4.14.ライア・レッセント


 木幕たちは外に出て、まずは住む家を決めようと街に行こうとしたのだが、孤児院の庭に一人で剣を振っている少年がいる事に気が付いて立ち止まった。

 その剣は沖田川の持っている物によく似ている。

 だが鞘は木ではなく革だ。

 制作を依頼した鍛冶師の技量では、木の鞘は作れなかったのだろう。


「おじいちゃん! ライア帰って来た!」

「おお、そうかえ。教えてくれて有難うなぁウィリ」

「どういたしまして!」


 ウィリと呼ばれた子供は、木幕に屋台での礼を言うと、すぐに皆の元へと行ってしまった。

 ここにいる子供が彼の事を知っているという事は、味方なのだろう。

 少しばかり身構えていたのを完全に解き、沖田川と共に少年の所まで歩いていく。


 近づいてきたことに気が付いたのか、剣を鞘に納めて小走りでこっちに走って来た。


「今帰りました師匠!」

「え?」

「む?」

「お帰りライア。怪我はないかの」

「はい! 問題ありません! えっと、師匠? この方たちは……?」


 そう言い、彼は二人の事を手で示す。

 沖田川は小さく頷いてから、紹介してくれる。


「木幕殿とレミ殿だ。子供たちの行く末を変えてくれる者たちじゃよ。挨拶なさい」

「お、おお! そうですか! 初めまして木幕さん、レミさん! 俺はライア・レッセントって言います! 宜しくお願いします!」


 ライアは頭を深く下げて挨拶をしてくれた。

 とても良い子だという第一印象を受けるが、それよりも持っている武器と沖田川の事を師匠と言ったことが気になって仕方がない。


 その事をレミが聞いてみると、ライアは胸を張りながら説明をしてくれる。


「へへっ、師匠は強いし助けてくれるしで、俺その剣技に惚れたんです! そんで弟子入りしたんですよー!」

「そうなんですね! 私はちょっと違うんですけど、ライアさんと同じ様に弟子やらせてもらってます!」

「おー! そうですか! いいですよねー師匠たちの剣技!」

「確かに! でも私あんまり教えてもらってないんですよねー」

「俺もですよー。一個だけしか教えてもらってないです」


 同じ弟子同士、話が通じるところがあるのだろう。

 師匠二人を差し置いて楽し気に会話をし始めてしまった。


 二人の言った通り、木幕と沖田川はあまり技を教えていない。

 木幕に限っては教えることができないというのが一番大きい所なので、立ち合いとしての基礎を教えているだけだ。

 沖田川はまだ技を教えれる段階まで来ていないという事で、あえて教えていない。

 まずは体に染みついた変な癖を全て矯正しなければならないのだ。

 それが終わらなければ、まだ技を教えれない。


 だが、それもそろそろである。

 もう少し時間が経てば、教えようと思っているのは内緒だ。


「良い弟子であるな」

「なに、まだまだ小童よ。じゃが木幕殿は女子を弟子にしておるとは」

「この世では女でも戦に身を投じると聞く」

「郷に入っては郷に従え、という奴じゃな。しかし、薙刀をつこうておるのに槍術を教えるのかえ?」

「某は薙刀の立ち合いはしたこともない故、分からぬ。槍術の基礎から、己の力で技を見出してもらうつもりである」

「なるほどのぉ」


 葉我流剣術は、基本的には自分で技を作ることを許されている。

 葉は一つとして同じ落ち方はしない。

 その考えに則って、木幕が教えるのは基礎のみ。

 後は彼女次第である。


 話を聞いて沖田川はなんとも難しいことを要求するものだと思ったが、それもまた修行の一つ。

 一人が決めた技を継承し続けるのも面白いだろうが、自分の技を見出すのも面白い物だ。

 彼がそうであったように。


「ふむ、そろそろと思ったが、もう教えた方が良いやもしれぬのぉ」

「それで……え!? マジですか師匠! やったぁー!!」


 ライアはレミと話していたが、沖田川の呟いた言葉を聞き逃しはしなかった。

 力強くガッツポーズをした後、腰に携えていた武器を右手に持って軽く頭を下げる。


 それを見た沖田川は、何も言わずに少し歩いていく。


「木幕殿、レミ殿。そちらは頼んだぞ」

「任されました! よし、じゃあ行きますよ師匠!」

「うむ」


 決めておかなければならないこともある。

 という事で二人は孤児院を出たのだった。


「まずは新しく住む場所ですよ!」

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