トムテ④

 トムテさんに遺物マニアこと室長さんを紹介してから日は経ちまして、集落の子どもたちへと無事にリクエスト通りの……とはいかないものも中にはあったようですが、とにかくプレゼントは届けられたようでして、子どもたちの喜んでる姿をあちこちで見ることができました。

 素直に喜んでる姿を見せられると笑顔が伝染うつってきてしまいますね。ふふ。


 そしてそんな日が過ぎると、今度は新しい1年を迎え入れようと誰もが大掃除に追われる時期がやってきます。

 例にもれずわたしも仕事場の掃除をしていた、そんな日のお昼どきでした。


「やあ、相談所の。いま大丈夫かい?」


 突然ドアががちゃりと開いて、大きなトムテさんが訪れてきました。


 ドタン。

 本棚の上のホコリをはたこうと台に乗っていたわたしは、バランスを崩して床に尻餅をついてしまいます。


「痛っ…たた──あはは、すみません、突然なものでしたから」

「ああ、いや、こちらこそ申し訳ない。怪我はないかい?」


 わたしは慌てて立ち上がり、乱れた服を整えました。

 そして手足をくるくる回して痛みを確認をします。


「ええ、大丈夫そうです」

「そうか、良かった。実は帰る前にお礼をしたくてね、立ち寄らせてもらったんだ」

「ああ、室長さんのことですかね。長話に付き合わされて嫌にならなかったですか?」


 遺物大好き室長さんのことですから、きっとテンションがあがって面倒くさいことになっただろうなと思い、冗談まじりに尋ねてみました。

 すると、


「そんなことはなかったよ。むしろあれほどの夢を持っていられるヒトと話せるのは、幸せなことだと思うくらいさ」


 彼から返された言葉は、思いもよらないものだったので、


「そんなばかな」


 うっかり本音がダダ漏れました。


「そんなものかい?」


 きっとお互いにキョトンとした表情を見せ合っていたに違いありません。


 ふいに、彼の顔がキッチンへと向けられました。


「あの鍋はもしかしてミルク粥かな」


 無邪気にお鍋へと歩み寄るトムテさん。


「ええ、残り物なのでお恥ずかしいですが……」


 そんなにも大好きなのですかね。


「おお、やっぱりそうだ。いい匂いがね、そんな気がしていたんだ。どうかな、これを分けてもらえないか。ちょうど昼だろう、よければ一緒に食べようじゃないか」


 トムテさん、意外と図太い性格をしているようです。

 だけど無邪気な様子でそう言われてしまうと、断れませんよね。


「準備しますから、椅子にかけていてください」


 それに、これはトムテさんのお話を伺える滅多におとずれない機会なのですから。

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