第197話 『その日、夢を叶えさせた』

 ママ達に宥められて、改めてアリシア越しに覗き込むと、なんだかソフィーが落ち込んでるように見えた。


「……ソフィー?」


 声をかけてみるがこちらに目を合わせてくれない。やっぱり悪いことしちゃったかな。

 そう思って、アリシアの影から飛び出しソフィーに抱きつく。


「ソフィー、ごめんね。勝手にダンジョン入っちゃって」

「……良いのよ、私が悪かったわ。約束だって、私が心配しすぎただけなんだから」

「謝らないで。私の事を思って、心配してくれるのはすごく嬉しい事なんだもん。だからそんな風に言わないで欲しいな」

「シラユキ……」

「今朝のこともあって、余計に気苦労をかけちゃってごめんね。次からはちゃんとその、私が……ではなくて。アリシア目線で見て、危なそうな事をする時はちゃんと報告するから」

「くすっ、なにそれ。シラユキ目線じゃない訳?」

「私にとって危険ってのは、中位竜以上の怪物と戦う時くらいよ」

「もう……分かった。今の言葉、信じるからね!」

「うん!」


 仲直りの頬擦りをすると、ソフィーも抱きしめ返してくれた。えへ。


「ねえ。もう今日は初心者ダンジョンの周回どころじゃなくなったし……気になるから、シラユキが作ってるところ見に行っても良い?」

「勿論いいよ。皆もおいでー」


 私のアトリエにご招待よ! ……ハリボテだけど。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「……え、なにこれ? こんなの今朝まで無かったわよ……!?」

「さっき作ったわ」

「作った!? 魔法……じゃないわよね。この壁、単色じゃないもの」

「正解。錬金術で作ったわ」

「えぇ……? はぁ、もう。ほんと出鱈目ね」


 良いリアクションをくれるソフィーの背中を押して、アトリエに案内する。扉はさっき、ここを出る時にささっと作ったわ。木製の扉に、同じく木製の鍵で開錠出来る簡単な作りだ。

 正直やろうと思えば容易く破壊出来てしまうので、セキュリティが甘いと言わざるを得ない。まあ天井空いてるのにセキュリティも何も無いんだけど。


 まだまだ欠陥だらけだけど、いつかは魔道具で認証する的な、ハイテクなシステムを組みたいわね。


「まだなーんにもないけど、ゆっくりして行って」

「……一番大事なものがないじゃない」

「そうねー」


 ソフィーは早速、このアトリエの欠陥に気付いたらしい。

 皆の視線が上を向く。


「日差しが気持ちいいでしょ」

「そういう問題?」


 この世界に天気予報はないけど、雨が降ったら色々と台無しになりかねないし、デカイのを作り終えたら、さっさとなんとかしたいところね。……スピカに手伝ってもらいつつ、アーチ状に木を組むかな?


「じゃ、作り始めるわねー。先輩とアリシアは『遮光グラス』をつけてよーくいて」

「「はい」」


 今回作るレシピは、スキル値からして作成難易度ギリギリのアイテムだ。失敗すれば素材は全ロスト確定ではあるけれど、今作っておいた方が後々楽になるのは間違いない。

 あと、ソフィーを驚かせてあげたいしね。


 さて、とりあえず錬金釜の中身は浄化で消し去って、魔力水の代わりにシラユキちゃん印の聖水を注入する。量としては釜の半分くらいかしら。

 聖水の輝きでアトリエが満たされるが、目は逸らさない。眩しいけど、些細な魔力の流れでも見逃せば一発アウトだもの。慎重に進めるわ。

 続いて錬金釜に『光の魔石』の中サイズを7つ投入し、聖水と調和して混ざり合うようにゆっくりと煮込む。本来は大サイズを用いるものだけど、無いから中サイズで代用するわ。

 『光の魔石』が全て溶けきったら、前回使い切らずに残しておいた『ザ・ウォッチャーのレンズ』を3つと、とっておきの素材『竜眼』を放り込む。

 

 『竜眼』は文字通り竜の目玉であり、1匹につき最大2個しか取得出来ない、心臓の次に希少な素材だ。

 邪竜はドロップしなかったし、毒竜は頭部への直接攻撃で傷物になっていたので素材としての価値は低く、暗黒竜の頭部は剥製を検討中の為、今手元にあるのは上級ダンジョンのクリア時の宝箱から得た、2つだけなのだ。


 『竜眼』は希少な癖に、これまたレシピが多いからいっぱい欲しいところなのよねー。ただ、今作っているレシピはしばらく使うことはないでしょう。なんて言ったって、今回の『竜眼』は品質が最上級だったから、3つのレンズに対して消費するのは1つで済む。

 素材が節約出来たのは良かったわ。


 『竜眼』に込められた力を、神聖属性の力と結合させて、3つのレンズへとゆっくり注ぎ込む。あとは全ての力が注入されるまで、慎重に慎重に……。ぐるぐる、ぐるぐるー。


 ……よし!


********

名前:ステータスチェッカーV4

説明:使用者の全ての職業とレベル、総合戦闘力。生産スキルまで。使用者の情報を正確に検知して表示させる魔道具。使用者の魔力を吸い取る仕組みの為、実質無制限に使える。

製作者:シラユキ

********


「ふぅー……」


 額に浮かんだ玉粒の汗を、アリシアが優しく拭き取ってくれる。


「お嬢様、お疲れ様でした」

「ありがと、アリシア」

「少し休まれますか?」

「ん、そうする」


 少しの倦怠感と満足感を得た私は、ソファーに腰掛けてアリシアにもたれ掛かる。そして机の上には、先程作った『ステータスチェッカーV4』が並べられ、皆の視線が集まっていた。

 少しうとうとするけど、コレの説明をしておかなきゃね。口で説明しても良いけど……使わせた方が早いか。興奮冷めやらぬ様子のフェリス先輩をツンツンする。


「先輩」

「ええ、何かしら!」

「この魔道具に、手を翳してみてください」

「こう……かしら」


 フェリス先輩の魔力を感知し、『ステータスチェッカー』からゆっくりと光が溢れ出す。


**********

名前:フェリスフィア・ランベルト

職業:魔術士

Lv:34

他職業:魔法使いLv40、紡ぎ手Lv5

総戦闘力:1475

生産スキル:調合10、錬金術14

**********


『わぁ……』


 突然表示されたステータスボードそっくりの内容に、誰もが驚きの声をあげる中、を見つけたソフィーはフェリス先輩に飛びついた。


「フェ、フェリス姉様! おめでとうございます! 『紡ぎ手』になられたのですね!!」

「ええ、シラユキちゃんのおかげよ。怖くて足踏みしていたのが嘘のように、あっさりと試練を突破出来たわ」

「ううっ、よかった。よかったぁ……」

「ソフィア……」


 ソフィーを驚かせようと思って作ったけど、泣かせちゃった。

 なんだかよくわからないけど、2人にとってよほど思い入れのある職業だったみたい。

 それを思うと、知らなかったとはいえこんなにあっさり取得させたりパワーレベリングさせたりして、ちょっと罪悪感が……。


「……お嬢様はご存じないようですが、御二方のお母様は、高名な『紡ぎ手』だったのです。ですので彼女達にとって『紡ぎ手』は特別中の特別。憧れの職業でもあったのですよ」

「そうだったんだ。でもそれって、秘密ごとなんじゃないの?」


 良いの? アリシアの口からバラしちゃって。


「問題はないでしょう。王都に住む貴族なら誰でも知ってるくらい知名度のあるお話ですから」

「そ、そっかぁ……」


 うーん、全然知らないや。

 ソフィーの大親友を名乗ってる癖に、ソフィーのこと知らなさすぎよね。もっともーっと、ソフィーの事知りたいわ。その為にもいっぱいおしゃべりしなきゃね!


「ソフィー。ソフィーも『紡ぎ手』になってみる? 今のソフィーなら、その条件も満たしてるよ」

「ほんと!? それなら……やってみたいわ!」

「おっけー。じゃ、『職業神殿』。ぽちっとなー」


 ソフィーには2人にしてもらったように、魔法の言葉を紙に写し書きをしてもらう。その間、私は身体を休めるためにアリシアにより一層もたれかかった。

 

『ソフィアリンデのレベルが1になりました。各種上限が上昇しました』


「ソフィー、おめでとう」

「……ううっ。ありがとう……!」


 感極まって涙を流すソフィーを、周囲の子達が優しく祝福する。私としては抱きしめてあげたいところだけど、体がダルくて動けないわ。

 仕方がないのでその場で温かく見守っていると、不意にアリシアが疑問をこぼした。


「……お嬢様。お伺いしたい事があるのですが」

「んぅ、なあに?」

「今回私たちが写させて貰ったこの文節は、一体どういう意味を持つものなのですか?」

「あー、それを説明するには、まず『試練』について知っておく必要があるわね。まず『紡ぎ手』の試練の突破方法は至って簡単よ。『精霊言語』の中から何か1つの文字を意味する、文節や文章を丸々書き写すことよ。今回書いたのは、その中でも一際短いものね」

「『精霊言語』の言葉の意味、ですか。それは知りようがないと書き写せないものなのでは無いですか?」


 アリシアの言いたいことはアレね。先達がいないと試練を突破する方法が無いのでは? という事ね。鶏が先かひよこが先かみたいな。


「そんな事はないわ。今のアリシア達はメイン職に戻してあるけど、『紡ぎ手』の状態で使用可能な魔法を、魔法書にしようと深く念じれば、自然と文字が浮かんでくるのよ。それを書いていけば勝手に必要な文章は書けているわ。ソフィーも念じてみれば分かるわ。『ウィンドボールの魔法書』が書きたい! ってね」

「……本当だわ。魔法書に書くべき文章が、頭に浮かび上がってきた」

「あとはそれを全部書き写して、一冊の書としてバインダーをして終了処理をすれば魔法書の完成よ。……けどまあ、ボール魔法に限らず最初の文字は大体長い意味を持つ『精霊言語』である事がほとんどだから、最初にそれをしようとすると凄い大変だけどね」

「なるほど……。世間的には難しいとされる試練とのギャップを感じた要因の一つは、そこだったのですね」

「そゆことー」


 アリシアに甘えた事で多少元気になった私は、アリシアの胸で深呼吸した後立ち上がった。さーて、作業を再開しようかなー。


「あ、お姉ちゃん。リリ達もこの『ステータスチェッカー』使ってみても良い?」

「良いわよー。あ、そうだわココナちゃん」

「は、はいです!」

「貴女がても、驚きこそすれ誰も距離を置いたりしないから安心なさい」

「はわ!?」


 私の突然の爆弾発言に、皆の視線がココナちゃんに注がれる。でもその視線は、驚愕こそあれど、忌避感や恐怖を感じさせるソレではなかった。


「ええっ、そうなの!? ココナちゃん凄かったのね」

「はわわ」

「シラユキの熱の入り方からして只事ではないと思っていたけど……そっか、実力でも認められていたのね」

「じゃあ、ココナちゃんから使ってみて欲しいの!」

「はう……わ、わかったのです。ちょっと怖いですけど、シラユキさんがそう言うのなら、信じるのです」


**********

名前:ココナ・ミカド

職業:巫女

Lv:18

補正他職業:剣士Lv45、格闘家Lv30、魔法使いLv40、狩人Lv28、槍使いLv30、シーフLv30、重剣士Lv34、騎士Lv30、武闘家Lv30、魔剣士Lv30、魔術士Lv35、神官Lv30、レンジャーLv30、付与士Lv30、バトルマスターLv35、召喚士Lv30、ローグLv35

総戦闘力:1676

生産スキル:調合11

**********


『……』


 とんでもない職業の量に加え、各レベルの高さ。そして王国でもその存在が知られていない幾つかの職業に、私以外の全員が驚愕した。


「流石ねココナちゃん。ちゃんと、出会った時よりも成長しているみたいで嬉しいわ」

「はいです、シラユキさんのおかげです!」

「ココナちゃんすごいの!」

「沢山の人達の遺伝が、積み重なっているのね……」

「そうね。こんなに素晴らしい才能を持っているのなら、王侯貴族から求婚を受けてもおかしくないわ」


 フェリス先輩は真剣な表情でつぶやいた。確かに、こんなに職業がより取り見取りな子は中々いないわね。正直言うと、職業の優秀さで言えばアリシアより上だもの。


「はわっ!?」

「そうかもね。でも、誰にもあげないわ。だってココナちゃんは、私のものだから」

「はわわ……」


 ココナちゃんは真っ赤になって縮こまった。でも、尻尾は分かりやすいくらい元気ね。


「あんたって本当に節操ないわね……。まあ、ココナちゃんなら、そうなりそうだなと思っていたけど」

「えへへ。ココナちゃんおいでー」


 小さくなって動けないでいるココナちゃんを手招きする。すると顔は赤いながらも、すぐに駆け寄ってきてくれた。

 そんな彼女を抱き上げて、視線を合わせる。


「ココナちゃん、私の番になってくれる?」

「はひゅっ」


 息が詰まったココナちゃんの背中を優しく撫でる。

 暫くそうしていると、落ち着いたのかこちらに目線を合わせてくれる。他の子達は、静かにその光景を見守ってくれていた。


「……ココナも、シラユキさんと一緒にいたいのです。でも、番になるには男の人じゃないとだめなのです……。じゃないと、村の皆が……特におばば様が許してくれないのです」

「大丈夫よ、その人を説得出来るアテはあるから」

「そ、そうなのですか?」

「ええ。だから今は、ココナちゃんの気持ちだけ教えてほしいな」

「ココナは……。ココナは、シラユキさんの番になりたいです!」

「うん、よろしくねココナちゃん」

「はいです!」


 元気よく返事をするココナちゃんをぎゅっと抱きしめてから下ろす。そして彼女は見守る皆の方へと振り返り、お辞儀をした。


「皆さんも、これからよろしくなのです」

『よろしくね、ココナちゃん』

「はいです!」


 そうしてココナちゃんのステータスや、新しい家族という意味でも盛り上がる中、私は『遮光グラス』の予備を何個か作り上げて、本命のアイテムを作り上げた。


 これでストックしてあったレンズは全て消費してしまったけれど、悔いはないわ!


********

名前:魔法のカメラ

説明:景色や風景、人々の一瞬を切り取り映し出す、機構式カメラの魔法版。スイッチ1つで指定の紙に押し付ける事で複写も可能。ストックはいつでも削除が可能で、超過した場合は古いものから順番に削除される。外部ストック対応。

最大ストック量:300枚

製作者:シラユキ

********


「出来た……ついに出来たわ!」

「お嬢様、これは?」

「んー、なんて言ったら良いかなぁ。……この前言ってた、風景をそのまま切り取る魔道具なんだけど」

「これが……!」

「アリシアが一番使うと思うから、使い方の説明をするわね。まずこのボタンが〜」


 そうして全ての説明を終えたところで1つ、アリシアにお願いをした。


 最初にカメラに収めるのは、アリシアの思う『今日一番カワイイ私』だ。これはシラユキちゃんを近くで見続けていたアリシアだからこそ信頼してお願い出来るものだ。

 他の子でも写真は取れるけど、アリシアならシャッターチャンスは見逃さないだろう。

 そう思ってお願いをした。


 そうして大目的の2つを達成した私は、残りの小目的の魔道具の作成に取り掛かった。

 完成したのは以下の3種。


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名前:決戦フィールドV4

説明:決戦フィールドV3までに搭載可能だった追加アタッチメントがデフォルトで搭載された多機能版。現実における戦いと遜色のない感覚で戦える。

アタッチメント:ステータスブースト機能、虚像の魔物

製作者:シラユキ

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 これを3つ。


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名前:決闘フィールドV5

説明:決闘フィールドV3までに搭載可能だった追加アタッチメントがデフォルトで搭載され、更には各機能の詳細設定が可能となった総合版。本来の実力以上の戦いが可能となる。ただし過信は禁物。

アタッチメント:ステータスブースト機能、オールバフ機能、虚像の魔物

製作者:シラユキ

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 これも3つ。


********

名前:空間拡張フィールドV3

説明:マジックバッグの空間拡張機能を模して作られた異空間生成機器。設置し指定する事で、本来そこにあるべき空間が何十倍にも拡張される。室内限定。空気清浄化付き。

製作者:シラユキ

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 これは1つ。これがあれば天井を作っても今後は問題ないはずね。

 予定にあったもの全て作成を終え、満足感と達成感を感じつつ、盛大に息を吐く。


「はぁー。……よし、出来たわ」


『カシャッ』


 ガッツポーズをすると共にカメラのシャッター音が聞こえ、振り返るとアリシアが満面の笑みでカメラを抱えていた。


「今の表情は、素晴らしく輝いていましたよ。お嬢様」

「えへ」


 そうだった。写真をお願いしていたわね。


『ふふっ。マスターはすぐ忘れちゃうから、カメラはアリシアが適任ね』

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