第125話 そして開戦の火蓋は切って落とされた

 もう少しで日が落ちるかと言う時間帯。

 薄暗い部屋の中、7人の存在が黒い円卓を囲んでおり。

 この場にいるのは、世界の闇で暗躍する魔教団の最高幹部達。


『勇者では無く謎の集団などと……もう少し真っ当な事は言えないものかな?』


『本当は実験に失敗しただけなのでは?』


『まぁ、確かに荒唐無稽な話ですね』


『天才と呼ばれて、つけ上がっていたのでしょう』


 嘲る様な、見下す様な声音のそんな言葉が発せられるの先に居るのは漆黒のローブを纏う四人の人物。


 深くフードを被っており、覗いているのはその口元のみ。

 しかし、その4人はこの場に存在しない。


 その4名のみならず、この会議に参加している7人のうち6名が立体映像。

 所謂ホログラムであり、実際にこの場にいるのは1人のみ。


「私は事実しか申しておりません」


『そう言われてもねぇ?』


 明らかな嘲笑を向けられて、この場にいる人物。

 魔教団最高幹部の1人であるディベルは変わらぬ笑みを浮かべ続ける。


 最高幹部達は更にディベルを責めようとするも、今まで黙っていた1人が軽く手をあげた事で静まり返る。


『ディベル、君の言っている事が本当であろうと嘘であろうと……次は無いよ?』


 今まで自身を見下し、嘲笑っていた連中とは違う強烈なプレッシャー。

 それがホログラムであると分かっていても、その重圧に思わず固唾を呑む。


『分かってるよね?』


「ええ、承知しております」





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「チッ、あの化け物どもがっ!!」


 先程まで最高幹部のみの会議が開かれていた部屋にてディベルが椅子を蹴り倒しながら怒声を上げる。


「私を侮辱していたバカ共はどうとでも出来る、だが……」


 あの2人は違う。

 自身の持てる全ての力を持ってしてもあの2人だけは底が知れない。


「ふぅ……私とした事が、取り乱してしまいましたね。

 アレで遊ぶとしますか。

 しかし彼女は本当に面白いモノを残してくれましたねぇ」


 そう嘯く顔には先程までの苛つきは既に無く。

 会議中浮かべていた様な笑みが浮かんでおり。

 そして、その場所に移動しようと、一歩踏み出した瞬間……


『ディベル様、大変です!!』


 と、焦燥感に満ちた声が、何処からとも無く鳴り響く。

 その声の発生源は会議室に備え付けられている緊急連絡用の魔石。


 それが使用されていると言う事は、現在が緊急事態と言う事を意味するのだが。

 ディベルは一切取り乱さず、落ち着いた声音で問い返す。


「何事ですか?」


『何者か…撃を!

 外部と…連、が遮断…ました!

 外がっ』




 ドゴォォォオン!!




 凄まじい揺れと衝撃が世界樹を襲った。

 酷いノイズ混じりの通信がブッと音を立てて途切れる。


「一体、何だと言うのですか!

 外がどう、した…と……」


 特別に作られた、窓一つすら存在しない会議室の魔力式の鍵が付けられた扉を開け。

 廊下に出て……絶句した。


「これは、一体?」


 世界樹。

 八大迷宮の壁で閉ざされていたはずのその場所は、大きく抉られた様な穴が開けられており。

 雷が荒れ狂う曇天の、何も無い荒野のみが広がっていた。

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