3.27.決定


 手分けをして周辺の飯処を調べた結果、全てで九つの店に目星をつけることができた。

 その後三人は合流して情報を共有し、水瀬の水花を設置する場所を検討し始めた。


 できれば三人は近くにいる方が良い。

 素早く合流して西形と対峙する為にである。

 幸い、目の見える範囲で並んでいる大きな店があったので、その付近に三人は潜伏。

 そして残りは近い順に四つ水花を設置するという形に落ち着いた。


 残り二つの店がどうしても張り込めなくなってしまうが、ここは運が無かったと割り切るしかない。

 だが、もし騒動があればその周辺が少しは騒がしくなると思うので、そうなればすぐに直行する予定だ。

 完璧な作戦とまではいけないだろうが、人が少ない中でこれだけやれているのは水瀬のお陰である。

 これ以上求めてはいけないだろう。


 店に赴き、その中に水花を設置する。

 騒ぎがあればすぐにわかるはずなので、そうなれば水瀬が木幕とレミに連絡を入れて、直行する。

 西形は店の中にある食べ物を食べるはずなので、三人が合流した後でも十分に間に合うはずである。


 往来のど真ん中で戦うことになるかもしれないが、それも致し方が無い。

 ここで止めておかなければ、更に被害が出るのだ。

 犠牲者はこれで最後にする。


 水花を設置し終えたのは昼を過ぎた後だ。

 少し疲れている水瀬を心配してか、レミが声をかける。


「水瀬さん、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。少々うるさいですが、これも慣れれば問題ないです」

「な、なら良いのですが……。えっと、後は騒動が起きるまで待機ですかね?」

「うむ。後は相手が動くのを待つ他ないだろう。ただ、今からでも見張りはしておこう。昼の内に店に目星を付けんとも限らんからな」

「分かりましたっ!」


 元気よく返事をしたレミは、すぐに決められた持ち場へと走って行った。


 一方水瀬は、やはり奇術の負荷が大きいのか、片手を頭に添えて何かに集中しているようなそぶりを見せている。

 木幕は水瀬の様に奇術をうまく使いこなせない。

 そもそも修行をしていないのだから、それも無理のない話なのだが、木幕はどうしても奇術を葉我流剣術に取り入れたくはなかったのだ。


 確かにそれで優位性はたちまち変わるだろうが、これは自分の力ではない。

 この世界に来て不思議と与えられた謎の力なのだ。

 それを今自分が誇る剣術に混ぜようというのは、どうしてもできなかった。


 故に、木幕が奇術を使う時は奇術のみで敵を倒すことを前提としている。

 奇術を使う時は、刀で人を斬ってはいない。


 木幕は剣術のことだけは自尊心が高いのだ。

 それを崩すことすら容易いが、意外と勇気がいる。


 その点、水瀬はいかに弟を早く探し出すかを追求し、奇術の修行に打ち込んだ。

 それは確かに努力が実って今の様な芸当ができている。

 感心するべきところなのだろうが、自分が同じことをしようとは思えない。


 それに、木幕の持っている奇術は勝手に自分の技に反応して動く時がある。

 葉我流剣術、伍の型、木枯。

 危険が迫った時には足元にいつの間にか出現した枯れ葉の音がしないという物。

 何とも奇妙な物だが、これは木幕に危険を教えてくれる。


 能力としては有難い物だったが、勝手に自分の技に干渉してくるのには、少々苛立ちを覚えていた。

 仕方のないことかもしれないが、今の木幕には合わない。


 一度ため息をついた時、水瀬の顔がばっと上がる。

 サーっと血の気が引いていったのを確認した瞬間、木幕の手を持って走り始めた。


「ぬお!?」


 向かっているのはレミが走って行った方角。

 焦り方からしてもしやと思い、走る速度を合わせて状況を確認する。


「出たか!?」

「いえ、こちらには出ていません。レミさんを連れて急いであの宿へと戻りましょう」

「宿?」

「説明は後です。今は急いでください」

「分かった。では先に宿へ向かえ」

「はい」


 会話を終えた木幕は、走る速度を上げて水瀬を置いていく。

 水瀬も木幕の言う通りに動き、宿へと走る方向を変えた。


 レミの見張っている宿は少し遠い。

 だが、木幕はすぐにその宿に到着して、息一つ切らさずにレミを見つけて引っ張って行く。


 いきなり腕を掴まれたレミは心底驚いていたようだったが、それが木幕であるという事に気が付いた瞬間、一気に冷静になってとりあえず足並みを揃えて走る。

 空気が読める娘だ。

 そう思いつつ、今の状況を簡単に説明した。


「や、宿ですか!?」

「何やらわからぬが、水瀬が何かを感じ取ったようだ。急ぐぞ」

「は、はい!!」


 レミのしっかりとした返事をもらった後、二人は人混みをかき分けながら宿に戻ったのだった。

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