第39話:スマホを取られただけなのに
「ということで私はそろそろ会議に向かう準備をしなければいけないのだが、他に何かあるかい?」
そう校長が言ってきたので俺は帰る前にちゃんと言いたいことを全部言っておこうと思い、その場で立ち上がってから
「今回アンタがとった行動が正解だとは思っていない。思ってはいないが俺が求めていた被害者と加害者の両方を救いたいという点だけで言えば本当に助かった、ありがとう。それと話も聞かずに一方的に怒鳴り込んだことは謝罪する。……すいませんでした」
「あははははは、イチが自分から謝るなんて珍しい……というのは冗談で。私もあれが最良の選択だったとは思っていないし、イチが怒りたくなる気持ちも分かる。だが勝手に一人で行動せずに大人を頼ったことは間違いなく正解だ。だから今後も何かあった際は自分の頭の良さを過信せず、まずは私に相談してくれ。(いや本当に相談してくれないと私のクビが飛ぶだけじゃなく社会的に殺されかねないからね。まったく恐ろしい子だ)」
「じゃあ次からはちゃんと話し合ったうえでどうしても納得いかなかったら首を切って殺すわ」
「おー、怖い怖い。一生のお願いだから早く君の手綱をしっかりと握ってくれるような彼女を作って私を安心させてくれ」
(また余計なこと言い出したぞこの爺。さっさと帰ろ)
「そろそろ帰るから俺のスマホ返してくんね?」
「えっ? あー………」
(おい、なんでそこで俺のスマホとこっちを交互に見る。どう考えても俺のだろうが)
とか思っていたら佐々木が意地悪な笑みを浮かべながら
「私に一之瀬君のL○NEをくたら考えてあげなくもないよ?」
「別にいいけど、なんだよ考えてあげなくもないって」
(って、今はロックが解除されたままなのをいいことに勝手に人のスマホ弄ってるし。………俺L○NEの友達自分のサブ垢を合わせても16人しかいなんだけど。まあ見られたところでって感じだけどさ)
ちなみに編集さんなどの仕事関係での連絡方法は別のチャットアプリを使っているので大丈夫なはずである。
「登録完了っと♪」
「よし、じゃあ返せ」
「話は変わるんだけどさぁ、これから一之瀬君のこと『ひーくん』って呼んでいい?」
(ひーくん? ひー、ひー、ひー。……あー、ひ・ふ・み・よ~ってか。上手いこと考えたな)
「ひーくんでも何でもいいからスマホ返せ」
実はこのあだ名を気に入っていたりする俺はそう返すとさっきまで浮かべていた意地悪な笑みはどこへやら、若干とはいえ頬を赤かく染めながら
「じゃっ、じゃあ……これから私のことはあ、彩乃って……うぅぅ」
(なにこの可愛い生き物。頭なでなでしたい、頬っぺたムニムニしたい! ぎゅーってしたい‼ そんなことしたら今度は俺が犯罪者になるからやらないけど)
「彩乃、スマホ返せ」
「はっ、はい! ……どうぞ」
(女子で下の名前を呼ぶなんて何年ぶりだ? ……あっ、そもそも倉科以外の女子と話したのが何年前か分からねえや)
「なんだかいい雰囲気のところ悪いのだがちょっといいかい?」
「なんだ? 正直俺はそろそろ帰りたいんだが」
「折角今日に合わせて調節したというのにその言い方はないだろ。ほら、鍵を渡しておくからあとは自由に使ってくれ」
そう言いながら校長が家の鍵を三つ渡してきたのでそれを受け取りながら
「サンキュー。念の為にもう一回聞くけど家具とかは全部揃ってるんだろ?」
「ああ、家具家電食器類は全部揃っているよ。もちろん妙なところで神経質な誰かのご要望通りベッドは全て新しいものと入れ替えておいた。と言ってもシングルベッドを二つだけだけどね」
「じゃあ当分の間はありがたく使わせてもらうわ。ってことで彩乃じゃーねー」
「えっ⁉ う、うん。じゃあ、ね?」
(あれ? なんで俺は友達感覚で彩乃に『じゃーねー』とか言ったんだ? まあいいや)
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