第191話 幼女神の試練 〝道化〟
攻撃は易々と防がれ、敵の攻撃には反応する事すら許されない。
魔教団最高幹部である４人は屈辱に顔を歪める。
そこには隔絶した絶対的な力の差が存在した。
その気になれば一瞬で勝負が決する事だろう両者の戦いは、一見拮抗している様に見えた。
しかし、所詮それは第三者からの感想であって、事実は異なる。
４人と対峙する２人のメイドは決して致命傷は与えず、態と隙を作り、回復させる。
ジワジワと数を増やす４人に対し２人には傷どころかそのメイド服に一片の埃すら存在しない。
それは最早、闘いと呼べる代物では無かった。
蹂躙……その言葉すら生温い、２人にとってこれは只の遊びであった。
４人の顔に浮かぶ感情が屈辱から次第に恐怖へと移り変わる。
そして４人にとって途方も無く長い時間が……実際には数分が経った頃、４人は地に沈んだ。
「う〜ん、呆気なかったですね」
「ええ、これならまだ、あの巨大スライムの方が厄介だったかもしれません」
シアとノアは息一つ乱す事も無く、まるで日常の雑事の感想でも言うかの様に軽く肩を竦める。
「あはは、言ってくれるね。
でもまぁ、雑魚とは言え魔教団の最高幹部に勝ったら図に乗るのも仕方ないかな？」
腕を組み微笑みを浮かべるハスルートから立ち昇る濃密かつ圧倒的な魔力は、その見た目に反した存在感を抱かせる。
常人ならば当てられただけで意識を飛ばすだろうその威圧はしかし……
「邪魔者の排除は終わりましたし。
そろそろ皆さんの出番ですよ！」
一瞥される事すら無く、すげなく無視された。
「……それは、そうなのですが」
「えげつないっすね……」
ピクピクと若干頬を引きつらせて苦笑いを浮かべるユリウスと、ネロにメイド姉妹は揃って首をコテンと傾げる。
「え、えっとですね。
あの人…ハスルートでしたっけ？ 彼があそこまで自己主張してるのに見向きもしないってのはちょっと……」
「自己主張？
あれは何かの目的があってしていた事なのですか？」
訳がわからないと頭を悩ます２人のメイドの姿に他の皆んなはドン引きである。
敵であるハスルートですらピクピクと眉が軽く跳ねた。
『自己主張どころか、絶対に自分の方が格上だって言ってるでしょうっ！！』
十剣もアレックも、グラウスですら内心でそう叫んだ。
この瞬間、彼らの思考は完全に一致したのである。
当然、それを声に出して言う愚か者は一人として存在しないが……
「あはは……君達には本当に身の程ってモノを教えてあげなきゃいけない様だね」
しかしノアとシア、そして２人の主人や上司の正体を知らないハスルートは違う。
先程とは違い笑みは浮かべているが、青筋を浮かべ、何よりその目が全く笑っていない。
「魔教団の最高幹部４人を……いや、ディベルも含めて５人倒した君達への褒美だ。
この世界の特別な秘密を教えてあげよう！！」
大仰に手を広げ、効果音が付きそうな勢いで言い放つ。
「この世界には覚醒と言うモノがある。
その条件は圧倒的な強さ。
命を賭けた闘いを生き抜きレベル１０００と言う頂に到達した者のみが至る上位存在！
そして、その頂に至った者を……僕の様な存在をこう呼ぶのだ……到達者と」
ハスルートのが背負う重圧はまさしく到達者、全てを従える上位存在。
その圧倒的な存在感に人々は恐怖と共に畏怖を抱き、敬意を込めて神とすら崇め讃える超常の存在。
最強と名高い十剣であっても所詮は人間、到達者には到底及ぶはずも無く。
その圧倒的過ぎる力量さに絶望し、到達者と対峙した事を後悔するだろう……しかし……
「あ、あれは流石にフォロー出来ない」
「痛過ぎるね」
「敵ながら少し憐みすら感じます」
到達者どころか、目の前の２人のメイドを含め多くの超越者を知る彼等には何の効果も無く。
恐怖と畏怖どころか、逆に憐みの目すら向けられる。
到達者に至って初めて一人前と認められ、殆どの人員が到達者に至っているナイトメア。
そんな非常識な組織を知る十剣やアレック、グラウスにとって、ハスルートの語った話は大した内容では無かった。
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