2.15.尾行開始
勇者一行が帰ってきたからか、今街は非常によく賑わっている。
進むのにも苦労するほどだ。
レミは勇者一行を見つける為、人に時々聞きながらゆっくりとした足並みで歩いていた。
「こ、これも修行……修行……」
ぶつぶつ言いながら、足を慎重に動かしている。
いつも歩いている歩き方とは全く違った歩行方法。
それは長時間やるには難しく、レミの足はすでに限界に来ていた。
足が小刻みに痙攣しているのだが、我慢できないほどの辛さはなかった。
なので連続して続けているのだが……時々足の感覚がなくなって騒いでしまったこと以外は特に何もない。
「いや無理しんどいよ!?」
その様に考えないようにしていたのだが、体は正直だ。
足に血が通っていないのが体感でわかる。
いや、実際は何も問題ない。
が、そう思わせるほどに足が限界まで来ていたのだ。
レミは形だけの歩行方法を覚えただけであり、実際に習得しているわけではない。
レミはつま先をほとんど上げないように歩いているのだが、それにより無意識に腰を落として足に負荷をかけ続けていたのだ。
それにより、太ももと足の裏が大変なことになっていた。
しゃがんで休憩すると、地面に根が張ったかのように動けなくなってしまう。
木幕は自然な歩きでこの歩行方法を続けている。
それを真似しようとレミも思ったのだが、どうにも上手くいかない。
ただ単に、かかとから足を付けて、勢いを殺してつま先を地面につけるだけの作業が、これほどにまで難しいとは思わなかった。
ただそれだけのことに気が付いたレミは、着実に成長しているのだが、それにレミ自身は全く気が付いていない。
勿論木幕がそれに気が付いたとしても、教えはしないだろう。
しばらく休憩した後で、レミはすくっと立ち上がる。
「これ……見つけてからやればいいんじゃない?」
見つける前に体力を消耗していては意味がないと思ったレミは、一度その歩き方をやめてみた。
するとどうだろうか。
「足……軽っ」
常に使用し続けていた筋肉を休憩させ、普通に使えば勿論そうなる。
ただ歩き方が下手なだけというのは、今のレミにはわかるはずもなかったのだが、レミは歩くだけで鍛えられるなんてすごいと、一人で興奮していた。
さて、気を取り直して勇者一行を探そうと、周囲を確認する。
話を聞いた中では、勇者は貴族街の宿に宿泊しているらしいので、とりあえずそこを目指して進むことにしていた。
旅人であるレミは勿論その貴族街には入れないのだが、それでも勇者一行が通る道を把握できれば今日はそれで良いと思う。
そう考え、タッタッタと軽く走って貴族街の近くまで走っていった。
◆
歩き方をやめて数十分。
足の辛さはすでになくなっており、これならもし見つけてもすぐにあの歩き方を始められると確認する。
レミは丁度貴族街の前まで来ていた。
そこは大きな門に阻まれて、中すらあまり見えない。
唯一見えるのは、門から見せるごく一部の背景だけだ。
貴族ではない下町の民は、ここにはいるだけで罰則が下る。
そこまで厳しくする必要があるのか疑問ではあるが、一般の人も貴族街に入ることが出来れば、貴族を狙った犯罪も増えそうだ。
「にしても……大きいなぁ……」
一体どれほどの高さがあるのだろうか。
自分が五人縦に並んだとしても、一番上に手が届きそうにない。
こんな無駄な建築物に一体何の意味があるのだろうかと思いながら、レミは勇者一行を探す続きを開始する。
まずは聞き込みだ。
周囲の人を探して勇者一行のことを知らないかと聞いてみる。
「すいませ~ん」
「なんだい?」
「勇者様にお渡ししたいものがありまして……どこに行けば会えるでしょうか?」
「ああ、あの門から出てくるのをいつも見るよ。ここにいれば会えるんじゃないのかな?」
「おお、本当ですか! 有難う御座います!」
目撃者が居たのは幸運だった。
これならここにずっといれば、足取りを掴むことが出来そうだ。
あと……さっき話を聞いた人から変なことを聞かれるのも面倒なので、声を再びかけられる前にさっさと移動してしまう。
本当にこの街にいると良く声をかけられる。
自分は一生懸命仕事をしているというのに、なんて奴らだと思いながらあしらっていて編み出した技だ。
声をかけられる前に逃げる。
そう、逃げるのだ。
全力で走ってきた男が居たことには、心の底から驚いたが、周囲の人が何とかしてくれた。
それから男がちょっと苦手になってしまったが……怖気づいて帰れば師匠からの鉄槌が下ると思い、心を無にして勇者を探す。
「とりあえずここで待とう……」
門が見え、あまり人から見られることのない路地の隙間に入って、門を監視する。
もし勇者たちが動けば、周囲の人々が騒ぎだすと知っているので、レミは道中に買った果物を食べて小腹を満たす。
「むぐむぐ……。ん? 勇者が出てくるのって仕事の日だけなのかな」
勇者の仕事は、近辺の魔物討伐及び魔王から襲撃を受けている街を守る、というのが基本的なものだ。
他の国にも勇者がいると聞くが……レミはほとんど知らない。
しかし、仕事を行く以外でこの門を通るかどうか分からない。
仕事に行ってしまえば尾行どころじゃなくなって命の危険がついてくる。
流石に国の外までの尾行はしたくない。
「お願いします勇者~……私が国から出ない範囲でいいから尻尾掴ませて~」
拝みながら果物を齧っていると、周囲が騒がしくなった。
何だと思って門を見てみると、武装を解除した勇者一行が門から出てきている最中だった。
「おお! やった! とりあえずこれで師匠に何も言われないで済むぞっ!」
一瞬舞い上がったが、今自分がしようとしていることを思い出し、すっと物陰に隠れて勇者一行を監視する。
どうやら騒いでいたのは貴族街の貴婦人たちだったようで、門から出ていく勇者を名残惜しそうに見つめていたり、呼び止めようとしている者が多くいたように思う。
門から出てきたのは四人だ。
武装を解除しているとは言っても、最低限の護身具だけは身に着けているようだった。
「いや~不味すぎんだろ貴族街の飯!」
「ガリオル……まだ貴族が見ているのですから、静かにしてください」
「ま、あんな見た目だけにこだわった料理なんて美味しくないよ。じゃ、いこうか」
貴族の料理は不味いらしい。
あんなキラッキラしている貴婦人が食べる食事が不味い物だとはあまり想像できなかった。
しかし勇者一行がそう言っているのだ。
間違いないだろう。
レミは一人で貴族の食事を食べるのはよそうと心の中で呟いた。
「! 尾行しなきゃ!」
レミは歩き方を思い出して、一度復習してから勇者一行の尾行を開始した。
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