第198話 4人の美女

「身体中が負荷に耐え切れずに自壊し、魔王の欠片によって修復される。

 延々と続くそれは魂を摩耗させ、最後には身体を修復する為の魔力が無くなって、勝手に自滅してくれるよ」


 冷ややかなエンヴィーの視線の先では、地面に倒れ込み、激痛に絶叫を上げながらのたうち回るハスルートの姿。


「1つならまだしも、大量に取り込むなんて身の程知らずな事をするからだよ」


 漆黒の魔力が凝結したかの様な黒い液体を撒き散らし、全身から赤黒い血を流すハスルートを見るエンヴィーの瞳に憐憫の色が薄らと浮かぶ。

 そして……


「あら、よく分かっているじゃ無いですか」


 その声に。

 この場所にある筈の無い声に、一瞬にして空気が凍り付いた。


 エンヴィーの、十剣達の後ろで、ニッコリと微笑みを浮かべながら佇むは、黄金の髪を靡かせる吸血鬼の始祖。

 そして彼女と共に微笑みを浮かべる存在が2人。


「な、何で……」


「本当にその通りですね。

 身の程を弁え無いから痛い目を見る事になるのです」


「そうですね。

 ねぇエンヴィー、貴方もそう思いますよね?」


 専属メイド長にして原種吸血鬼であるメルヴィーと、神獣と呼ばれる九尾狐であるアヴァリス。

 3人の美女はエンヴィーの戸惑いの声を無視しつつも微笑みを絶やさない。


「随分と、好き放題言ってくれていましたね」


「い、いや……それはですね」


 3人の揺るがない微笑みにエンヴィーがたじろぎ、後ずさる。


「言い訳は無用、貴様には反省してもらいます」


 そう断言するメルヴィーの、3人の目は表情とは裏腹に全く笑ってはい無かった。


「とは言え、今はアレを押さえ込む事が先決です」


「アヴァリス様」


「ええ、承知していますよ」


 その3人のやりとりにエンヴィーは助かったと安堵の息を漏らし、十剣達は話について行けずに首を傾げる。


「アレ、とはどう言う……」


「あの魔教団最高幹部、ハスルートの事です。

 彼の周囲に飛び散り、蠢いている黒い血液の様な物が見えるでしょう?」


「はい」


「あれはハスルートが取り込んだ黒の宝玉、魔王の欠片の集合体。

 いずれ魔王の欠片は彼の魔力、そして魂までも呑み込み自らの養分と変えるでしょう」


「ま、まさかっ!!」


「完全体とは程遠いでしょうけど……魔王が、魔神ヴィスデロビアが復活します」


 オルグイユの言葉に全員が驚愕に目を見開き息を飲む。

 たった1つ取り込んだだけですら、勇者日高もハスルートも驚異的な強さ得た。

 それがもし、あの数の欠片が魔王としてこの地に舞い降りたら……


「だから、私がその前に封印します」


 十剣達が抱いた不安と恐怖を掻き消す様な暖かな魔力が立ち昇る。

 アヴァリスは9本の尻尾をゆらゆらと揺らし、柔らかな微笑を浮かべてハスルートを見据え……


「ふふふ、そうは行かないわよ?」


 男を惑わす妖艶な声と共に、黒い髪をした思わず目を見張る様な美女が姿を現した。

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