険者と会うかもしれないが、二人だけで潜っていたと言えばまた何か言われてしまいそうだ。

 何とか言い逃れをする必要はないかなと考えながら、二人は地上へと歩いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る