第15話 脱出ゲーム「犯人だぁれ?」 ~外伝短編集~
①月と小鳥の薔薇
もうすぐ冬になろうとしている季節、大学の喫煙所へ一人の青年が入ってきた。
「お、やっぱりここにいたな。悟志」
「…フゥ~…、今回は疲れてないんだね。勝也君」
「前回身をもって学んだからな。そんなことより頼みごとがあるんだ」
「…フゥ~…、いいよ」
「え?内容聞かずに受けるのか?」
「今の言い方だと僕にでもできる軽い頼み事なんでしょ?勝也君ならもっと重くて大切な頼み事するときは口籠ったりするでしょ?」
「まあ…そうだな…。またピロティで待ってるから後で来てくれるか?」
「いいよ」
「サンキュー。先行ってるわ」
そう言うと勝也は喫煙所から出て行った。
「…フゥ~…、前回とは違ってここでは言えない内容なんだね…」
悟志は吸い終わったタバコの火を消してピロティへ向かった。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」
ピロティでは勝也が悟志に頼みごとの説明を始めていた。
「幽霊?」
「そうなんだよ。俺のバイトの後輩でさ、一週間くらい前から部屋に幽霊が出るんだってさ」
「う~ん…信じられないなぁ…」
「まあそうだろうな。っつっても俺もさ、怖いからってバイトが終わった夜は送って行ったり、しばらく部屋にいて霊が出ないか見てやってるんだよ」
「優しいね。それで幽霊は出たの?」
「いや、俺は見てねえけど、俺が帰った深夜とかに出るみたいなんだ」
「ふーん。それでなんで僕なの?」
「いや…。なんか知ってそうだから」
「残念ながら僕は霊感無いよ?幽霊や呪いの知識もないし。でも気になるね」
「だろ?そこでお前の力を借りたいんだよ。これからそいつんち行くんだけどさ、一緒に来てくれるか?」
「まあ…いいけど…、僕にできることあるのかな?」
「それはまあ…、行ってみないとわかんねえけどさ…」
「それもそうだね。あ、その後輩の名前はなんていうの?」
「ああ、言ってなかったな。八王子桜って名前で一つ年下だよ」
「あ、女の子なんだ」
「ああ。なんかマズいか?」
「う~ん…、…悪いけど一つだけ条件出してもいい?」
「条件?」
勝也は悟志と話し終わった後、八王子に電話を掛けた。
「もしもし、小鳥遊だけど」
〈はい、八王子です。先輩、お疲れ様です。これから来てくれるんでしたよね?〉
「ああ、それでさ…。俺の友達にそっち関係で詳しいやつがいるから連れて行ってもいいか?」
〈え!?そんな人がいるんですか!?〉
「ああ、やっぱり…急だとダメか?」
〈い、いえいえ!私は大丈夫です!お願いします!〉
「そうか…。でも…一つ条件があってさ…」
〈なんですか?やっぱり…お金…とか?〉
「いや……その…「部屋でタバコを吸わせてくれ」…だってさ…」
〈………はい?〉
悟志と勝也は八王子のアパートへ向かって歩いている。
「えー、これがああで…こっちは…」
「勝也君、着いたみたいだよ。ここのアパートでしょ?」
「ん?ああ、ここだ」
「何号室だっけ?」
「203号室だよ」
二人は203号室の前まで行き、インターホンを鳴らした。しばらくしてインターホンのスピーカーから声が聞こえてきた。このインターホンにはカメラが付いており、中からモニターで外を確認できるタイプのようだ。
〈…はい、待ってました先輩〉
「ちょっと遅れてゴメンな。隣のこいつが話してたやつ」
〈あ、わかりました。すぐ開けますね〉
しばらくすると目の前の扉が開き、中から女性が顔を出した。
「あの…いらっしゃいませ。えー…」
「ん?ああ、僕?月見里悟志です。よろしくね。寒いから中に入ってもいい?」
「あ…はい、八王子桜です。どうぞ中へ」
「うん、お邪魔します」
「お前初対面なのにけっこう遠慮ねえな」
部屋の間取りはワンルームで玄関の前にお洒落なシートも敷かれて奇麗に片づけられたキッチンがあった。その後ろがトイレと風呂場になっている。悟志と勝也はその奥のリビングに通された。リビングの隅には大きめのぬいぐるみが置かれたベッド、その反対側の壁にはテレビと可愛らしい小さな置物がたくさん置かれた台がある。ベッドとテレビ台の間の壁には大きな窓があり、そこからベランダに出られるようになっている。部屋の中央にはクッキーやチョコレートが置かれた円形のテーブルがあり、その周りにはクッションが4つ置いてある。二人はそこに座った。
「今お茶を入れるので座って待っててくださいね」
「ああ、おかまいなく」
「僕ストレートティーがいいな」
「ここ喫茶店じゃねえよ」
「いえ、紅茶を出すつもりだったのでいいですよ」
「え?マジ?」
「小鳥遊先輩もストレートティーでいいですか?」
「あ…、ああ」
「ではお湯を沸かすのでちょっと待っててください」
そう言うと桜はキッチンへ行き用意を始めた。それを見て、勝也と悟志は桜に聞こえない声量で会話し始めた。
「悟志…もしかして紅茶が出るって知ってたのか?」
「うん。そうだよ」
「なんでわかったんだよ?」
「テーブルにクッキーとチョコレートが置いてあるからだよ」
「は?それだけ?」
「紅茶のお茶菓子と言えばクッキーだよ。クッキーやチョコレートは麦茶とか緑茶とは合わないでしょ?」
「あぁ…まあそうか…」
「お茶は僕らが来てからじゃないと淹れられないでしょ?冷めちゃうよ。だからお茶菓子だけ先に用意した。そう考えるのは自然でしょ?」
「ああ、なるほど。でもコーヒーの可能性もあるだろ?」
「ないよ。コーヒーだったらブラックかどうか最初に聞くでしょ?」
「あ、そうか」
「それより……はぁ…」
「ん?どうした?」
「……灰皿がない…」
「いやあいつ喫煙者じゃねえから。しかもテンション下がるポイントそこかよ。ポケット灰皿持ってるだろ?」
「…持ってるけど……あまり室内で使いたくない…」
「え?何そのこだわり?」
しばらくして桜が紅茶を持ってきた。
「どうぞ…。あの…、お話を聞いてくれるんですよね?月見里さんは…その…そっちに詳しいそうで…」
「え?あ…ああ、そうだ。何があったか詳しく話してやってくれないか?」
「あ、はい。わかりました」
「できたら最初から聞きたいな。勝也君は聞いてるかもしれないけど、僕にも一から順を追って話してくれないかな?」
「あ…、そうですよね。じゃあ最初から話しますね。えー…と…」
「最初はたしか…女の霊が見えたんだったんじゃなかったか?」
「そ、そうなんです!夜中にふと目が覚めて……ふと部屋の方を見たら…髪の長い女の人…が…」
「それが確か一週間前だったよな?」
「…はい」
「…………。(この紅茶美味しいね。ミルクティーにしても美味しいかも)」
「それからたしか…水だっけか?」
「は…はい。朝起きたらキッチンのところに水たまりができてたんです。もちろん水道が出しっぱなしだったわけじゃありません。それが二日連続で…。気味が悪いし掃除も大変ですし…」
「たしかにそうだな…」
「…………。(うん、このクッキー紅茶によく合う。どこで買ってきたんだろう?後で聞こうかな)」
「それからは物が勝手に動いたんだっけ?」
「はい…。そこの置物が夜中動くんです…。三日前から先輩に来てもらってるんですが…先輩が帰って…寝ようとした深夜に…カタカタ動いたり…フワッと浮いたり…もう…怖くて…」
「そりゃ怖えよ。俺もできる限り見張りたいけど…母さんがうるさくて…。悪いな」
「い、いえいえ!先輩が謝ることないですよ!感謝してるくらいですよ!少しでも気が紛れて精神的に助かってますよ!」
「そうか…。それならよかったけど…」
「…………。(あ、このチョコってジャムが入ってるタイプだ。僕苦手なんだよねぇ…。紅茶で流し込むしかないかぁ…)」
「何か霊に憑かれる心当たり無いのか?例えば…、そうだな…、心霊スポットとかに行ったり、こっくりさんみたいなオカルトの儀式みたいなことしたり…」
「そ、そんな怖いことしません!」
「わ…悪い…」
「あ…、こ…こちらこそすみません…」
「…………。(ん?このチョコのジャムと紅茶を一緒に飲むと美味しい。新しい発見しちゃった。今度またやろう)」
「ここが事故物件とか聞いたか?」
「は…はい…。でも…そういうことは今までなかったそうです。なので…管理会社は相手にしてくれませんでした…」
「……ひでぇ話だ」
「…………。(さすが勝也君、完璧だよ)」
悟志はタバコを口にくわえた。
「っ!…お前本当に吸うのかよ」
「そういう条件だしね」
「あ…、はい…。大丈夫です……。どうぞ吸ってください…」
悟志は右手でジッポライターを握りこんだ瞬間、ライターを回転させて手の外に出し着火させてみせた。これは「スプリングホイール」と呼ばれるジッポライターの小技だ。
「えっ!……お前そんなことできたのか?」
「うん。練習すれば誰でもできるような小技だよ。……フーッ…」
「……ケホッ…」
「あ、ああ…やっぱ外で吸った方がいいんじゃねえか?」
「え~…、話が違うよ」
「あー…、じゃあベランダはどうだ!?八王子!ベランダ出ていいか?」
「…はい…。今は何も洗濯物とか干してないので…。…ケホッ…」
「よし!じゃあ決まり!おい悟志!ベランダ出るぞ!」
「えー。寒いよ?」
「いいから!ほら!」
「もう…。わかったから引っ張らなくていいよ」
「悪い八王子!ちょっとばかし待っててくれるか!?」
「は…はい…」
勝也は悟志の腕を掴んでベランダに出た。
「…フゥ~…」
勝也は悟志を先にベランダに出し、窓を閉めてから口を開いた。
「どういうことだよ?「彼女が嘘をついている」って」
「そのままの意味だよ。彼女の話した心霊現象は嘘だよ。だから早く勝也君に伝えたかったんだ」
「だから「二人で話したいから部屋を出ろ」も使ったのか?」
「うん。それより、やっぱり覚えててくれたね。さすが勝也君だね」
「ヤマ勘が当たっただけだよ。全部覚えられるわけねえだろ」
2時間ほど前、勝也がまだ電話をする前まで遡る。悟志は勝也にあることを提案していた。
「ローズ?」
「うん。聞いたことないかな?」
「薔薇…いや、たしか麻雀のイカサマの用語で「仲間とサインを決めて指示を出す」ってやつか」
「そう。それだよ。今回それを決めておきたいんだ」
「え?そんな必要あるのか?」
「明らかに怪しい話だからね。話を聞いているうちに、二人の間で相談したいことができるかもしれないよ」
「う~ん…、例えば?」
「そうだね…。例えば僕がこうやってライターを回転させて手の中から出せば「彼女は嘘をついている」とかね」
「え!?すげえ!今のどうやったんだよ!?かっけえ!」
「それは今度教えてあげるね。あとこうやって中指を下に置いて、蓋のところに人差し指、反対側を薬指で抑えるでしょ?」
「うんうん」
「で、人差し指で蓋を開けて、中指と薬指でこっちに向きを変えて親指で火をつける」
「おお!」
「これは「真偽不明」にしておこうか。普通に火をつけたら「彼女は本当のことを言っている」ってことでどう?」
「なるほどな」
「あとタバコの吸い方かな」
「え?まだあるのか?」
「タバコの煙を吐く時ゆっくり吐くか、勢いよく「フーッ」って吐くか、ふかすか、煙を上に吐くか下に吐くか、とかね」
「え?多くね?」
「タバコを持つ手や指もそうだね。普通に人差し指と中指で挟むのか、中指と薬指で挟むのか。火が付いた先端が手の甲を向いているか、手のひらを向いているか」
「ちょっと待て!多すぎる!」
「大丈夫。勝也君ならできるよ。思いつく限り20通り以上あるけど」
「はあ!?」
「道中に覚えられるよ。それに、多分全部覚えられなくても、僕が実際使うサインだけは絶対に覚えてるよ」
「その自信はどっから来るんだよ…」
「勝也君を信じてるからね。あの時言ったでしょ?君にはどんな人でも敵わない、知識や知性を超越した「判断力」があるからね」
「…嬉しいんだけどさ…、すげえプレッシャーだな…」
「それで?なんで嘘だってわかるんだ?」
「…フゥ~…、根拠は三つ。一つ目は、彼女が勝也君にしか話しかけてなかったから」
「え?」
「普通こんな問題に詳しい人物が来たら、その人に話してアドバイスを求めるよ。でも彼女はずっと勝也君としか話してなかったよ。僕はずっと紅茶飲んだりお菓子食べたりしてるだけだったのに何も言われなかったし。不自然すぎるよ」
「でも俺が質問してたんだから、俺に答えるのは自然じゃないか?」
「いや、勝也君が質問しても僕にも話しかけるはずだよ。でも彼女は僕の方に見向きもしなかった。それに、さすが勝也君だね」
「え?」
「勝也君は僕が聞きたいことを全部無駄なく聞いてくれてたんだよ。だから僕から質問しなくて済んだんだ。僕が質問するとさっきの根拠が崩れるからね。打ち合わせも何もしてないのにすごいよ」
「…………」
「…フゥ~…、どうしたの?急に黙って」
「う…うるさい!二つ目はなんだよ!」
「え…なんで怒ってるの?…二つ目は置物の話だよ」
「動いたってやつか?」
「うん。あれ動いてないよ」
「え?」
「小さい置物がいっぱい奇麗に並んでたからね。あまり触って位置をずらしたくなかったんだろうね。薄っすらと埃がたまってたよ」
「姑かよ」
「そういうことじゃなくて、物が動いたら埃の跡がずれるでしょ?」
「あ、そうか。もしかしてずれてなかったのか?」
「うん。ぴったりそのままだったよ。まさか動かした置物を埃の跡とぴったり合うように置き直す幽霊はいないでしょ?…フゥ~…」
「几帳面すぎるわ。三つ目は?」
「最後は水たまり。あれも嘘」
「なんでわかるんだ?」
「掃除が楽だから」
「は?」
「…フゥ~…、彼女はキッチンの床に水たまりができてたって言ったけど、あの床に敷いてあるシートは撥水性なんだよ」
「え?そうなのか?てか何でそんなこと知ってんだよ?」
「僕の家でも同じの使っているから」
「あぁ~…、そりゃ知ってるわ」
「彼女は「水たまり」と表現してたってことは、大きくても直径50センチの楕円形でしょ?それくらい掃除するのに30秒もいらないよ。あのシートなら雑巾でサッと拭けば終わるよ。ソースは僕」
「お前なんかこぼしたのかよ…」
「うん。前にお水こぼしちゃった。でもあのシートならすごく掃除が楽なんだ」
「回し者みてえなこと言ってないで続き話せよ」
「ああ、ゴメンゴメン。もし、あのシートで掃除が大変なレベルなら「水たまり」じゃなくて、「水浸し」って表現するはずなんだ。…フゥ~…」
「なるほど…。女の霊は?」
「さすがにそれは否定しようがないよ。カメラを仕掛けても、幽霊がカメラに写るのかどうかもわからないしね。ただ、三つのうち二つが嘘だったんだ。高確率で彼女の心霊現象の話は嘘だよ。一番最初に何があったか思い出すのに時間かかってたしね。…フゥ~…」
「…そうか。でも…なんで嘘ついたんだ?」
「君だよ」
「は?」
「彼女の目的は勝也君が自分の部屋に来てもらうようにすることだよ」
「……あ!そうか!そういうことね!なるほどな!」
「たしか勝也君ってもうすぐバイト辞めるんでしょ?」
「お…おう!そうだな!辞めちまう!もうすぐ卒業だしな!」
「事故物件でもないのに、一週間前から急に幽霊が出るなんて考えにくいよ。なにかオカルト的な儀式もしてないし。多分、勝也君って一週間くらい前にバイト辞めるような話をしたんじゃないかな?…フゥ~…」
「……そうだ!したした!たしかに一週間ちょい前にした!」
「だから彼女は急に幽霊の話を勝也君に相談したんだよ。勝也君は優しいからね。ちゃんと送ってあげたり、部屋で見張ってくれると思ったんだろうね」
「そうかそうか!なるほどな!ははっ!マジかよ!」
「ただ…、まだ一つだけわからないことがあるんだよね…」
「え?ん?なにが?」
「…フゥ~…、なんで勝也君を部屋に入れたかったんだろう?」
「それはわかるだろっ!」
②悟志の就職活動講座
五人の学生が小さな面接室に通され着席した。扉に一番遠い席に悟志は座っている。面接官はビシッとスーツを着こなしている中年の男性だ。
(あれ?この部屋……、なるほどね)
「この度は弊社の選考にお越しくださいましてありがとうございます。最初に所長の私に自己PRをそちらの方からしてください」
(…僕が最後か)
一人目の学生が話始めようとした瞬間、携帯の着信音が鳴った。
「失礼。私です」
所長は携帯電話の画面を確認すると、急に立ち上がった。
「大変申し訳ございません。数分で戻りますのでしばらくお待ちください」
そう言うと部屋の外に出て行ってしまったが、五分ほど経ったところで扉が開いた
「大変失礼しました」
(…っ!やっぱりね。………7…8…9…。うん、確定だね)
「では面接を再開します。先ほど申し上げたように、そちらの方から自己㏚をお願いします」
自己PRはつつがなく進行し、悟志の番になった。
「ありがとうございます。では最後の方、お願いします」
「……………」
「おや?どうされましたか?」
「できません」
「…それはどういう意味でしょうか?」
「最初に説明されました。「所長である私に自己㏚をしてください」と。ですので、所長ではないあなたに自己PRはできません、という意味です」
その場にいた全員が驚いた表情をして悟志を見た。
「いえ…、何をおっしゃっているのですか?私は所長ですよ?何故そのようにお考えになられたのですか?」
「耳の形が違います」
「耳…ですか?」
「はい。耳の形は人それぞれ違います。仮に双子だとしても。最初の方とあなたの耳の形が違います」
「なるほど。しかしあなたは私から常に一番遠い席にお座りになっています。見間違いではありませんか?」
「では耳の形が見間違いだとしましょう。ですが根拠はまだあります。扉からそちらのお席までの歩数が違いました。退室されるときは八歩、入室されたときは九歩でした。歩くときに振る腕の角度も違いました。手の日焼け具合もあなたは若干濃いですね。加えて手を組んだときです。最初の方は右手の親指が下でしたが、あなたは左手の親指が下です」
「………これは…参りましたねえ。君が初めてですよ。所長の入れ替わりに気づいても、ここまで言い当てられるのは。おい!入ってきていいぞ!」
そう言うと席に座っている男性と同じ顔、同じ服装をした男性が部屋に入ってきた
「ご名答です。私たちは双子です。最初にいた兄である私が本物の所長です。お見事でした。全部聞かせていただきましたよ」
「ああ、盗聴器の方でしたか。あそこの観葉植物ですよね?」
「「「えっ!?」」」
全員が驚愕の声を上げ、所長が悟志に質問した。
「な…なぜあそこに盗聴器があるとわかったのですか?」
「ここにコンセントがないからです」
「コンセントですか?」
「はい。どんな部屋でも、コンセントがない部屋はありません。ということは、あの観葉植物の裏にコンセントがあるということです。しかし、常にコンセントの前に観葉植物を置いていたら邪魔になります。つまり、あれはコンセントを必要とする電子機器を使っていることを隠すために置かれている、ということです。今回の場合、隠しカメラか盗聴器の二択でしたが、さすがにこれは絞れませんでした。ですが先ほど所長が「聞いていました」とおっしゃったので盗聴器と断定できました。カメラなら「見ていました」などの言葉使うはずですから」
「…フゥ~…、って言ったら面接一回で内定貰えたよ。ほら、お肉焼けたし食べようよ」
「………お前えげつないな…」
「面接の参考になった?」
「なるか!」
③月と小鳥の出会い
勝也と悟志は大学へ向かってあるいている。この日は大学の卒業式だ。
「長いようで短かったな」
「うん、そうだね」
「思えば俺は、お前にずっと世話になりっぱなしだったよな。ありがとうな」
「そんなことないよ。むしろ僕の方こそ勝也君に助けられてたよ」
「そうなのか?」
「うん。勝也君と一緒にいて、僕は勝也君の判断力にいつも助けられたよ。本当にありがとう」
「おいおいよせよ。お前の頭脳の方がすげえって。…そういえばさ、俺たちっていつからつるんでたんだっけ?」
「あれ?覚えてないの?僕たちは幼稚園から一緒だったけど、仲良くなったのは中学のときのあの事件でしょ?」
「ああ、あれか。あの時もお前に助けられたよな」
「いや、あれは勝也君の力があってこそだったんだよ」
悟志が中学生のとき、体育の時間中にクラス全員の給食費が盗まれえるという事件が起きた。体育の時間中に授業を抜けていたのは小鳥遊勝也ただ一人。その日は体調が悪く見学しており、トイレに行くと言って授業を抜けたのだ。帰りのホームルームの時間、勝也はクラス全員が見ている中で、担任の教師と教卓の前に立たされた。
「みんなお前が犯人だと言っているんだが本当か?」
「いや…俺は……やってないです…」
「じゃあ誰がやったんだ?」
「そんなの知りませんよ!」
(たしかに小鳥遊君は犯人じゃない)
クラスの中でただ一人だけ、悟志は冷静に考えていた。
(もし犯人なら自分に疑いがかからないようにするはず。体育の時間中に自分だけが抜け出して盗めば確実に疑われる。そんなこと明白なのに…。小鳥遊君じゃない人物が犯人なんだ。でも…、小鳥遊君が犯人じゃない証拠がない以上口出しできない。ゴメンね、今の僕にはないもできないや)
「…はぁ~、しかたないな。全員の荷物検査をするしかないな」
「「「えぇー!」」」
クラスのほぼ全員が教師の判断に反対の意を表した。
(まあ…、そうなるよね…。でも犯人ならこのこともちゃんと想定しているはず。だから証拠は小鳥遊君の手荷物の中から発見されるだろうね。でもそれしか手段がないか…。犯人に結び付く証拠を探すためにも、荷物検査をするべきだね。かなり確率の低いギャンブルだけど、それ以外できることがないね)
「小鳥遊もそれでいいよな?お前が犯人じゃないならお前の荷物からは何も出てこないし、犯人が見つかるかもしれんしな」
「…先生……荷物検査は…反対です」
「え?」
(え?)
勝也のこの一言にクラスはざわめいた。
(どういうこと?小鳥遊君は何を考えているんだ?それって「自分が犯人です」って言っているのと変わらないよ?デメリットしかない発言だ)
「小鳥遊、なんで反対するんだ?」
「いや…なんとなく……その…しない方がいいと思ったんです。みんな嫌がってるし…」
「それじゃあお前が犯人なのか?」
「それは違います!少なくとも…クラス全員の荷物検査は反対です」
「そうは言ってもだな…、それしかやることないだろ?」
「でも…」
勝也と先生の押し問答がしばらく続いたその時、声を上げた人物がいた。クラスではいつも六人でいる不良グループの男子生徒だ。
「おーい!いつまでやってんだよ!さっさと手荷物検査やって犯人探そうぜ!早く帰りてえんだよ!」
(……っ!…なるほど、そういうことね)
「そうだな。小鳥遊、お前が何と言おうと手荷物検査をするぞ」
「先生…それは…」
「先生。その必要はありませんよ」
口をはさんだのは悟志だった。
「ん?月見里、どういうことだ?」
「彼が犯人だからです」
そう言うと、先ほど声を上げた男子生徒を指さした。
「はあ!?俺かよ!」
「うん、君たち」
「はあ!?意味わかんねえ!名探偵気取って調子乗ってんじゃねえよ!証拠はあんのかよ証拠!」
「あるよ」
「え?」
悟志は「フッ」と笑って話し始めた。
「今なんで僕が言った「君たち」を否定しなかったの?」
「え……あっ!」
「普通に考えてクラス全員の給食費を集めるのには時間がかかるよね。トイレに行ってた時間でできることじゃない。だから複数犯だよ。そしてこの時間に「複数犯」なんて一言も言ってないのに、君はこの盗難が複数犯だと知っていた。それって犯人だけでしょ?」
「ち…ちげえよ!聞き間違えたんだ!」
「…都合のいい耳と口だね」
「んだとお!?ぶっ殺されてえのか!?」
「じゃあ給食費がどこにあるか当ててあげようか」
「…え?」
「あれ?何か都合が悪いの?(決まりだね)」
「ば…バカ言え!んなことできるわけねえだろ!」
「いや、できる。と言うよりもできた」
「はあ?意味わかんねえよ!」
「一から話そうか。まず君たちは教室からみんながいなくなったのを確認してから、全員分の給食費を盗んだんだ。このクラスは三十人いる。一人でやればかなり時間がかかるけど、六人でやれば一人につき四人盗めばいいだけだよね。そんな難しいことじゃないしすぐ終わるよ。その後、封筒からお金だけ抜いて、その封筒を小鳥遊君のカバンに入れたら、何食わぬ顔でグラウンドに行けばいい。誰がどの順番で来たかなんて、皆覚えてないし気にしてないからね」
「待てよおい!それお前の推測だろ!?証拠出せって言ってんだよ!名誉棄損だぞ!」
「ここに証拠はないよ」
「はあ!?なめてんのか!ぶっ殺すぞ!」
「さっき確信したよ。君は手荷物検査されても問題ない。むしろして欲しかった。だから先生に検査を促したんでしょ?つまり、君たちの周りや教室には盗んだお金はない。小鳥遊君のあの判断がなければわからなかったよ。そしてさっき僕が「給食費のある場所を当てる」と言ったとき、君は動揺したよね?」
「し…してねえよ!」
「いや、したよ。君は給食費がどこにあるか知っている。そもそも犯人だから当然なんだけどね」
「うだうだいってねえで証拠出せよ!」
「外履きの中敷きの下」
「………え?」
「そこに盗まれたお金があるんでしょ?」
「え…あ…いや……」
「どうしたの?誰がどう見ても動揺しているよ?そこしかないよね?君たちは全員が着替え終えて教室から出るのを雑談ふりをして待っていたんだよね?全員出たら六人で全員分の給食費を盗んだんだよね?中身は抜いて、最初から犯人に仕立て上げようとした小鳥遊君の荷物に封筒を入れたんだよね?その後お金を持って教室から出たんだよね?お金は校舎のどこかに隠したら誰かが見つけるかもしれないもんね?だから自分たちの持ち物に隠したかったんだよね?グラウンドに出るのが最後なら下駄箱にいられるのは自分たちだけだよね?持ち物検査されても下駄箱まで調べられるわけないもんね?この話し合いで小鳥遊君が犯人になってもならなくても関係ないもんね?その後教室や廊下で適当にだべって時間稼ぎすればいいよね?みんなが帰ったら下校するふりをして安全にお金を回収できるもんね?疑いを晴らしたかったら今すぐ先生だけで君たちの外靴を調べればいいだけだよね?君たちが無実なら何も出てこないよね?もしお金が出てきたら犯人である決定的な証拠だよね?何か反論ある?」
「「「……………」」」
悟志のマシンガンのような追い込みに気押され、教室が水を打ったように静まり返ってしまった。
「えー…、月見里がいっぱい喋ったが…、お前ら何か言うことあるか?」
「「「……………」」」
「わかった。ちょっと下駄箱を見てくるからお前ら待ってろ」
そう言うと教師は教室を出ていき、不良グループ全員の靴から盗まれた給食費を発見し、六人は職員室に飛び出された。翌日の一限目が終わった休み時間、悟志は勝也の席に行った。
「あ、昨日はありがとうな」
「ううん、あの人にムカついただけだよ」
「「それよりも」」
「お前すげえな!めっちゃ頭いいじゃん!」
「君すごいね。僕にあの判断はできないよ」
④紫煙の契り
「ねえねえ!なんでタバコ吸ってるの?体に悪いんでしょ?」
ラン・ミリクが悟志に尋ねてきた。
「(あまり言いたくないんだけど…、時間稼がなきゃいけないし…)約束したんだ」
「約束?」
「うん、僕が尊敬する人とね」
「へー!なんかカッコいいね!どんな約束なの?」
「…長くなるよ?」
「でも聞きたーい!」
「…昔ね、僕誘拐されたことがあるんだ」
「………え!?」
悟志が小学校に上がる少し前、悟志は公園で遊んでいるとき、男たちに誘拐されてしまった。抵抗むなしく、両手足を縛られ、薄暗い小さな部屋に連れ去られてしまった。部屋には大人の男が三人いて、常に悟志は監視されている状態だ。
「…うぅ……おうちにかえしてよぉ…」
「家に帰りたいか?なら自分の名前を言え」
「………。(もしいったらママとパパが…。テレビでみたもん)」
「さっさと言えっ!」
男が容赦なく悟志の顔面を殴ると、悟志の鼻から血が流れ出てきた。
「うっ!…いたいよぉ……うぅぅぅ…」
「だったら名前言えっ!」
残った二人はそれを気味の悪い笑みを浮かべて見ている。一人は電話帳を持ち、すぐに名前と電話番号を調べられるようにしている。この時代の電話帳には世帯主、住所、電話番号が記載されている。男たちは悟志から名前か電話番号を聞いたら、自宅に身代金を要求するために電話をかけることは明白だった。
「おらっ!さっさと言えっ!」
「…うぅぅ…、さ…とし…」
「やっと吐いたか。じゃあおうちの電話番号はわかるか?
「…ハア…ハァ……、……わか…らない…」
「チッ!じゃあ苗字とパパの名前はなんだ?」
「…ハァ…ハァ…、かわぐち…こうた…」
「よし、いい子だ。おい、番号わかったか?すぐ電話するぞ」
男たちはすぐに電話帳で調べた番号へ電話をかけた。
〈はいもしもし。川口ですけど〉
「あ、川口さんかい?お宅にさとしって子いるだろ?」
〈え?いませんよ?間違えていませんか?〉
「は?」
男は勢いよく電話を切るや否や、悟志を殴りつけた。
「ぐうっ!…いたぁぃ…」
「てめえ嘘言ってんじゃねえよ!」
「はあ?今の嘘だったのか?」
「おいおい…、勘弁してくれよ」
「ちゃんと本当の親父の名前言え!じゃねえともっと痛い目見るぞ!いいな!」
「ぐぅぅ……。(あと…ごかい…。がんばる…)…いたいの…やだぁ…」
「じゃあさっさと言え!」
「…ハァ…ハァ…、あおき…しょうへい…」
〈はい?うちにはさとしという子はおりませんよ?〉
男は電話を切ると悟志に暴行を加えた。すでに悟志の体は傷だらけになっている。
「てめえこれで六回目だぞ!小鳥遊も違うじゃねえか!」
「ぐぉぉ…うえぇぇぇ……ハァ…ハァ…ゲホッゲホッ!(よかった…。きづいてない…。これで…さいご…)…やま…なし…」
「ああん?」
「ぼくの…ほんとうの…なまえ…。かんじ…さんこで…やまなし…」
「漢字三文字?」
「おい、これじゃねえか?」
「…へえー、月見里か。これも間違ってたらもっと痛いことするからな」
「…ハァ…ハァ…。(もう…いたいのはない…けど…きづいて…おねがい…だれか…)」
〈も、もしもし…月見里です〉
「あー、奥さん?あんたんとこさとしってガキいるか?」
〈悟志!?悟志がそこにいるの!?〉
「やっと当たりだー!」
〈え?〉
「いや、こっちの話だ。要は金を用意しろってことだ。三日後までに二千万だ」
〈二千万!?〉
「ああ、用意しねえとガキを殺す。警察に言っても殺す。いいな?」
〈ちょっと待って!せめて声を!〉
男は用件を伝えるとすぐに電話を切った。
「やっとだよ…。身代金要求する電話かけるまでどんだけ時間かけさせんだよ」
「一時間ぐらいじゃねえか?」
「ていうか、なんでこのガキが言った名前がちゃんとあったんだ?」
「っ!」
「知るかよ。適当に聞いたことあるやつの名前言ってたんだろ」
「まあそうか」
(……きづいて…ない…。よか…った……)
悟志は全身の痛みと精神的疲労のせいで、いつの間にか意識が遠のいていった。
悟志が意識を取り戻したとき、周りは騒然としていた。
「……うっ……ん…え?」
「警察だ!暴れるな!」
「クソッ!なんでここに警察来んだよ!?」
「人質の保護を優先しろ!」
「……よかった…わかって…くれた…」
悟志は警察官の手によって、無事保護された。また犯人は全員逮捕された。悟志が外に出ると多くの警官の中に母親を見つけた。
「っ!悟志っ!」
「ママっ!」
悟志は母親に駆け寄り、母親の胸の中で泣いた。
「えええぇぇん!こわかったよおお!」
「悟志っ…、よく頑張ったわね…」
「ママがわかってくれたの?」
「ううん、あの人よ」
母親が指をさした向こうには、二十代に見える一人の男性が立っていた。
「…グスッ…あのひとなの?」
「そうよ。あの人が悟志を助けてくれたの」
「…ありがとうしてきていい?」
「ええ、いいわよ。ママも一緒に行ってあげるからね」
「ぼくひとりでできるもん」
「そう?ちゃんとできる?」
「うん!」
悟志は男性に向かってヨロヨロと歩いていった。
男性がジッポライターでタバコに火をつけたと同時に悟志がやってきた。
「…フゥ~…」
「おじさんがぼくをたすけてくれたの?」
「そうだが…、まだおじさんって言われる歳じゃないぞ。それより、お前本当に幼稚園児か?」
「うん、そうだよ」
「お前が犯人に違う家に電話かけさせたのは、自分のいる位置を教えるためだよな?」
「うん、そうだよ。おじさんすごいや」
「お前の方がすげえよ。お前、暇つぶしに電話帳と地図を見て暗記してたんだってな。まさかと思ったが、母親から聞くまで信じられなかったぞ。電話帳は七割くらい覚えてるらしいし、ここの市町村の地図もおおよそ頭に入ってるんだってな。…フゥ~…」
悟志は無作為に電話をかけさせていたわけではなかった。悟志は母親と知り合いの世帯主、電話番号、住所と、自分の住む近隣の町の地図も全て暗記していた。そして、その後どうなるかも予想していた。それをメッセージにしていた。
「悟志…、どこに行ったの…?」
〈プルルルルルル!〉
「電話?こんなときに…。はい、月見里です」
〈あ、月見里さん?川口ですけど、さっき変な電話がありましてね?悟志君になにかありましたか?〉
「え?」
「…フゥ~…、お前は母親の知り合いに電話させた。そしたら自分の家に電話がかかってくる。電話をかけてきた家を地図上で直線に繋いでいくと大きな五芒星になった。そしてこの近辺で「星」がつく町の名前はここの「大岡星町」だけだ。さらに六回目に電話させた小鳥遊の家は、お前が作った五芒星にある正五角形の中点から左斜め下にある。大岡星は正五角形に近い形になっている。小鳥遊の家は自分がいる地点を示していた。最後に、自分の家に電話をかけたのは「これでメッセージは終わりです」ってことを伝えたかったんだろ?…フゥ~…。大人でもこんな芸当できねえよ」
「おじさんがいってること…よくわからないよ。でもあってるとおもうよ」
「…フゥ~…、今でも信じられねえ」
「あ、わすれてた。おじさんありがとう」
「…フゥ~…、これが俺の仕事だから気にするな。俺に依頼したお前の母親にも、礼を言っとくんだな。俺に依頼したのが早かったから、お前のメッセージに気が付けた」
「おじさんはおまわりさんじゃないの?」
「俺は探偵だよ。まだ新米だがな」
「たんてい?しんまい?」
「探偵は困っている人を助ける仕事だ。新米は…、あ~…、米だ」
「おこめ!おじさんほかほか?」
「え!?あ…あぁ、ホカホカだ」
「ぼく、ほかほかごはんすき」
「そうかい。…フゥ~…」
「おじさん。ぼくもたんていになりたい」
「……そうだな。お前ならなれるかもな。その頭脳は是非とも欲しい人材だ」
「おじさんがほかほかなら、ぼくはおにぎりがいい」
「え!?あ…ああ、そうだな。そのときは俺もチャーハンくらいにはなってるよ」
「ぼくちゃーはんもすき」
「そうかい。…フゥ~…、………お前、本当に探偵になりたいのか?」
「うん!なる!たんていかっこいい!ぼくもこまってるひとたすけるんだもん!」
「そうか…。じゃあ約束だ」
「やくそく?」
「ああ。お前は探偵になる。そのころ俺はいちにんま……チャーハンになる」
「うん!やくそく!」
「もし大人になって俺を探したかったら、このジッポライターを探せ」
「…すごくきれいでかっこいいね」
「だろ?特注品だ。光が当たる角度で色が変わる。こいつは世界に一つしかない。探偵なら、これくらいやってのけてみな」
「うん!たんていになったらおじさんさがすね!そのきれいなのさがす!ぼくおにぎりになる!」
「…おにぎりは違うだろ…。…フゥ~…」
「へぇ~、そんなことがあったんだ」
「うん、だから僕はタバコを吸い始めたんだ。ジッポライターを取り出す場所は限られてるからね。もし同じ喫煙所を使ってたらすぐにわかるよ。っていうのは建前で、本当はあの人に憧れて吸い始めたのかもね」
「ふーん。ねえねえ!そのライターの中ってどうなってるの?」
「ん?ああ、いいよ。教えてあげるね」
悟志はジッポライターを分解し始めた。
悟志が探偵になって何年も経った。この日悟志は遠い地で調査をしていた。
「うん、こんなものかな?ちょっと休憩したいな。………あ、喫煙所」
悟志は偶然見つけた喫煙所に向かった。悟志が喫煙所に入ろうとすると、中年の男性が一緒に入ってきた。
「「…フゥ~…」」
「………」
「………」
「おじさん、チャーハンになった?」
「ああ。お前もおにぎりになったか?」
「うん。約束だったからね」
「「…フゥ~…」」
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