第219話 『その日、宝物庫を漁った』

「帝国を潰すと来たか。ワシらも其方の考えには賛同じゃ。あの国は存在するだけで迷惑じゃからな。しかし良いのか? 国同士の戦いに友軍として救援することと、直接相手の国に攻め入るのとでは、今後其方に降り掛かる重みがまるで違うぞ?」

「覚悟の上です」

「其方もそこまでするほど、あの国に恨みがあるのじゃな……。しかし国そのものとなると、些か面倒なことが多いぞ? いくら連中が悪逆非道であろうとも、国がなくなったとなれば」

「ああ、潰すと言うのはものの例えでして、その辺は魔人の侵食具合によりますね」

「というと?」


 そこで女王様に、例の首輪と、レヴナント。そして魔兵について説明した。

 レヴナントについては、ミーシャからも情報を貰っている。通常の首輪に、更に魔神の力を上乗せすることで強力な個体となって生まれ変わった存在だ。

 本来であれば、討伐するしかないと思われていたが、強力な『浄化』の力で魔神の邪気を振り払う事ができるらしい。


 その『浄化』も、本来であれば各種ステータスを最高峰にブーストさせ、尚且つ特殊な装備を身に付けた『勇者』でないと行使が出来ないものらしい。

 まあシラユキちゃんの『聖光』が、その勇者の特殊装備枠の代わりになっているみたい。


「魔人め、人をなんだと思っておるのじゃ」

「と言うわけなので、お偉いさんが首輪やレヴナントの場合は、潰す必要まではないかもしれません。ただ、魔兵となっていた場合は心から望んでいる事が多いので、その場合は……」

「うむ、皆まで言わずとも良い。だが、例えトップが操られた場合であっても、直接攻めてきた連中を、簡単に許すわけにはいかぬ。手足となった兵どもは、自分の意思で我らを甚振ったのじゃからな」

「はい。その辺の処理や待遇はお任せしますね」

「恩にきるぞ」


 さて、帝国の処遇は決まった事だし、あとは手段をお伝えしよう。


「それでなんですけど、帝国を潰す戦力として、この地に眠る者に協力を仰ぎたいんです。その為に、世界樹から採れる『輝く雫』と、世界樹の中腹にある魔法陣の使用の2点をお願いしたくて」

「……それらは我が国でもほんの一握りの者しか知らぬ情報じゃ。博識とかそう言うレベルを凌駕しておるぞ。本当に其方は何者なのじゃ」

「ふふっ」

「まあ良い、其方にはいつも驚かされるが、恩人の頼みじゃ。願いを聞き届けよう。『輝く雫』は宝物庫にしまってある。使うものがおらんので大量にな。それも含めて、気に入ったものがあれば幾らでも持っていって構わぬ。これもまた、礼の一つだと思ってくれて構わぬぞ」

「わ、ありがとうございます。女王様!」


 エルフの王宮で大切に保管されている物は、特に素材の面で良質なものが多い。1つか2つ貰えれば御の字と思っていたけど、まさか好きなだけだなんて!


「す、好きなだけとは言うたが、必要なものに留めてくれよ?」

「大丈夫ですよー」


 まあ流石に根こそぎなんて無粋な真似はしないわ。


「ミーシャも連れて行っていいですか?」

「勿論じゃとも」


 そうして近くに待機していたエイゼルを使ってミーシャとツヴァイを連れてきてもらい、女王様も一緒になって宝物庫へとお邪魔する。


 長い廊下を進み、厳重な物理と魔法2つの鍵で開錠された扉の先に、その場所があった。そこはまるで、小さな展覧会場だった。

 宝物はいつ一般公開されても構わないかの様に、きちんと展示ケースに収められ名札も貼られていた。

 女王様の手にはしっかりと種類・場所別に目録まで用意されているし、長年きちんと管理されている様ね。


「それじゃミーシャ、好きなもの貰っていいみたいだから、良さそうなのあったら教えてね」

「おっけー。と言っても、私は家具作りに使えそうな素材ぐらいしか目利き出来ないから、あんまり期待しないでね」


 私とミーシャが吟味している様子を、女王様は不思議そうに眺めている。


「其方ら、あまり武器や防具類には興味がないのかえ?」

「ん? そうですねー、貴重さで言えば確かに価値はあるものばかりですけど、戦場で使えるかと言われると……」

「そう言えば其方が身に付けている武具は、どれも一級品であったな。目移りしないのは悲しいが、致し方あるまい」


 そんな女王様の様子に、ミーシャは何か思いついた様にショーケースの1つを示す。


「それならシラユキ、これなんて使えるんじゃない?」

「どれどれー」


**********

名前:エルヴンペンダント

装備可能職業:全職業

必要ステータス:無

防具ランク:無

説明:風の力を凝縮したペンダント。

効果:風属性の威力を1割増加させ、風属性の魔法からのダメージを2割減少させる。

**********


「あー、まあ確かに使えそうね。打ち直しもできるし合成も。女王様、コチラを頂いても?」

「おお、気を遣わせてすまぬな。良いぞ! 他のも決まったら持って来るといい」


 惜しみなく宝物を提供してくれる女王様に、私達も遠慮なく良さそうなものを選んでいった。いくつかの素材をお願いし、女王様は快く頷いてくれた。


「むふー。シラユキちゃん満足!」

「……それにしても、ジャンルがバラバラじゃのう。妾にはこれを選ぶ理由がわからん」

「お嬢様は万能ですから」


 女王様が、手元の目録を見て困惑していた。

 それを覗き込んでみると、私が貰った中でも喜びを隠しきれなかったアイテムに、印がつけられていた。


 『赤く輝く種籾』『銀鎧蟲の真核』『シャインバブルの大玉』『精霊王の涙』『レッドブラックパンサーの毛皮』


 ……確かに。

 農業系統に始まり、昆虫の核に、珍しい木の実。貴重な液体に毛皮まで。まあシラユキちゃん、錬金術も鍛治も裁縫もなんでもやれちゃうからなぁ。欲しいものが幅広くなるのも仕方がない。

 それ以外にも、大喜びって程ではないにしろ小躍りしたくなっちゃう逸品とか鞄にモリモリと詰め込ませてもらったし、満足。


「心なしか、宝物庫が広く感じるなぁ」

「そりゃ、あれだけ節操なく貰えばそうなるわよ」

「う……。でもミーシャだって、大きめの物貰ったじゃない」

「私は1品だから良いの! それに、私はシラユキと違ってそんなに活躍していないし」

「何を言うか。其方のおかげで第二隊は死者がなく帰ってこられたのだ。妾としてはもっと選んでくれても良かったぞ」

「援護してただけなのになぁ……」

「それを言ったら私だって、アポ無しで戦場のど真ん中にやってきて魔法をブッパしただけよ」

「アンタは規模が違うでしょ……」

「えー」


 ミーシャと睨めっこしていると、どちらともなく笑みがこぼれる。

 

「「ふふっ」」

「お嬢様もミーシャ様も、どちらも似た様な物です。お二方はそれに見合う活躍をされたのですから、遠慮は無用かと」

「同胞の言う通りじゃ」


 全部取られたら困るって顔してたのに、宝物庫の3割では納得していないご様子。加減が難しいわね。

 でも、こんなに沢山の素材を鞄に詰め込ませてもらったんだもの。これ以上は流石に遠慮させてもらおう。


「んー。世界樹ダンジョンとか精霊の森の件もあるし、これくらいで良いかな」

「その2点については、精霊様に認めて頂いたのじゃから、通行を許可するのは当然のことであるのじゃがな」


 それでもまだごねる女王様を説得しつつ、宝物庫を後にする。

 明日の朝に集合ということでミーシャと別れ、部屋に戻ると、アリシアがピタリとくっついて来た。


「ん、なあに?」

「お嬢様、この国にもダンジョンがあるのですか?」

「うん。あ、言ってなかったっけ。世界樹の中にダンジョンがあるの。地下に続くタイプじゃなくて、学園と同じ異空間タイプね」

「そうだったのですね。その奥に神獣様が?」

「そー。カーくんとにゃんコロだけだと火力不足だからね。ここに眠ってる子を連れて行けば帝国潰しに丁度良いと思って」

「ミーシャ様のレベルは100ですし、お嬢様のご友人ですからもしやと思ったのですが、お嬢様と同じく彼女も神獣様との契約が解除されてしまったのですか?」

「うんうん、正解。アリシアは察しが良いわねー」


 撫で撫で。


「では、これを機にミーシャ様と一緒にお嬢様も、神獣様と契約なされるのですか?」

「うーん、どうだろ?」


 ペット系職業の能力は全然扱えていないから、そろそろ手を出すのもアリかなーとは思ってはいるんだけど、私の強さについてこれるペットが想像出来なかったのよね。だから扱うにしても、せいぜい乗り物用とか愛玩用でしか想像出来ていなかった。

 その点、召喚獣は体の構成は全て術者の魔力依存。本体は世界の根幹にあるから、例えヤラレちゃったとしても呼び直す事ができるのでロストの心配がない。シラユキちゃんの豆腐メンタルも、それなら痛まないだろうし良い事尽くめだ。

 けど、問題があるとすれば、この世界に同時に2体顕現が出来るかどうかなのよねー。


 まあ、この世界にデフォルトで召喚士なNPCはいない訳ではないし、ミーシャもこの世界に来てからずっと顕現しっぱなしだ。だから多分、問題はないと思うんだけど……。

 まあそこは、やってみないとわかんないわよね。


「決まりましたか?」

「待っててくれたの? ありがとー!」


 全てを察してくれるアリシアが愛おしすぎて頬擦りを抑えきれない。好き好き!


「とりあえず可能なら契約してみるわ。でもまずは本職であるミーシャを優先するわね」

「はい、承知いたしました。メンバーはどの様に?」

「んー。難易度としては上級ダンジョンと似たり寄ったりなところがあったはずだから、ミカちゃんは連れて行くとして……4人だしナンバーズを混ぜると溢れちゃうのよね」

「長いダンジョンなのですか?」

「ううん。探索させるためのダンジョンじゃなくて、神獣のためのダンジョンだから結構浅いの。この4人でも数時間もかからず突破出来るわ」

「でしたら、彼らも連れて行きましょう。今回はお嬢様のレベルが急激に上がった直後ですし、慣らしが必要かと思われます。経験値が目的ではない以上、多少取り分が減っても彼らの練度をついでに上げられるのであれば上々かと」

「……なるほど。7人編成のデメリットばかり考えていたけど、スキル上げツアーと言ったところね。それに取り分は6人より効率が悪くなったとしても0になる訳じゃないし、それもありか。流石アリシアだわ」

「お役に立てて光栄です」


 プレイヤー思考で考えると効率を求めすぎちゃうところがあるから、アリシアのこの発案は本当に助かるわね。

 そのままアリシアに甘えながらお風呂でイチャイチャ、ベッドでイチャイチャして夜を明かす。


 そして翌日の朝、王城の裏手にはフル装備を着込んだメンバーが揃っていた。


「君がレディーの友人だね。改めて挨拶を。私はミカエラ・レヴァンディエス。昨日のパーティーでは挨拶が出来ず申し訳なかった」

「いえ、ミカエラさんは女性に大変おモテになられていた様ですし、気にしておりません」


 そこまで言ったところで、ミーシャがこっそり耳打ちしに来る。


「ねえシラユキ、もしかしてこの人も……」

「うん? ああ、違うよ。ミカちゃんはただの友達とかそんな感じ。国を任せるには貧弱すぎたから私が鍛え直してるとこなの」

「そうなんだ。流石にこの人に手を出すほど、節操無しじゃないのね」


 ミーシャが安心した様に言う。失礼しちゃうなー。

 私がミカちゃんに手を出さないのは、元々苦手意識があったからって言うのもあるけど、一応ちゃんとした理由もある。それを唯一知るはずのミーシャに思い出してもらう為に、チョチョイと手招きをして皆から離れて内緒話をする。


「ほら、ミカちゃんにはあの人がいるでしょ?」

「え? 誰の……ああー。そう言えばそうだったわね。なに、義理立てしてるの?」

「そんなんじゃないけど……。ほら、知ってるでしょ、私は好きじゃないって」

「んー、まあ確かに、可愛くはないわね?」

「そういうこと!」

「でも噂によると、母娘両方に手を出したとか聞いてるんですけど?」

「そこはほら、ママは未亡人だから。セーフ」

「ママ、ねぇ……」


 ミーシャだって、きっとママを目にしたらコロっと行っちゃう気がするわ。まあそれは、会った時のお楽しみに取っておこう。


「とにかく、パーティを組みましょ。今から誘うね」

「おっけー。……うわ、多いわね」


 表示されたメンバーの名前一覧に驚くミーシャ。まあ、この場の面々だけじゃなくて、王都に置いてきた子達の名前も出てるからね。


「このメンバー全員、アンタの婚約者なわけ? あ、同じパーティにココナちゃんいるじゃない」

「そう言えばミーシャ、獣人系の子が好きだったわね。あと、ここに表示されている全員がそうってわけじゃないわ。男も混ざってるし、別パーティの1人はミカちゃんの部下だもの。けど、大半が大事な人ね」

「ふーん。知ってる名前といえば、シラユキお気に入りのソフィアくらいか。……ん? この神丸って」

「その神丸よ」

「またコアなメンツで組んだ編成ねぇ。ま、1年も昔に王国だけでこの3人が一緒にいる事だけでも凄いことか」

「でしょ? ……あ、ミーシャ。こう言う会話だけど……」

「分かってるって。2人っきりの時にしか言わないわ。アリシアさんとの時も、変な顔されたし。余計なことは言わないことにするわ」

「えっ? 何言ったの!?」

「レベル100なんて珍しくもない、みたいな事をね。よくよく考えれば迂闊だったわ。周りのレベルを見れば、頭おかしい人の様にみられても仕方がないもの。反省してる」

「気を付けようね、お互いに」


 私も、ミーシャと出会えて浮かれちゃってるから、気を付けないと。地が出ることはもうあり得ないとしても、プレイヤー同士の会話内容をアリシアとかに振らないように、ね。

 この世界のレベルとは隔絶してるからなぁ。


「じゃ、皆を待たせてるし、行きましょ」

「ええ。リアル化したダンジョン、楽しみだわ」

「私も! ここ、深層は綺麗なところだもの!」


『私も楽しみだわ!』

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