【一つ傘の下で】
駅に着いた瞬間に雨が降り出して、
「
急に名前を呼ばれて振り返ると、そこには俺、
「私、傘忘れちゃったんだけど、学校まで入れてくれない?」
「嫌だよ!俺ら付き合ってもないのに、そんな事出来るわけないだろ」
「なによ、霜崎。あんた恥ずかしいわけ?」
「……」
「それって私の事、意識してるって事かなあ?」
挑発的な目で
「さ、行きましょ!」
「お……おう」
三井透子は
「ちょっと霜崎!肩濡れてるんだけど!」
頬を膨らませて言う三井透子に、俺は少しだけ傘を彼女の方に寄せた。
「
「あーもう!仕方ないわね!」
三井透子は、やれやれといった感じで俺と肩を合わせた。急に近づいた距離に、思わず声が出そうになる。
三井透子に気持ちを悟られない様に、ポーカーフェイスを張り付けて明後日の方角を見た。多分、俺の頬は真っ赤に染まっているだろう。
「あんまりくっつくなよ。熱いだろうが」
梅雨が明けて、季節は夏真っ盛り。温度も湿度も高くて、不快感はマックス。汗が噴き出して制服が肌にくっ付くのを感じた。それでも、幸せな気分になるのは、惚れた弱味か。ドキドキと心臓の鼓動が早くなるが分かった。
「そう?私、平熱低い方なんだけどな……
「……そうかな」
お前の
「今日の英語の小テスト、憂鬱だわ」
その空気に耐え切れなくなったのか、三井透子が
「え!?今日って小テストあるんだっけ?」
「忘れてたの?」
「あー……うん。まあ、なんとかなるとは思うけど」
「霜崎、英語は得意だもんね」
「英語『は』ってなんだよ」
「数学、毎回赤点じゃない」
「うっ……なんで知ってるの!?」
少しは俺に興味を持ってくれているのかな?と思って、嬉しくなった。
あと少しで高校に着く、といったところで雨が止んだ。手を傘から差しだして、それを確認すると、三井透子は俺から距離を取った。
「ありがとう、霜崎」
「ああ。帰りも降るかも知れないから気を付けろよ。置き傘とかあるのか?」
「うん。帰りは大丈夫だと思う」
「そうか」
残念だ、と言いたかったけれど、勿論そんな事は言えずに、俺は傘を仕舞った。
教室に入ると、皆が英語の小テストの勉強をしている。いつもは騒がしい教室が、少しだけ静かだ。
「お!霜崎!ここ教えてくれ!」
友人が近づいてきて、頭を下げてきた。いいよ、と言って、文法やテストに出そうな単語を教える。もう直ぐ一限目が始まるな、といったタイミングで、生活指導の先生が入って来た。
「よーし、今から抜き打ちの荷物検査するぞ!」
教室がどよめく。
「皆、鞄を机の上に置け!」
「えっ!」
三井透子が動揺して、思わず声を上げた。
「なんだ、三井。お前、怪しいぞ」
「い、いえ。なんでもありません」
「ほう……ちょっと鞄見せろ」
生活指導の先生が険しい目をして、三井透子に近づいた。三井透子は覚悟を決めた目で、自分の鞄を先生に手渡す。チラリ……と僕の方を見て、
「ん?別に変な物は入ってないな……」
そう言いながら、弁当箱などを取り出した後に、先生は鞄を逆さまにして何度か振った。中からは何も出てこなかったが、三井透子の動揺は止まらない。
「ほ、ほら。先生。何もないでしょ?もう良いですか?」
「う~ん。仕方ないな」
三井透子が素早く机の上にあった物を手早く仕舞った。その中にバーバリーの折り畳み傘があるのを見つけて、俺は思わず、あっ!と叫んだ。
「なんだ、霜崎。お前も怪しいな」
「いえ。何でもありません」
その後、荷物検査が終わるなり、俺は三井透子に近づいて、顔を覗き込んだ。三井透子の顔は紅に染まっている。
「な、なによ」
「三井、お前、傘持ってきてるんじゃん」
「……持ってきてるのを忘れてたのよ!」
「へえ。なあ、もし帰りに雨が降ったらさ」
「うん」
俺は勇気を出して、三井透子を見つめて言った。
「相合傘して帰らない?」
帰り道、どうか大雨が降りますように。
三井透子は耳まで真っ赤にしながら、
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