第16話 外伝 「愛月白日」
美月が誘拐された事件から一か月ほど経った。
「ハァ…」
あれから美月は警察の事情聴取やマスコミからのインタビューが連日続いた。高校の教師が生徒を知人と誘拐したとなれば、マスコミが群がるのが分かり切っていたことだったが、それは予想以上だった。それらが落ち着いてきたある日、下校の準備をしている美月は幼馴染の祐介に話しかけられた。
「なあ美月。大丈夫か?」
「大丈夫。やっと嫌な声と音がなくなってきたから」
「……やっぱ大変だったんだな」
「だからもう大丈夫だから」
「……どっかに遊びに行って気晴らししないか?」
「却下。疲れるだけだから」
「………そうだ!久しぶりに俺んち来ないか?」
「……え?」
「俺らわりと家近いけど最後に俺んち来たの小学生ぐらいじゃね?」
「あんたんちに行ってなんかあるの?」
「………お茶とお菓子くらい?」
「……まあいいわ。それで」
「ただいまー!」
「お邪魔します」
「まあ家に誰もいないけどな」
「え?じゃあなんでただいまって…」
「クセかな?ってか鍵開けて入って来たんだからわかるだろ?」
「…っ!……見てなかった…」
「いや音は聞こえるじゃん」
「いや……気づかなかった…」
「ふーん。まあいいや。紅茶とお菓子持ってくから先に部屋行ってていいよ」
「……うん」
美月は一人で二階に上がり、祐介の部屋に入った。
「へー、意外と片付いてる」
美月はベッドを背もたれにしてテーブルから近い位置に座り、カバンから一冊の本を取り出して読み始めた。しばらくすると祐介が紅茶とクッキーを洋風のティートレイに乗せて持ってきた。
「お待たせー!」
「ありがと」
美月は本から目を離さずお礼を言った後、クッキーに手を伸ばした。一方祐介は美月の隣に座って漫画を読み始めた。
「近いんだけど」
「だって届かねえんだもん」
「反対側に行けば?」
「背もたれないじゃん」
「………好きにして」
二人が読書を始めて2時間ほど経ったが、その間二人は一言も会話せず無言だった。夕方になったため美月が帰り支度を始めた。
「じゃあ、そろそろ帰るから」
「ん。わかった。どうだった?」
「え?どうって?」
「ホワイトデーのお返し」
「………ごめん、意味が分からないんだけど。私チョコあげてないから返すものないでしょ?」
「いや、あの日俺は美月が無事に帰ってきてすごく嬉しかった」
「……何言ってるの?」
「俺はバレンタインで美月が帰ってきたっていう「安心」をもらったと思ってるんだ」
「本当に何言ってるの?」
「だから3倍かどうかはわからないけど、俺は「安心できる時間」で返そうと思ったんだ。美月ずっと疲れてただろ?だから少しでもリラックスして欲しかったんだ」
「…………なるほどね。ありがとう。リラックスできたし休めたかもね。まあまあいいお返しなんじゃない?」
「そう言ってくれると俺も嬉しいよ。あと、ホワイトデー関係ないんだけどもう一つ伝えたいことがあるんだけど」
「なに?」
祐介は美月を家まで送るために二人並んで歩いている。
「……今日は寒いわね」
「そうか?」
「……うん…」
「……………………」
「……………………」
「最後に手を繋いだのって小学生だっけ?」
「うるさい」
「いてて。爪立てるなって」
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