第40話

「フリーマー隊長! ヴァイラルとデュースがやられました!」


「……何?」


「中央広場にて勇者の姿を確認いたしましたが、どうやら七星が紛れていたらしく……」


「やはり、七星相手では通用しませんか……よろしい、ならば我が輩が出よう」


 白髪混じりの頭髪を掻き上げ、初老の男は立ち上がる。


「報告は任せましたよ、エスファガイツ」




――――


「さて……それじゃあ……」


 何処に出てくるか。まだ奴らの仲間が潜んでいる可能性がある以上、迂闊に動けない。


「探せないか?」


「やってみるよ。少し時間掛かるかも」


「さて……何処を攻めるかね。ユーリを狙ってるらしいし、軍本部で保護して貰うか」


 ニルスの膝元、そこは世界で一番の安全圏だ。任せられるのなら任せた方がいいだろう。


「そうだね……その方が――――」


 言葉を遮る爆発音。全て街の中、合計三カ所で発生。先程の怪物が生まれる際の爆発とは違う。ただ単に誘っているのだろうが……。


「街の連中の避難は大丈夫なのか?」


「それに関しては問題無い。たった今完了した」


 ふと気が付くとジューダスが俺たちの隣に立っていた。


「早いな」


「三番地区から向こう側に避難させてある。迅速に叩いてくれ」


「了解。真ん中の奴を速効で殺して西側を生け捕りにする。お前らは東の奴を頼む。殺す殺さないはそっちに任せる」


「うん。それじゃ、お願いね。ジューダスも皆の所に戻ってあげて?」


「了解だ。健闘を祈る」


 現れたのと同じようにして、ジューダスの姿は一瞬にして消える。


 俺とミユキは一度視線を交わすとそれぞれの敵を目指し屋根から跳躍する。




――――


「行くよ、ラッセル」


「おお。けどいいのか? ケルベロスの方に応援に行かなくても」


「彼は強いよ。僕達は僕達の仕事を果たそう」


「まっ、お前が言うならいいんだけどな」


 ミユキとラッセル、『水星』と『炎星』は共に駆け、目的の地へと向かう。


 幸いにして標的は直ぐに発見するに至った。


 初老の男、白髪交じりの頭髪。正した姿勢はまごう事無き紳士の装い。片手に杖を構え、眼帯で隠れていない方の目で二つの星を見上げる。


 街の至る所に見える破壊の跡。煙が立ち込め、見るも無残な姿となっている。


「これはこれは、まさか、かの七星が二人も馳せ参じるとは」


「お前さんがやったのか?」


「自己紹介を致しましょう。我が輩はゴズワルド・フリーマー。しがない紳士で御座います」


「嘘臭いなぁ……。一応言っておく、投降する事をおすすめするよ?」


「お優しい、実にお行儀がよろしい。対応としては百点を授けたい程ですな」


 しかしと、男は不敵に笑う。


「相手の実力を測れない様では、七星もまだまだということですかな」


 優雅な姿勢を崩す事無く、フリーマーは眼帯に手を掛ける。


「……異質極まりないね……ソレ」


 黒く塗り潰された中に光彩のみが金色に輝いている。見る者を怖気で支配し、見た者を屈服させる程の凄味を発している。


「この世の物では無い。神々の眼。我が輩は与えられた者なのだ」


 語るフリーマーの言葉を遮るようにラッセルの火炎放射が襲う。


「お行儀が悪いな」


「――――ッ!?」


 気が付けばラッセルの背後、既に回し蹴りの体勢に入ったフリーマーの姿があった。


「ブッッ!?」


 辛うじて防御を行うが、そんな物は無いも同然と言わんばかりに吹き飛ばされる。


 破壊された住居の跡を二軒突き破った所でようやく停止する。


「『火の縛錠ファイアジェイル』!」


 紅の炎に燃える鎖。星屑術で捕えるべくミユキが発動する。


「これが噂に聞く星屑術のエキスパートですか……存外、普通なのだな」


 ミユキの頭部を摑み、ラッセルとは反対側の住居へ投げ付ける。木材を打ち破り、レンガを砕き、土を抉り、停止する。


「冥土の土産ついでに教えてあげましょう」


 自身の異様な輝きを放つ左目を軽く差しながら。


「『星骸者ステラヴォイド』、我々はそう呼んでいます」


「ステラ……ヴォイド?」


「星神の骸より授かった肉体、血潮、それらを糧にし逆襲を為す。これはその為の力なのですよ」


「つまり……それは星神の亡骸から掠め取った眼だと言うのかい?」


 ミユキが瓦礫から這いずり出る。切った口内から流れ出る血を吐き捨てながらフリーマーを見上げる。


「掠め取ったなどと……人聞きの悪い。これは頂いたのです、星神様より直々に」


「死体漁りとは趣味の悪い」


「それこそ正しく人聞きが悪い。神を人間の物差しで語るとは、愚か愚か。嘆かわしいにも程がある。この世界を支配する魔王を殺せと、その為の力だと、弱きものを強く、強き者を更に高みへ。慈悲深き神が与えて下さった……これは寵愛なのですよ」


「なるほど、スヴァルトではソレが今の流行って訳か。どうりで腐った死体の臭いが立ち込めていると思ったよ。いやぁ、趣味が悪い」


「そのような挑発に乗るとでも? 我が輩には常に神が隣に着いているのです。故に、私は無敵なのですよ」


「これでも無敵なのかよッ!!」


 背後から迫るラッセルの拳。『炎星』で炎を放出し速度を増している。誰が見ても回避は不可能。誰もがラッセルの拳が必中する姿を夢想する。


 ――――しかし。


「『電星エレクトロ』」


 青い火花が弾けると同時にフリーマーの姿が一瞬にして掻き消える。


「なッ!?」


 それと同時に背後から放たれる雷速の蹴り。


「『雷の縛錠サンダージェイル』!」


 それと同時にミユキから放たれる黄色の鎖。フリーマーの足を絡め取り、全身に奔らせ拘束する。


「ラッセルッ!」


「おおよッ!」


 お返しと言わんばかりの炎を纏わせた回し蹴り。綺麗に捉えたソレはフリーマーの体を玩具のように蹴り飛ばす。


 真下に放たれたソレは地面を抉り飛ばす。通常の星光体ならば絶命は必至。しかし二人は油断も隙も見せず、土煙が晴れるのを見守る。


「成る程……コレは中々、良い動きですね。七十点」


 衣服が破れ、蹴られた肩が歪に歪んでいる。


「よろしい……ならば採点して差し上げましょう。満点を取らなければ待っているのは死、のみです」


「上等だコラァッ!」


「ボロボロの癖に格好だけは付けるんだね」


 一人の星骸者と二人の星光体が今、激突する。

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