第97話:その頃彩乃は

本当はこのままひーくんのことを抱きしめながら頭を撫でてあげたいところなのだが、自分だけが知っている彼の可愛い姿を他の人達に見られるというのは面白くないため


(続きはまた後で♪)


と心の中で呟いた私は椅子に座ってお互いの目と目を合わせてから


「ひーくんのことだから気付いてるかもしれないけど、美咲がひーくんにちょっかいを出したのは私の彼氏があまりにも素敵すぎて騙されてるんじゃないかって心配になったからなんだって」


「………………」


「(コイツが彼氏として素敵すぎるだぁ? 少なくとも俺は一之瀬が彼氏らしいことをしてるところなんて一回も見たことがねえぞ。彼女を泣かせてるところなら見たことあるけど)」


「(ちょっと、私これからあのおっかない一之瀬君に謝らなきゃいけないんだからこれ以上余計なことを言わないでくれる!)」


(さっきから後ろがちょっと五月蠅いけど彼には聞こえてないみたいだし、取り敢えず放っておこう)


そう考えた私は明日香に『そこの二人をお願い』とアイコンタクトしてからひーくんとの距離を詰め、ぷにぷにの頬っぺたをむにゅむにゅしながら


「も~う、本当は嬉しいくせにそんな不機嫌そうな顔をしちゃって♪」


「すん、おへがああのはれしおひていできあのはあひゃひむえおほおあじ。ほへあえんおほどこおもとひっふぉにあれちゃおまるっひうの (ふん、俺が彩乃の彼氏として素敵なのは当たり前のことだし。そこら辺の男どもと一緒にされちゃ困るっつうの)」


(拗ねながらも嬉しそうにしてるひーくんも可愛い~。もうこのままぎゅ~ってしたいたいよぉ♡)


「(えーと、美咲さん? がよーくんに何をしたのかは知りませんけど普段はあんな感じで結構子供っぽいことが多いのでそんなに怖がらなくても大丈夫だと思いますよ)」


「(というかアイツが本気で怒ってるところなんて俺は一回も見たことねえぞ。機嫌が悪くて~ってのはたまにあるけどそれだって最近は佐々木がいてくれるおかげですぐに戻るし)」


「(もしかしなくても一之瀬君って不機嫌になることはあっても怒ることは滅多にない人だったり?)」


「「((うん))」」


美咲による質問に対し明日香と菱沼の二人が同時にそう返すとようやく自分がどれだけのことをしてしまったのかを理解したらしく『やっばー』みたいな顔をしながらこちらを見てきたが私はそれを無視して


「そこら辺の『自分には彼女がいる=己のステータスの一つ』みたいにファッション感覚で考えてたり、豊富な経験値を元に瞬時にどうすれば相手が喜ぶかなどが分かっちゃうオールラウンダーとは違ってひーくんは私のためだけに頑張ってくれてるんだもんね~♡」


「(今あの子一之瀬君のことを褒めつつ私達に向かって『この人は私の男だから』っ釘を刺してきたよね? 絶対そうだよね?)」


「(彩乃ちゃん的には全然そんな気はなかったんでしょうけど……まあ女の子あるあるじゃないですか?)」


「(なんだそりゃ⁉ 一之瀬のマジキレより女子の方がよっぽど怖いだろ絶対!)」


(………………)

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