シープ①
あぁ、眠い。
このところの空模様にはどうしたって
外は雨。雨というだけでも眠くなるのに湿度も高くて気だるさ増し増しです。
雨季といいますか、わたしのいる集落にも雨の続く時期がやってきました。ちょっとした雨であれば傘をさしてフィールドワークに出向くものですが、残念ながらおよそ何十日か続くこの時期の雨は、勢いの強いことが多いのです。
もちろん、弱い雨の日もあります。そんな日はタイミングを見計らっては外出を試みるのですが、そういう時に限ってしとしとと降っていたはずの雨が突然にザーザーと降り始めたり、挙げ句に雷なんか鳴り始めたりしてきやがります。
そういうことって、誰にでも経験があるものですよね?
ええ、わたしはしょっちゅうです。
こちらがちょっと油断を見せれば、傘は折られ、全身をびしょ濡れにされて、靴やお洋服は跳ねる泥に汚される。そんな散々な目に見舞われるのです。
この時期はそういう恐ろしいものなのです。
ピカッ──
「ひぁ」
突然、窓の外が真っ白く光りました。
ちょっと変な声が出てしまったのが恥ずかしい。
どぉぉぉ……ん──
光にすこし遅れて、遠くのほうから雷の落ちる音も響いてきました。部屋の中に聞こえてくる雨の音も強さを増したのがわかります。ついさっきまではそんな気配だってなかったのですが、天気はどんどん荒れていきそうです。
それにしたって、どうして雷というのはこんなにも心臓に悪い音と光をもって俺は危険だぞとわざわざ主張してくるのでしょう。どうしてもっと愛される形にならなかったのでしょう。
嫌だなあ。わたし、雷が苦手なんです。
だって怖いじゃないですか。
ピカッ──
どぉぉぉぉぉぉん──
「ひゃぁっっ!」
さっきよりも大きな音に頭を抱えて、わたしの体はビクッと震えてしまいます。
「あぁ……近いなぁ」
誰に話しかけるわけでもないのですが、呟きました。近くに落ちる雷が本当に怖いのです。こうしてる間にも、空は小さな音をたてながら明滅しています。
こういう時はベッドにもぐり込んで、丸まって、雷をやり過ごすに限ります。少し寝て、そして起きたら、きっと雷が止んでいるはずです。小さい頃に読んだ本にもそう書いてありましたもの。
毛布にもぐり込んで、うずくまって、目をギュッとつぶります。ときどき毛布とまぶたを突き抜けて刺さる光に驚くけれど、さっきよりは幾分もマシです。
早く夢の世界にいかなきゃと、頭の中で繰り返し唱える。けれど和らいだとはいえ光と音の不安に興奮してしまってか、うまく眠ることができません。
ギュッと力を入れていたまぶたが疲れたので緩めると、薄く目が開いてしまいました。すると目の前におかしなものがありました。視界は白く、それに触れる鼻先がくすぐったい。
これは何? と手で押しのけようとすると、それは温かくて、指が埋まるようなモフモフとした何かでした。
それは顔の前だけではありません。背中も足も温かくて、手で探ってみれば、わたしは同じようなものに埋もれていました。
「きゃっ、えっ──!?」
わたしはかぶっていた毛布をはねのけて、慌てて飛び起きました。上半身を起こして、辺りを見渡します。
そこはまったく心当たりのない場所でした。
わたしは、とても小さくてまるっこい、無数のひつじたちに埋もれていました。
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