4.20.一時帰宅


 食料は後からでもいいので、まずは身軽に動ける内に服屋に赴くことにした。

 見る物は子供用の服と、材料代。


 やはりというか、総合的に見ると服を普通に買うより、材料を買う方が安い。

 とは言えこの国は寒い。

 故に分厚い服が多いのだが、これを一から作るとなると随分大変だろう。


 時間がかかっても安く済ませるか、少し出費を出して早く移動するか……。

 よく考えれば、早く移動した方が良い。

 服を作るのには時間が掛かってしまうのは間違いないし、早く子供たちを屋敷の生活に慣れさせる方が良いかもしれない。


「どうします?」

「向こうでも修行は出来る。早い方が良いのであれば、作るのは辞めても良いのではないか?」

「ですよね。サイズ分からないですけど……少し大きめの服買っておけばいいですよね!」

「子供の成長速いからな。良いと思うぞ」


 方向性は決まった。

 買うのは上の服と下の服と……靴。

 とりあえずこれを七セット分。


 見たところ、あの孤児院の子供たちは全員が同じような背丈だったと思う。

 だがやはり女の子の方が少し背が小さい。

 下の服は腰ひもで縛れば、どんな服でも殆どは問題無い。

 上の服も同じだ。

 問題は靴。


 流石にこれはサイズが分からないと選ぶことができない。

 サイズを変えれる靴があれば良いとは思うのだが……。


「革靴ばかりであるな」

「ブーツとかも結構ありますけど、子供用となると難しいですねー」


 暫く靴を眺めていたが、とりあえず子供にしては少し大きめの靴を選んで購入した。

 足首辺りをひもで縛ることが出来る物の様なので、多少ぶかぶかでも履けないことは無いだろう。

 彼らの年齢は大体十歳から十三歳くらいだ。

 少し成長すれば、すぐにぴったりになるだろう。


 その前に冒険者用の靴に変えることになるかもしれないが、それならそれでいい。

 次の子たちが使えるようにしておけばいいのだから。


 全ての服を購入したが、資金はまだまだある。

 しかし……。


「随分な量になったな……」

「まぁ、冬服ですからね。でもこれじゃ食料変えないので、とりあえず一回帰りますか」

「うむ。そうしよう」


 このまま食料を買いに行くと、どれだけの荷物になるか分からない。

 一時帰宅するために、二人は孤児院へを歩んでいった。



 ◆



 孤児院に戻ってみると、子供たちが木の棒を持って素振りをしていた。

 沖田川とその弟子のライアが面倒を見ている様だったが、ライアは何故かボロボロである。

 一体どうしたのだろうかと思って声を掛けようとしたが、その前に沖田川に声を掛けられた。


「おお、戻りなさったか」

「はいっ! とりあえず子供たちの服は全部買ってきました。時間も惜しいですし」

「それもそうじゃのぉ。おーうい子供たちや。新しい服じゃぞ。好きなのを選びんさい」


 彼がそう言うと、子供たちは素振りを止めてレミと木幕の所に走ってくる。

 だがレミがすぐにそれを制止した。


「ストーップ! まずは体を洗いますよ!」

「こんなに寒いのに!?」

「そうです。綺麗な服を着るんですから、綺麗な体じゃないと駄目です」


 そう言われれば確かにそうだと、子供たちは頷いた。

 素直な子たちだ。


 服を購入してから子供たちを一度洗おうという話になったので、帰り道に薪を何個か買った。

 流石にこの寒さの中で体を洗えば、冷え切ってしまう。

 洗った後すぐに温まってもらう為の策だ。


 その役目はライアが請け負ってくれたので、木幕が運んでいた薪を全て渡した。

 孤児院にはほとんど使われている形跡はないが、暖炉が残っていたのでこれを使わせてもらう。


「じゃ、私は子供たち洗いますね。シーラさーん! 手伝ってくださーい!」


 そう言いながら、レミは子供たちを井戸へと連れていく。

 こうなるのであれば、毛布か何か温かい物を買ってきてやりたかったのだが、流石に荷車も無かったので買ってくる事は出来なかった。


 当初は服ではなく、その材料を買う予定だったのだ。

 手持ちに余裕がなくなるのは想定していなかった。

 だが何事も用意周到でいなければならないなと考えながら、木幕は沖田川の隣に座る。


「何故にライア殿は泥まみれなのだ?」

「子供たちの稽古相手をしておってな。それと、儂の雷閃流の技を全て教えた。まだ拙いが、あの子なら物にするじゃろう」

「通りで」


 恐らく泥だらけなのは子供たちに追い回されたか、盛大にこけたのだろう。

 だが腕の傷が多かった気がした。

 その理由は彼が教えてた雷閃流によるもの。


 持っていた武器も傷が多くなっていたような気がする。

 打ち込み稽古でもしたのだろうか?


 とまぁ無駄な考察はこの辺にして、子供たちの様子を聞きたい。

 これからの方針に従ってくれるのか。

 それとも何かしらの意見が出たか。

 同意の上でなければ、強要という形になってしまうので、どうしてもそこだけは聞いておきたかった。


「どうなのだ?」

「皆良い子じゃ。全員が了承してくれたの。まぁ、それもここより良い家に住める、飯も食える、服ももらえるし仕事もできる。そんな場所を与えてくれて、断る者などここにはおらぬわい」

「そうか」

「でも、感謝しておるのじゃぞ? 皆な」


 沖田川はそう言い、井戸の方へと目を向ける。

 その方角は孤児院に阻まれているので、子供たちの姿を見る事は出来ない。

 だが彼はそのまま優しい口調で、呟いた。


「有難うのぉ」

「そこは「かたじけない」でよい」

「なぁに。こんな事、有ることが難しいに決まっておる。儂はそこまで頭が回らんかった。精々、この場所を守る程度の事しかできぬ老体よ。レミ殿の智恵と、お主の助けが無ければ、今も子供たちに苦しい思いをさせていた。……有難う」

「構わん」


 まだ何も始まっていないのだ。

 ようやく鯉口を切った程度の事。

 問題に直面するのはこれからだと、レミの話から大体察している。

 それを乗り越えて、ようやく抜刀できるのだ。


 まだ礼を言われるには早すぎる。

 そう思うと、今暫くは彼を斬る事は出来ないだろう。

 もう少し、行く末を見守らなければ納得もできまい。


「さて……っと。もう少しライアをしばかねばのぉ」

「程々にな」

「今すぐに習得してもらわなければ困るのじゃ。形だけでも、物にさせねば」


 彼はそう言って、ゆっくりとした足並みで孤児院に戻った。

 丁度子供たちも体を洗い終えたようで、新しい服を選んでいる。

 暖炉そっちのけで選びに行くとは、よほど楽しみだったのだろう。


 喧嘩もしていない様だし、なんとも仲の良い子たちだ。


「某も動くとしよう」


 すくっと立ち上がり、木幕も孤児院へと足を運んだ。

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