第42話 神像、ダメ、絶対です!!

 とても、かなり、凄くマズイ事になりました。


 このお屋敷を購入した事で、活動拠点の確保と言う当初の目的は達しました。

 尤も、生活必需品が全く揃って無いので、住む事はまだ出来ないし、商会もまだ立ち上げてませんけど……


 それらは明日にでもコレールが手配してくれるので何の問題もありません。

 問題は、僕がこのお屋敷を手に入れてしまった事なのですっ!!


「お嬢様、お待ち下さいっ!!」


「止めないで下さい!

 僕はあの地下室を調べなければなりません!!」


「なりません、危険でございます!」


 くっ! 流石はコレール、強敵ですね……こんなにも懇願していると言うのに。

 これがオルグイユならば即刻、僕の懇願に陥落してくれるでしょうに……


 商業ギルドで支払いを一括で済ませ、ホテルをチェックアウト。

 そしてお屋敷に戻って来た僕は現在……お屋敷の一室にて拘束されています。


 何故、僕がこんな目に……不当です!

 お屋敷に着いて即行で、地下室に向かってスタートを切っただけなのに……


 なんと言っても、気になって気になって仕方無かったですからね。

 職員さんと一緒にこのお屋敷の内装を見て回ってる時に、ちゃんと我慢した僕を褒めてあげたい程です。


 神聖な気配を発する、帝国が隔離していたお屋敷の地下室に隠されたダンジョンっ!

 素晴らしいシチュエーションです!!


 支払いを済ませて、戻って来た僕が反射的にスタートを切ったのは自然の摂理。

 仕方無い事だったと言えるでしょう。

 まぁ、そのせいでコレールに確保されて、こうして拘束されている訳ですが……


 それに拘束と言っても、縄で縛られたり、魔法で身動きを封じられてはいません。

 ただ椅子に座らされて、コレールが僕の事を監視していると言うだけです。


 さっきコレールの隙を突いてこの部屋からの脱出試みたのですが……失敗しました。

 ドアノブに手を掛けた瞬間には捕まってました……


 因みに、今いるこの部屋だけは、コレールが空間魔法から取り出した物で内装が整えられています。


 それも凄まじく豪華。

 鑑定したところ、昨日まで泊まっていたホテルの内装よりも高価と言う驚愕の事実。


 僕が座っている一人掛けのソファーも程よいクッションの柔らかさ。

 これは人をダメにするソファーと言えるでしょう。


 しかし今は、このソファーよりも地下室です。

 せっかく2つ目の八大迷宮を発見したのに……


「むぅ、どうしてもダメなのですか?」


「ダメです。

 ダンジョン、それも八大迷宮ともなれば何が起こるか分かりません。

 確かな護衛も無く、お嬢様をその様な危険な場所に行かせる訳にはいきません」


 ずっとこんな感じで、コレールが許してくれません。

 きっとこれも僕の身体が幼いせいです。


 そのせいで、コレールはこんなにも過保護になってしまったのです。

 そうに違いありませんっ!


 もし、性別が固定されて無かったら男になって地下室の調査に向かえたものを……あの神様達はいつか絶対に一発ずつぶん殴ってやます。


「お嬢様、一度帰った方がよろしいかと」


 ここで言う帰るとは勿論、僕が攻略した地下迷宮、深淵の試練の事です。


「オルグイユとフェルの両名を加え、万全の対策を取った上で八大迷宮に挑むべきです」


 このまま、ここでコレールと不毛な駆け引きを繰り広げる訳にもいきませんし。

 仕方ありませんね……


「わかりました。

 一度帰るとしましょう」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そんな訳で久しぶり帰ってきました深淵の試練!!

 まぁら久しぶりと言っても一週間も経っていませんけど……目の前に広がるこの光景。


「こ、これは一体……」


「はぁ……」


 その光景を前に、唖然と呟くのがやっとでした。

 コレールは呆れた様にため息をついて余裕ですけどね。


 ナイトメアの本部であり、僕達の家でもあるお屋敷の周りには幾つもの塔が立ち並び。

 その中心に位置するお屋敷の前には、僕であろう巨象が建造されています。


 〝神眼〟を使って上空からその様子を見てみれば。

 中央のお屋敷を中心に、周囲の塔と渡り廊下を利用して巨大な魔法陣が構築されていました。


 しかもその魔法陣によって構築されている魔法が超高度。

 対物理・対魔法結界に加え状態異常無効化の魔法など……


 落ち着いた雰囲気だったお屋敷は今や見る影も無く、美しい城塞と化しています。

 唯一の救いは、僕の好きな草原は全くの無傷で現存していると言う事でしょうか?


 たった数日足らずで、一体何をどうやったらこんな事になるでしょうか?

 それにあの僕を模したであろう巨大な石像は一体……


「ルーミエル様、お帰りなさいませ」


「ん、お帰り」


 留守の間に作り上げられていた要塞都市とすら呼べる光景を唖然と見つめていると、オルグイユとフェルがそう言いながら要塞都市から出てきました。


「あの、これは一体?」


「ん、会心の出来」


 フェルが無い胸を誇らし気に張り、オルグイユも満足そうな様子で頷く。


「あとは、ルーミエル様の神像を50個ほど配置すれば完成です」


 ん? んんん? 今、オルグイユさんが聞き捨てならない事を言いました?

 僕の神像? をあと50個配置する……それは、流石に許容できません!


「それはダメです」


「えっ?」


 オルグイユに向かってそう言い放つと、キョトンと驚いた様な表情で固まる。

 何故かコレールも一瞬唖然とした顔に……


「ん、だから言った。

 アレは、やりすぎ」


 フェル! わかってくれますか!!

 こんな近くに理解者がいてくれて僕は嬉しいですよ!!


「小さい方が、可愛い」


 ……あっ、はい、そうですか。


「それもダメです。

 神像は禁止にします!!」


 僕がそう断言すると、ガビーンと効果音が聞こえてきそうな感じてフェルが目を見開きました。


 オルグイユなんて膝から崩れ落ちて悲しんでいますし。

 コレールでさえ少し残念そうにしています。


 しかし!こればかりは許す訳にはいきません!!

 現役ヒキニートだった僕が、そんな公開処刑をされて無事な訳がありません。


 今はまだ僕達しかこの場にいませんが。

 ナイトメアを本格的に始動したら、本部となるこの場所には数多くの人々が出入りする事になるでしょう。


 そんな場所に僕の巨大神像が立ち並ぶ……

 もし、そんな事態に陥れば、軽く死ねる自信があります。


「勿論お屋敷の前にある、あの像も撤去ですからねっ!」


 神像、ダメ、絶対です!!

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