4.13.レミの策
「「「はぁ?」」」
レミの提案に、全員が同じような声を上げた。
あまりにも突拍子のない事で理解が追い付いていないというのもあるが、何よりもその策がとても長期に渡るものであったのだ。
だが……。
「……いや、レミ殿の言う通りじゃ。それが上手くいけば差別も少なくなるじゃろう」
「で、ですよね! ですよね!」
三人から首を傾げられて少し自信を失っていたレミだったが、沖田川の言葉に元気を取り戻した。
悪くはない策ではあるが、それを実行するためには金と時間がかかってしまう。
金は一時的な物でいい。
だが時間が本当に掛かる。
険しい道のりであることには間違いない。
だがその先にある物は、とても強固なものだ。
レミが提案した策は、この孤児院にいる子供たちに剣を教えるという物。
そして冒険者活動をしてもらうという事だった。
当たり前にできなければならないことかもしれないが、今の子供たちにそんなことができるとは思えなかったのだ。
だがやっていくしかない。
今は厳しいかもしれないが、子供たちが育ってくれれば強固な集団になる。
資金はあるし、後は住む場所さえ決まれば立ち退きを強要されることもない。
全員がそちらに逃げれることができれば、暫くは大丈夫だろう。
「えっと……子供たちは良いのですが、そうなると他のスラムの人々はどうするのですか……?」
「いっぺんには無理です。ちょっとずつ、ちょっとずつ助けていくしかありません」
まず大切なのは、しっかりと働けるものを育成する事。
そうして余裕が生まれたら、また新しい担い手をスラム街から引っ張ってくる。
これを繰り返していけば、いずれはスラムの人々を全員助けることが可能になる筈だ。
だが問題もやはりある。
そういう噂が広まり、一気にスラムの人々が押し寄せてきても助けきれない。
ここだけはできるだけ隠して、噂を広めないようにしなければならないだろう。
「私もこれが最善策だとは思いません……。ですが今あるお金でこの現状を一時的に解決するよりは、これからの事を見据えてこのお金を使った方が良いかと思いまして……」
「良いのではないか? どんな問題でも一瞬で解決できるものなどない」
「うむ。では早速支度せねば」
「えっ? えっ?」
指摘されると思っていたので、なんだか肩透かしを食らった気分だ。
だがこれで方向性は決まった。
彼らが自分の力で生活できるようになれば、国もいずれその力を認めてくれるはずである。
それに同じ境遇にあった者同士。
団結力は他の集団よりも強固になることは間違いない。
それがどれ程にまで心強い物なのかを、木幕と沖田川は知っていた。
だからこそ、この策はとてもいい物なのだ。
時間はかかるが、そこで築き上げた絆は誰にも破られることのない物となるだろう。
二人はすぐに立ち上がって準備をしはじめようとしたが、そこをレミが制止する。
「なんだ」
「いやいや、方向性は決まりましたけどまだ考えておかなければいけないことがあるでしょう!」
「む?」
「はて?」
「ええー……。ほら、住む場所ですよ! 住む場所! どんなところがいいかとか確認しとかなきゃ!」
「「ああ」」
「もう!」
失念していた。
子供たちを育てるのにも、家が無ければ始まらない。
訓練をするにあたって、できるだけ広い土地が良いというのもあるし、人も多くなることを考えれば追加で土地や家を購入しなければならないかもしれないのだ。
そう言った事も全て考えておかなければ、後々取り返しがつかないことになるだろう。
どうして先ほど話していた内容をこんなにも早く忘れてしまうのか。
だがそれだけ必死なのは伝わってくる為、何も言えない。
しかしもう少しくらい慎重に動いて欲しい物だ。
「じゃあまず、家の購入は私と師匠でやります。沖田川さんは子供たちに剣術を教えていただいてもよろしいですか?」
「うむ。承ったぞ」
「暫く過ごせるだけの食料、そして身なりも整えます。移動した時、すぐにスラム出身だとバレたくは無いですからね。シーラさんは裁縫とかできますか?」
「あ、はい」
「じゃあ服を作る材料を買ってきます。子供たちにあったサイズの服を作ってあげてください」
「分かりました」
「後は師匠ですけど、とりあえず私についてきてください。道中で色々と決めましょう」
「ふむ、頼もしい限りだな」
誰のせいだとレミは心の中で愚痴をこぼしたが、やってみると意外と面白い物だ。
数多くの壁にぶち当たることになるかもしれないが、それを乗り越えれれば……。
希望的観測ではあるが、ビジョンが見えているだけ可能性はある。
各々がレミの指示通りに動き、三人は外へと出て行く。
シーラはまだ待機だ。
彼女は三人の後姿を見ていたが、途中でギリッと忌々しそうに歯を食いしばった。
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