第351話 決着

 黒き光によって地面が爆ぜて砕け、亀裂が走って割れる。

 それでも絶えず轟音と共に黒い輝きが降り注ぐ光景はまさしく天変地異。


 幾条もの黒雷が耳をつんざく、けたたましい雷鳴を上げながら地上へと……

 地にて上空を見上げて鎮座する黒きドラゴン、コレールへと向けて降り注ぐ。

 それに対してコレールは、美しい黒翼を広げ……


「ーーッ!!」


 咆哮を上げる。

 コレールの咆哮が衝撃波を伴って空気を震わせ、迫っていた幾条もの黒雷を消し飛ばす。


「っ! やりますねっ!!」


 自身の黒雷をいとも容易く消し飛ばされたカエデがかおが満面の笑みに歪む。

 その笑顔に浮かぶのは愉悦と喜び。

 今の攻撃を容易く退ける程の強敵との戦いを夢想して興奮に頬を染めて、恋する乙女の様にカエデは嗤う。


「今度は私の番ですね」


 コレールがポツリと呟くと同時に、コレールの周囲の地面が漆黒に染まる。

 それは上空を黒染め上げる黒雲とは異なり、不思議と禍々しさを感じない人の心を魅了する様な美しい漆黒。


「貫け」


 その瞬間。

 天から降り注ぐ黒雷に対抗する様に、地上から上空へと無数の漆黒の柱が立ち昇る。

 四方から地上から天へと伸びる無数の柱が、しなりながらその全てが全方位からカエデへと向かって集約する。


「受けて立ちましょう!」


 雷鳴が轟き、凄まじい速度で迫り来る無数の漆黒の柱を幾多もの黒雷が迎え撃つ。


「うぉっ!?」


 距離をとってコレールとカエデの戦闘を見ていたジバルが僅かに吹き飛ばされて思わず声を漏らす。

 両者の衝突によって空間を震わせる衝撃波が生じ、その余波で統一神界の外壁へと罅が走る。


 雷鳴と爆発音が絶えず鳴り響き、コレールとカエデを分つ様に上空に爆炎の幕が掛かる。

 最早地上からではカエデの姿を目視する事はできず、逆に上空からもコレールの姿を目視する事は不可能。


「っ! これは……」


 そんな状況の中、剣を地面に突き刺して観戦していたジバルが目を見開き急いで魔力を練り上げる。

 ジバルが感知したのは、地上と上空にて急激に高まる2つの魔力。


 未だに統一神界の結界が完全に修復されてない中で、それが解き放たれれば統一神界に多大な被害を齎す事は一目瞭然。

 ジバルが練り上げた魔力で統一神界と自身に結界を展開したその時……断続的に続いていた爆音と雷鳴が静まり返る。

 コレールとカエデの膨大な魔力によって生じた圧で両者を隔てる爆炎が消し飛ばされる。


「ふふふ、お互い同じ考えの様ですね?」


 天へと翳された右手に持った黒刀へと雷鳴を轟かせる曇天の空から黒雷が絶えず降り注ぎ。

 エネルギーを蓄える様に黒雷が黒刀へと収束して行く。


 ニッコリと微笑むカエデから発せられる殺気は先程までの比ではなく。

 押し潰す様な重く、鋭い重圧がコレールだけに収束して掛かる。


「その様ですね」


「ちまちまと殺り合ってもつまらない!

 貴方との戦いはとても楽しいですが、何処まで行っても平行線で決着がつきそうにありませんし……次の一撃で、全力の一撃を持って貴方を消し炭にして差し上げましょう!!」


 愉悦に顔を歪めて嗤うカエデの声が戦場に響き渡る。

 対するコレールは黒龍の姿で悠然と佇み、静かに、しかし獰猛な気配を醸して敵を見上げる。

 両者の魔力が極限まで高まり……カエデの黒刀へと収束していた黒雷が止んだ。


「両断されて消し炭となれ! 〝神能・黒鳴ノ神〟」


 カエデが腰を落とし、黒刀を腰に据えて居合の構えをとる。


「〝神能・黒怒ノ神〟」


 黒翼を広げるコレールの周囲に渦巻いていた深海のような重い魔力がフッと消失し、戦場に一瞬の静寂が舞い降りる。


「黒雷一閃!!」


 抜刀されたカエデの黒刀から斬撃と化した巨大な黒雷が放たれる。

 周囲の空気を焦がしながら一瞬でコレールを両断しようと巨大な黒雷の刃が迫り……


咆哮ノア


 それはまさしく黒龍のブレス。

 全てを破壊する黒き光が、カエデの放った黒雷の刃を迎え撃つ。


 2つの黒き光の衝突によって凄まじい衝撃波が波のように広がり、ジバルが展開した結界に罅が走って欠ける。

 地面へと向かった衝撃波で大きく切り裂かれる様に地面が破れ……


「っ!?」


 黒龍のブレスと黒雷の刃の拮抗はほんの一瞬。

 驚愕に声が僅かに響き……曇天を消し飛ばしながら黒龍のブレスが天を穿った。

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