第171話 『その日、レオンと戦った』

 入学試験。またの名を編入試験。

 この学園、途中入学の受け付けはしているが、内容は非常に難関なことで有名だ。同様のテストを進級組がこなすのだが、平均点は5割を切るという。更には魔法科の実技テストに関しては在学生のトップと比較がされ、そこからハッキリとした格付けがされる。

 魔法だが、3年間学園で習い続けた生徒を差し置いてSクラスに編入されるには、相当の努力を積み重ねてきた者しか達成出来ないだろう。

 編入生が全員Sクラス入りしたと聞いた時は、その程度に考えていた。


 しかし、編入生の半分が平民で構成されており、更にはその中の1人の少女が、魔法学園における歴代最高得点を取ったという噂を耳にした。本来、その様な快挙はすぐにでも耳に入っても良さそうなのだが、どうやら一部の連中が情報統制をしようとしていたらしい。

 しかし、それも1日しか持たなかった様だが。


 この学園において魔法科は、他の学科と比べて秘伝の知識や才能を持っているかどうかで、学内順位が左右されやすい所だ。大貴族や歴史の古い家であればある程、その知識の蓄えが膨大であり、才能ある者達のサラブレッドが産まれやすい。

 騎士科は兵の動かし方などは頭の出来次第ではあるが、鍛錬に関しては努力でなんとかなる部分が多い。その為魔法科は、貴族と平民が一番区別されやすい学科とも言われている。


 そんな中で、平民が貴族を大きく越えたのだ。一波乱起きるだろうとは思ったが、やはりそのくらいの興味しか湧かなかった。所詮は魔法。実戦で使い物になるとは思わなかった為、部下達の報告も軽く聞き流していた。


 しかし、報告はそれだけでは終わらなかった。

 その少女は歴代最高得点どころか、実は破壊不能と呼ばれた『スコアボード』を、6属性全てを大破させ、更には全評価項目が満点であると言うのだ。そこでようやく俺は、その少女に関心を寄せた。

 魔法は使い物にならない。その認識は変わらないが、あれを壊せるほどに威力のある魔法を、少なくとも6つも持っているとなると話は変わってくる。


 魔法というのは実戦……特に乱戦となると途端に使い物にならなくなる代物だ。どんなに優秀な『魔法使い』でも、命中率は9割前後であり、必中の者はいないと言う。それでは、味方への被害を考えると邪魔でしか無い。

 たとえ相手に致命傷を与えられるほどの威力があろうとも、こちらにも被害が出る可能性があり、更には詠唱という前準備に時間を要する様では、最初の一撃以外で使える場面など無いだろう。

 せいぜい、味方に影響を与えにくい高所に陣取らせて、味方のいない敵陣の後方を狙い撃ちさせるくらいしか使い道はない。しかし魔法を使える貴族共は、他の貴族よりもプライドだけは無駄に高い。その様な扱いをすれば、すぐに功績を求めて戦列から離れたり、戦いに参加すらしないだろう。

 それにもし口で言いくるめる事が出来たとしても、奴らは自衛能力をとんと持たない。その様な囮のような立ち位置では弓持ちの恰好の的であり、『魔法使い』は回避する手段も防御する手段もない。

 結局開幕以降は、引っ込めた方が得なのだ。


 だが、表示限界値である9999以上の威力の魔法を叩き出せる上、『正確性』の評価ですら満点を取れる『魔法使い』ならばどうだ。戦場で最初からそんな威力の魔法を放てば、それだけで優劣が決まるだろう。最悪、不利な状況ですら覆す事が可能かもしれん。

 詠唱時間がどれほどのものかは知らないが、一撃さえ撃たせれば良いのだから、それまで全力でその少女を護ればいいのだ。


 そんな存在なら、前線に連れて行っても大きな戦果を上げてくれることだろう。


 戦いが変わる。

 俺はその少女を、なんとしても手に入れなくてはと考えた。




 入学式を終えた翌日。

 少女はその存在自体がイレギュラーなのだ。何かしら騒ぎは起きるだろうと思っていたし、その内容よりもどうやって手に入れるかを考えていた為、少女が起こした騒動の全貌を把握するまで、時間を要してしまった。


 少女はどうやら、学園内における決闘ルールによって、弱者が苛まれている環境が許せないらしい。少女はランク8の武器という遺物レリックを所持し、自分自身も含めて惜しげもなく景品とし、悪事を働く連中を一網打尽にすると言う。

 学園長や生徒会も味方につけて開催する決闘の様で、どのような不名誉な賭けであろうと成立するらしい。


 俺はその話を聞いた時、珍しいと思った物だ。

 どんな夢みがちの貴族令嬢であっても、この学園の環境と悪意の只中に放り込まれれば、現実を知って大人しくなるというもの。だと言うのに少女は、他人の為に自分の身を使って、決闘を挑んだ。

 『スコアボード』を破壊出来る武力と、学園の運営と生徒達のトップを味方につける行動力、そしてその心を持ち続けているのが平民とはな……。そんなアンバランスな少女がどんな人物なのかと、また1つ興味を持った。


 そして遺物レリックを簡単に景品に出来る点も素晴らしい。装備を見栄や自慢のためではなく、好き勝手している連中をまとめて排除するための、手段の1つとして使える胆力が気に入った。

 高ランクの武器防具の所持は、貴族にとってはステータスとされ、魔剣と類されるレベルにもなると、家宝として代々崇め奉られるのが貴族の習わしだった。


 ……実に馬鹿馬鹿しい。

 武器や防具は、使うことで初めて意味をなす。大事そうに保管したり、他家の人間に自慢するためにエントランスに飾り付けるだけの存在などでは決してないのだ。


 決闘への参加方法は2つ。

 自ら志願するか、生徒会や学園長を通して一部の生徒達へと配られる『招待状』を受け取る事。


 そして参加するにも条件があった。

 この学園で決闘ルールを、1度でも私欲の為に用いたことがある事、だそうだ。

 そういう意味では、俺も部下達も、参加資格があるだろう。


 あんな犬畜生にも劣る、下劣な南連中と同枠扱いされるのは我慢ならないが、無駄に装備やアイテムを自慢しては、使いもせずに飾り立て、所に支援をしない、屑連中から力尽くで奪い取ってきた事実は変わらんのだ。

 この戦いにおいて少女は、単騎で挑む上に最低限の装備しか持ち込みもしないと言う。南の連中は少女1人であれば力づくで捻じ伏せられると考えている様だが、そう簡単にはいかないだろう。

 なにせ、ただでさえ数十人の生徒を相手にたった1人で挑もうとしているにもかかわらず、少女の発案で5人まで援軍可能としたのだ。魔法技術だけではなく身体能力にも、絶対的な自信があるのだろう。

 騎士団長や魔法師団長と相対する気持ちで臨まねば、負ける可能性すら視野に入れなければならない。


 南の連中にそれを諭すべきかと悩んだが、連中の中には俺に強い恨みを抱いているものもいる。聞き入れてはくれんだろう。

 まあせいぜい、少女の体力を削る役目となってくれ。





 そう思い、当て馬として突撃する様を見守ってきたが……。


「誤算だったな」


 俺も、部下たちも。

 あの少女の実力を、まるで把握出来ていなかった。


 奴の実力は異次元だ。このままでは戦っても負けるだろう。どう善戦したところで、あの少女に手傷を負わせられるかさえ怪しい。

 それに、200人以上と戦ってきてなお、息一つとして切らしていない。普通そんな大人数を相手にすれば、体力も魔力も削られていくはずなのに、未だに笑顔を絶やしていないのだ。

 あまつさえ、観客や実況を喜ばせるために大魔法を連発しているほどだ。


 アレは、少女の形をした化け物なのだろうか。


 そしてアレは、戦場において守る必要のない移動砲台だ。

 距離が開けば無詠唱や詠唱破棄をした超高威力の魔法が襲いかかってくるし、距離を詰めれば惚れ惚れするほどの運動能力と反射神経で対処してくる。そして見た目からは想像も出来ない膂力を持っていて、武器や防具ごと斬り飛ばされたりもする。

 アレ1人で、一つの軍以上の強さを発揮するだろう。遠い東方の地では、一騎当千という言葉もあるようだが、あの少女にこそ相応しい呼び名だな。


 少女は、開始前に1つ宣言をした。この国の魔法は遅れているという。確かに、魔法は貴族によって秘匿され続けた存在だ。研鑽されなかった結果、進化の可能性を潰した可能性がある。

 そこで少女は、真の魔法を見せると言っていた。


 少女の使うものこそが魔法。それを思えば、今まで学園で教えてきたものは、一体何だったのか。

 少女の言う様に、お遊戯のようなものだったかもしれん。そんな物を使って鼻高々な連中は、さぞ滑稽に見えた事だろう。


 そして少女は、何人もの人間に魔法や薬の製造知識を『最初から』教えて回っているらしい。

 あれほどの才覚を持つ人間なのだ。従来とは違う、画期的な魔法技術を教えてもらえるに違いない。


 あんな、戦争の歴史を覆すほどの代物が、誰にでも扱えるとは思えないが、少しでもそんな力にあやかれる可能性があるならと、誰もが教えを乞うに違いない。


 ……なるほど。

 この決闘を開始した真の目的は、ソレか。


 『魔法の技術を最初から教える』


 その言葉は、魔法を嗜む者なら、誰もが喉から手が出るほどに欲しているものだ。

 魔法学園での授業でも、魔法の基礎的な技術は教えるがそれは魔法がある程度使えることを前提としたものばかりだ。歴史の長い家柄出身であろうとも、それが本当に優れた、正しい知識かどうかなど、当人ですらわからない。長い歴史の研鑽の中で、確固たる方針は定まっているのだろうが、それでも一部の天才や秀才には追いつくことが出来ない。

 それも、その原因が相手の才能によるものなのか、前提知識の問題なのかは、誰にもわからないのだ。だからこそ、魔法技術を教えるという事は、それだけ需要がある。


 だがソレと同時に、詐欺も非常に多い。

 高い金を要求して教えるのは嘘八百なんてことはよくある話だ。弱小貴族や平民は頻繁に食い物にされてきた。中には本当のことを言っている奴もいるのかもしれないが、それで授業を受けた子供がまともに魔法を使えなければ、生徒を才能なしとして逃げ出したり、中には貴族を騙したとして処刑される者もいたという。


 しかし、少女はその実力を見せつけることで、詐欺師ではなく本物であることを示したのだ。無詠唱や数十本のランスなどを披露したり、誰も見たことのないロストマジックでさえ気軽に連発したりと、その技量の高さを見せつけたのだ。

 真の魔法とはなんなのか、王国の魔法関係者が全て集まる、この決闘の場で。


 それを見たこの場にいる全ての者が理解しただろう。

 少女以上の『魔法使い』などいない事を。

 少女の教えに勝る物などないのだと。

 少女の教えを受けない事は、『魔法使い』としての死を意味すると。


「全てはお前の計画通りか」

「何の話?」

「ふっ、独り言だ。聞き流せ」

「そうするわ。それで、このまま見つめ合ってるだけでいいの?」


 今、俺は少女と剣を切り結んでいる。

 こちらは全体重を乗せ、両手で押し込んでいるというのに、少女は片手で、しかも涼しい顔で受け止めていた。剣身はどれだけ力を込めようとも一切揺らぐことは無いし、対峙することで初めて理解した事があった。

 少女は、故郷にいる俺の剣の師と同じ、歴戦の猛者と同じ空気を纏っていた。師は決してどんな時でも隙を見せない人だったが、それでも人間だ。気の緩みがなくとも、僅かな隙間を狙うことで、何とか反撃に転じることが出来ていた。

 だが、この少女にはそんな隙間が存在していない。隙と捉えて攻撃をしても、尋常ではない速度で剣を打ち合わせてくる。


 しかし、それ以上少女からは攻撃をしてこない。


 嘗められている訳ではない。……師の時にも受けた感覚だが、俺は少女から、稽古を受けている。少女からは、決闘が始まった時の様な敵意を感じない。

 それどころか、その瞳からはどこか慈愛すら感じさせられる。


「彼らは、貴方が育てたの?」


 すぐに、部下達のことだと気付いた。


「……そうだ」

「そう。凄いのね、とても強かったわ」

「ふん、手傷すら負わせられなかったんだ。慰めはいらん」

「そんなことないわ。戦術をきちんと理解している集団というのは、何よりも恐怖を感じるものよ」


 確かに前座の連中のような力技と比べれば、な。だがそれも、圧倒的実力の前には意味を成さん訳だが。

 剣の応酬を繰り返すが、やはり何処を攻撃しても余裕で返される。こちらが隙を見せればすかさず攻めてくるが、トドメを刺しに来る気配はない。まだ俺と、何か話がしたいのだろう。

 ならば俺は、この機会を活用させてもらおう。師に使えば邪道だと怒られかねんが、実戦で培った俺の技が有用か、試させてもらう!


 その後、何度目かの切り結びをしたあと、俺はふと気になっていたことを聞いた。


「噂で聞いたが、お前は他人を育てるのが好きなのか?」

「そうね。カワイイ子なら特にね」

「なんだ、手を出すのか」

「失礼ね、出してないわよ。……本格的には」

「もし……いや、こんな事を頼めるような筋合いはないな」


 何を言おうとしているのだ、まったく。

 戦いの最中だと言うのに視線を動かしてしまったが、少女は逆に攻撃の手を緩めた。


「……良いわよ」

「……なに?」

「見てあげても良いわよ。貴方も含めてね」

「……」


 想定外な返しを受け、呆気に取られてしまう。そこを剣でかちあげられ、たたらを踏んだ。


「まあそれは後でいいじゃない。今は、貴方の実力を見せてちょうだい。それとも、もうお終いかしら?」

「ふん、まだ終わっていない!」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 幾度か剣を交え、言葉を交わしているうちに、彼に対する敵意は完全に失われていた。彼の様な人物は、今回のオシオキ対象からは外れるはずなんだけど、こうしてこの場に立てている以上、決闘ルールを使用してきたのは間違いない。

 けどもし、彼ら全員が招待状経由での参加ではなく、自主的な選択による参戦だったとしたら、敗北時の条件である丸刈りは可哀想な気がしてくるわね。だって、さっきの集団戦の生徒の中に、女の子もいたもん。


 うん、どうにかして彼らをお咎め無し、もしくは女の子だけでも丸刈り回避する様動かなくちゃ。

 勝者が敗者の賭けを試合後に重くするのではなくて、軽くするんだもの。少しは許してもらえると良いな。


 レオン君の振り下ろした剣をガードする。受け止めた瞬間、違和感を感じてその正体を探っていると、彼が片手で攻撃してきたことに気付いた。

 空いている手を探して視線を彷徨わせていると……。


「……そこだ!」

「!」


 無数の砂利が視界を埋め尽くした。咄嗟に腕で目をガードする。

 レベルが上がっても、ステータスが常人離れしても、咄嗟の判断は鍛えないと生理的な反応が限界となる。

 彼は攻撃のためではなく、相手の行動を阻害するために、土の魔法を使ったのだ。でも彼は無詠唱で魔法を使用出来る訳ではない。その為『ストーンボール』は形をなさず、バラバラの砂利となり、手から離れるとすぐにでも魔力粒子へと変わっていく。

 けど、目潰しとしてならそれだけで有用な手法だった。貴族の彼がそんな泥臭い戦い方をしてくるなんて、完全に予想外だったわ。


 本来であれば、そこで手傷を負っていただろう。

 視界が閉ざされているのだ。場合によっては致命傷を受けていた可能性だってある。


 けど、私はシラユキちゃんなのだ。

 片手は身を守る為にガードをし、視界が暗闇に閉ざされようと、その身は咄嗟に魔力防御も同時に展開していた。更には武器を構えた腕は、風を切る剣の音を頼りに、半ば自動的に攻撃に対処した。


『キィン』


 一瞬の攻防の中、そのぶつかり合った金属の音が、とても印象的に耳に残った。

 目を閉じたまま相手を


「……惜しかったわね」

「ふん、これすら届かんか。……有益な時間だった。感謝する」

「私もよ、楽しかったわ。『ハイストーン」』


 意趣返しに発動した魔法により、地面から隆起した土の槍が出現。それは彼の身を貫き、4万点ほどのダメージを叩き出し、魔力粒子と共に崩れ去った。


『決着ー! シラユキ選手、騎士科3年男子のエースであるレオン・フェルディナント選手の怒涛の攻撃を凌ぎ、最後は魔法でトドメを刺したーっ!! モニカ先輩、今の戦いどう見ますか?』

『一見、レオン選手が終始攻勢を仕掛けていた様に見えたけれど、実際はシラユキちゃんに攻撃を譲ってもらっていたようね。決着を急がなかったのは、彼との戦いを楽しみたかったからだと思うわ』

『となると、それ以前の第四戦までの戦いは……』

『打ち合うまでもないと思われたんでしょうね。まああれだけ一度に攻め立てられれば、1対1を味わう暇もなかったでしょうけど』

『それに比べて、シラユキ選手は五戦目からは笑顔が絶えませんでしたね! 昔の偉い人の言葉でこんなものがあります。『強者が楽しめる戦いとは、相手も強者か、それに準ずる何かを持ち合わせている必要がある』と。第五戦のレオン選手達は紛れもない強者だった様ですね!』


 そうね、彼らは強かったわ。

 彼らを突き動かすのは何なのか、それはまだ知らないけれど、熱い信念があったのは間違いない。


 でも、彼らには悪いけれど、最後に控えるアイツと比べてしまえば前座だわ。

 最初の四戦目までは流れ作業みたいな感じだった分、五戦目は多少頭を使う必要がある戦いで、久々に熱くなれた。やっぱり、戦いというのはイイ。ゲームにおいて、レベルを上げて全ての職業、及びスキルを全てカンストさせるという偉業を達成出来たのは、ひとえに私が、だ。


 


 だからこそ、レベル上げに躍起になれたし、スキル上げも楽しみながら上げられた。そしてその成果を確かめられる決闘は、実に良いものだ。

 『決闘フィールド』と『決戦フィールド』は、誰も殺す事なくカワイさを世に知らしめる、良いツールなのだ。もっと輝きを見せる為にも、複雑な設定ができる高ランクの装置を作成しなきゃ。


「ようやく某の出番か」


 でもその前に、コイツとの戦いが待っている。

 竜との戦いも楽しいけれど、あっちは危険が広がる可能性がある以上、観客を呼ぶことは難しい。でも、今は竜に匹敵する実力者と、命の心配をすることなく、全力で戦える。

 それも、数百の……いえ、数千人規模の人達が見ている。滾るわ。


「女王よ、戦いは楽しめたかね」

「ええ、それなりには。でも、今からとっても良いところなの」

「楽しみにしてもらえて光栄だ」

「貴方との戦いに魔法は無粋だと思うの。だから使わないわ。純粋な剣術だけで愉しみましょう?」

「承知した。心遣いに感謝する」

「でも、1つだけ許して欲しいの。キャサリンちゃーん」


 実況席で先程までの戦いを熱弁していたキャサリンちゃんを手招きする。戦いの最中なので彼女はフィールドには入れないので、私もフィールドギリギリまで詰め寄った。


『は、はーい! どうされましたか? 休憩されますか?』

「どれだけ私に休憩させたいのよ。そうじゃなくてね、私、今回の武器の持ち込み、この剣1本じゃない?」

『そうですね!』

「魔法は武器扱いにならないから、使っても違反にはならないわよね?」

『……? は、はい。魔法は魔法ですから、武器という扱いにはなりません』

「言質を貰ったわ。あとで撤回とかしないでね」

『???』


 困惑しているキャサリンちゃんを放置して、観客に見せつける様に魔法を発動する。


「『ゲイルブレード』」


 魔法剣。それは属性の力が1箇所に集まり、剣や刀の形を成す事で、初めて武器として扱われる特殊魔法。今回は演出のためにも、元素の力が武器となっていく様を、ゆっくりと再生させた。

 風の力を意味する緑色の光が集まり、1本の刀となる。今回は純粋な殴り合いをするために、エネルギーを固定化させている。その為今の『ゲイルブレード』は、実体を持ち、風の力をその身に宿した本物の刀と同等の仕上がりになっている。

 勿論硬度はシラユキちゃんの魔力製だ。ちょっとやそっとじゃ壊れないし、修復も容易である。


 まあ切れ味は、本物の鍛治を極めた作品には及ばないけど、今はこれで十分でしょう。


 『ゲイルブレード』が現出したあとも、観客達は静まりかえっている。それに対して神丸は、獰猛な笑みを隠そうともせず、静かに愛刀へと手を伸ばしていた。


 私も始めても良いんだけど、確認はしないとね。

 文字通りながら左右に振られる刀を、目で追い続けていたキャサリンちゃんへと声をかける。


「魔力で編んだ、魔法剣。これは武器にならない。その認識でいいわよね、キャサリンちゃん?」

『は……はい! 大丈夫です、問題ありません!!』


 叫ぶキャサリンちゃんに背を向け、神丸と視線を合わせる。


「お待たせ」

「構わぬ。しかし、女王は刀まで扱えるのか。剣技や拳だけでないとは、多才であるな」

「当然でしょ。全部を極めないと、最強は名乗れないじゃない」


 私の答えに神丸は一瞬呆気に取られるが、すぐに笑ってみせた。


「はははっ! 最強、女王はそれを名乗るか! 実に良いな。戦いを始める前の余興だ、聞きたいことがあれば問うと良い」

「それじゃ、お言葉に甘えて。貴方の職業はエクストラの『侍』かしら。それとも……ハイエンドの『』かしら?」


 そう問いかけた瞬間、神丸の表情から笑みが消えた。


「……何故、その職業の名を知っている」


 その視線からは、困惑と冷たい殺気が混同していた。


『いよいよクライマックスね!』

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