第5話 12月26日のクリスマス

「………はぁ…、疲れた…」

 師走とはよく言ったもので、男は連日の残業で疲れ果てている。

「もう10時過ぎてるのか。いつもより早く退社できたけど、早く帰らないとな」

 男はコンビニで安く買ったクリスマスケーキを持って、自宅のアパートへ向かった。



「ただいまー」

「             」

「フッ…、今日はどこに隠れているんだ?」

「             」

「どこかな~?………そこだっ!カーテンだろ!」

 男がそう言うと、カーテンの中から歯も生えそろっていない少女が笑顔で顔だけ出した。

「えへへ~。パパよくわかったね」

「おう。パパは昔かくれんぼで負けたことがなかったんだぞ~」

「さすがパパだね!」

「そんなことより、………ほら」

「うん?なにそれ?」

「クリスマスケーキだよ」

「えっ!?ホント!?」

「ああ。まだ食べてなかっただろ?しかも、他の家は今日クリスマスをやってないんだ。だから、今日はうちだけがクリスマスできるんだぞ」

「ええ!すご~い!」

「さあ、ケーキ食べるから手を洗ってきなさい」

「は~い!」

 少女は手を洗いに洗面所へ、男はケーキを切り分けるために台所へ向かった。



「ケーキおいしいね、パパ!」

「ああ。…………なあ、一つ聞いていいか?」

「ん?なに?」

「……一人で家にいて寂しくないか?」

「ううん。みかちゃんやさきちゃんもいるし、それにパパがいるもん!」

「………そうか」

 男はこれが嘘だとわかっている。妻を事故で亡くしてから仕事と家事に追われる日々。帰宅する時間も遅くなり娘と遊ぶ時間が減った。男が帰ると、娘は毎日部屋のどこかに隠れている。少しでもかまって欲しくて、少しでも遊んで欲しくて、少しでも寂しさを紛らわす行為なのは明白だ。できる限り娘を優先しているが、仕事をないがしろにできない。しかし、娘はそれを理解してくれる年齢ではない。もしかしたら娘は自分のことを恨んでいるのかもしれない。表面上は明るく振舞っているが、内心はとてもつらい思いをさせているのかもしれない。いつも笑顔を見せてくれるこの子が、自分の知らないところで泣いているかもしれない。

(この子には……本当に……謝っても謝っても………)

「パパ?」

「ん?え?なんだ?」

「はい、あ~ん」

「………あ~ん」

「おいしい?」

「うん。おいしいよ」

(でも今だけは、すべてを忘れて、この幸せな時間を満喫しても、バチは当たらないだろ?)

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